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有効な監査指摘と改善提案②(20180404) [5-監査事例]

実際の監査の場面を設定して、より有効な監査指摘の事例を検討してみましょう。

◇宅配センターの定期業務監査
*業務管理の項目で、「組合員からのお申し出対応」の手順を確認し、監査日以前の1週間分の記録を点検しました。

〇監査調書記載内容
・組合員からのお申し出は、基本的に、センター事務パートが電話で受け付け、対応記録はイントラネット(業務記録書:お申し出記録)へ入力する。正式な回答や代替品のお届け対応は、管理者(この場合、副センター長とエリアマネジャー)決済の後、担当が実施し、完了を業務記録書に入力して完了。
・基本ルール上では、すべて、業務記録書(イントラネット・サーバー内)で行う事になっており、組合員情報(個人情報)のセキュリティには問題ないことが判った。
・イレギュラー対応を検証したところ、お申し出の対応結果から、直近で「回収を要するような商品事故(規格違い品のお届け)」が発生しており、購入者リストをもとに、事務パートによる電話連絡の作業を行っていたことが判った。

・該当品の購入者リストは、本部で作成し、共有サーバー内に保存されており、パスワード設定もされていた。しかし、A管理者は、これをコピーし、事務パートへ内部メールで転送し、作業指示を行っていた。
・作業指示の内部メールを確認したところ、当初パスワード設定されていた購入者リストのパスワードが解除されており、誰でも閲覧可能な状態になっていた。

・A管理者を呼び、事情を確認したところ、緊急を要する対応だった事と、事務パートが数人いて分担して行う必要もあり、作業性を優先させてしまったとのことだった。メールは2週間で消去される設定がされており、情報漏えいはないと考えていたとの事だった。
・作業を行った事務パートに確認したところ、送付されたリストデータは、自分のパソコン・ハードディスクに保存し、対応チェックを行ったとの事で、使用しているパソコンを確認したところ、デスクトップ画面に貼り付けられた状態であった。
・該当の購入者リストには、購入品の数量と約200人分の組合員コード・組合員名・電話番号・住所が紐づけされており、明らかに個人情報であると判断できた。

・商品回収の指示は事業本部からセンター長・副センター長へメールで届いており、その中には、購入者リストの扱いに関して注意事項も記載されていた。しかし、副センター長から各グループ長(課長)への指示は、口頭であり、一両日中に、組合員連絡を終える事と結果を報告する事のみが伝えられていた。個人情報の扱いに関する留意事項は伝えられていなかった。

〇以上のような問題事象について、どのような監査指摘が有効でしょうか?

①まず、何が問題なのかを整理する事が必要です。
・幾つもの問題がありました。
・商品事故発生という問題(仕入先・事業連合の問題)を除いて考えると、個人情報の取り扱いに関する問題、内部メールの使用ルールに関する問題、副センター長からの指示の問題、A管理者の業務の進め方の問題、等々、気になる所が多く、それぞれに関係しあっており、単純な問題ではないのですが、何処かに力点を置いていくことが重要です。

*この事例では、「個人情報の取り扱い」に関する問題を取り上げます。それは、「個人情報保護法」に違反する問題(リーガルリスク)、漏えいによる信用失墜(信用リスク)とそれに伴う事業損失(事業リスク)を重視するからです。

②問題発生の真因はなにか。
・情報保護のためのセキュリティはどうか。本部段階では、サーバー内保存とパスワード設定は「規程」と「手順」に沿って適正に実施されていましたが、センターの作業者による解除とコピー保存によりセキュリティが保全できていませんでした。これは、一つには仕組み上の限界とも言えます。
・本部からの指示には、「個人情報保護の注意」が添えられていたにもかかわらず、副長からA管理者には伝わっていなかった事も原因の一つです。
・実際に作業を行う、事務パートになると、送られてきたデータをパソコンに保管するという状態にあり、もはや、個人情報は全く保護できていない状態でした。事務パートは個人情報保護に関する意識・知識は持っていなかったという事も原因でしょう。
・そもそも、組合員への連絡を要する作業において、組合員コードや住所・電話番号などを一覧化したデータを作る必要があるかという事もあります。

*どれが真因か、見定めるのはかなり難しい問題です。「センターの個人情報保護に関する教育が不十分だった」というような真因表記になりがちですが、そうなると「教育を徹底する」という事が対策になります。これで解決するでしょうか?

*緊急に連絡する必要があるようなイレギュラー対応について、手順(作業ルール)の欠陥はなかったのでしょうか?マネジメントラインの在り方と個々への指示方法は正しかったのでしょうか?個人情報保護の視点で、現状の手順に問題はなかったのかが最大の問題になるのではないかと思います。

ここまで検証してくると、指摘事項と改善提案はほぼまとまってきます。
あとは、監査対象(管理者)とディスカッションで深めていくことです。

先の項目で示した、①統制不全型②統制不備型③運用不備型のいずれに当てはまるでしょうか。
このケースでは、③運用不備型と②統制不備型が混在している問題事象でしょう。
したがって、監査対象部署の個別監査における指摘事項は以下のようになります。

◇発見した問題事象
○○商品(商品名)回収に関するイレギュラー対応で、「個人情報保護規程」「個人情報保護マニュアル」に違反する事象が発見された。
本部指示に基づく「組合員への連絡作業」の中で、利用者データがコピーされセキュリティ解除された状態で作業者のパソコンに保管されていた。これを直接指示したグループマネジャーが個人情報保護について認識不足にあり、作業者への注意喚起も怠っていた。

◇想定リスク:個人情報漏えいリスク

◇改善提案
様々な作業プロセスにおいて、個人情報を取り扱うケースが存在しており、管理者は常に、個人情報保護の視点で作業指示を行うよう、徹底すること。
また、早急に、事業所全職員に対して、「個人情報管理規程」個人情報保護マニュアル」の再教育を実施し、特に「サーバー内データのコピー禁止」を徹底を図るとともに、管理者により、定期的にパソコン内データの点検を行う仕組みを導入する事。

こんなふうに記載できるのではないかと思います。(監査指摘に正解はありません。あくまで監査対象との合意で形成されるものですので、前述は一例として参考にしてください)

補足ですが、「個人情報保護」に関しては、ほとんどの生協で「個人情報保護規程」「個人情報取り扱いマニュアル」などが定められていると思います。法令改定により「特定個人情報」(センシティブ情報も含む)への対応も進められていると思います。
しかし、こうした規程では、目的や考え方、管理の仕組み、罰則などは示されていても、現実の多様な作業を網羅しているわけではありません。

個々の作業プロセスの中で、「個人情報・特定個人情報」の扱い(作成や利用)がある事を検証し、それぞれの作業プロセスにおける手順に明記し、作業者へ手順教育を徹底することが必要なのです。
ですから、個々の作業を指示する管理者が、作業プロセスを正しく理解し、作業におけるリスクを認識(この場合は、個人情報漏えいリスク)しておくこと。そして、作業指示するとき、注意事項として周知する事を確実にすることが必要です。・・これは、統制不備に当りますので、代表理事への報告事項となります。各事業部門・事業所単位へ、個人情報保護の視点で現状の作業を点検し、リスクについて検証し、改善を行うような指示につながる事が提案事項となります。

ハード面では、今回の事象の様に、基データをコピーし、セキュリティが解除されることができない様な措置を講じることも必要です。万一、間違って外部流出しても、活用できない状態を保持し続ける事です。サーバーへのアクセス権の設定だけでなく、個々のデータのセキュリティについても組織的検討を進める必要があります。・・これは、内部統制上の不備事項として、代表理事への報告事項とすべき点になります。情報管理部門に対して強化策の検討指示が出るように提案すべきです。
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有効な監査指摘と改善提案③(20180405) [5-監査事例]

もう一つ、監査指摘事例を取り上げてみましょう。

店舗業務監査のケースです。
新店開設からちょうど1年を経過した、売り場面積350坪程度の中規模店舗です。

現場点検作業で、店内を回ったところ、店内とバックヤードに6カ所の消火栓が設置されていました。うち3か所(売り場)で、消火栓の前に商品ゴンドラが置かれおり、すぐに使用できない状態でした。
該当箇所の売り場担当に確認したところ、「消火栓で売り場が切れてしまっているため、商品ゴンドラを置いている。消火栓を使うことはなく、使用方法も知らないので問題ないと思っている。」との返答を得ました。

店内配置図を見ると、12カ所に「粉末消火器」が設置されているはずですが、カウンター周辺の3か所で見当たらず、青果加工場に4本がまとめておかれているのが判りました。
青果担当に確認したところ、「先月、カウンターの配置変更を行った時、消火器の置き場がなくなり、まとめて置いていても問題ないと店長から指示があった」との回答を得ました。

これらの点を踏まえ、店長ヒアリングを行ったところ、「開設当初、消防署の検査を受け合格していた。その後、売り場の手直しを行った時、不都合な部分はあるのは認識しているが、日常的に問題ないと考えていた。」との回答を得た。

追加質問で、店舗の消防計画を確認したところ、年2回(春と秋)に消防訓練(通報・避難・消火)を行う事としているが、これまで一度も実施していないことが判った。
実施に関して所管する総務部からの指導を確認したが、店長からは「これまで一度も問い合わせもなかった」との回答を得た。
改めて、防火管理についてリスク認識を確認したところ、「消防訓練は必要だとは思っているが、営業時間内の実施は、混乱の不安もあり、具体化できてない。火元の不安がある、惣菜加工場やベーカリーには消火器も設置しており、売場が火元の火災の心配はないと思っている。」との返答があった。

このケースでが、何を問題とすべきなのでしょうか?
もちろん、消防法への不適合は明らかです。現状で、消防署の立ち入り検査があれば、是正指導がなされるはずです。したがって、法令違反(指摘指導)の状態は速やかに是正する必要はあります。
では、「消火栓・消火器の適正使用状態の確保」を指摘し、是正要求すれば済む問題でしょうか?
また、「早急な消防訓練の実施」を要求すれば済む問題でしょうか?

防火管理規程(内部規程)では、事業所管理者が、防火管理者であり、全ての責任を負っています。それぞれの部門(バックヤードや加工場)には、火元責任者を置き、防火に関する教育訓練を日常に実施する事、防火意識を高める事などが求められています。
この店長は、火災に対するリスク認識が極めて甘いと判断されます。まず、その点を問題とすべきでしょう。来店者の安全確保を最優先とした、早期通報・避難誘導と初期消火を全ての従業員が混乱なく実施できるようにすることは容易な事ではありません。まず、そのリスク認識についてじっくりヒアリング(ディスカッション)で深めていく必要があります。

その上で、何が重要なのかを整理して指摘する事が必要です。

〇基準
・消防法(適用)・防火管理規程
〇発見した問題
・売り場内の消火栓(3か所)で商品ゴンドラのために使用が難しい状態にあった。また、カウンター周辺の消火器が適切に配置されていなかった。いずれも消防法に定められた、防火設備要件を満たしていないと判断された。
・年2回実施が義務付けられている「消防訓練」が開設以来一度も実施されていなかった。
・該当箇所の担当者へのヒアリングで、消火器や消火栓・防火管理の意識が低く、現状では火災発生時に対応できないと判断された。
・店長の危機管理意識も低く、また、法令順守の意識も低いと判断された。
   (かなり厳しい表現です)
〇想定されるリスク
・火災による被害発生リスク・法令違反リスク
〇改善提案
・まず、店長自ら、消防法及び防火管理規程に定められた内容を把握し、現状の問題点を整理して下さい。
・その上で、消防訓練を早急に実施し、実施報告を所管する消防署へ提出してください。
・また、消火設備の適正化を行ない、定期的に点検する仕組み(実施サイクル・実施者・実施記録)を作って下さい。

これが個別監査所見書での指摘事項となるでしょう。
しかし、この問題は根が深いと考えます。
店長が回答したように、「営業時間内の訓練実施の不安」は十分理解できます。ただ、他の同規模店舗では営業時間内でも実施している事例はあります。おそらく、そういた実例を共有できていれば、すぐにも着手できたはずです。
また、開設以降、消防訓練が未実施でも、所管する総務部からの問い合わせさえなかった事も大きな問題です。消防法対応はもちろん現場管理者の責務ですが、全体を統括するための管理部門(総務部)が機能を果たしていないことも問う必要があります。「消防訓練」の実例共有も、管理する部署からの情報提供や指導が速やかに行われていれば問題なかったはずです。
したがって、代表理事への報告では、生協組織全体として、防火管理体制が機能していない問題を挙げておく必要があります。所管する総務部の課題であり、内部統制委員会の検討課題にもなるはずです。

結局、現場へ丸投げになっていると、業務優先になりがちで、法令違反や対策不備が生じやすくなり、組織全体としての重大なリスクが高まることに繋がります。この点を経営陣にしっかり理解いただき、必要な指示を出してもらう事が重要でしょう。

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テーマ監査①重点リスクからの設定事例(20180416) [5-監査事例]

内部統制によるリスク・マネジメントの結果をもとにした「テーマ監査」の事例として、「大規模災害リスク」を紹介しましょう。

①監査目的
・東日本大震災以降、「大規模災害リスク」は重点リスクに毎年掲げられ、対策の強化が進められてきた。
・危機管理規程・大規模災害対策マニュアル・BCP 等で管理基準や規程整備を進めてきたが、現場の運用実態との乖離や対応不備が起きていないか危惧されるため、監査する。

②実施要領
センター・店舗・福祉事業所をサンプリングし、マニュアル教育や防災訓練、防災備品の備蓄状況を調査。
危機管理部門(管理センター)の管理情報(現場の実践状況の管理情報)との突合、不備事項の洗い出しを行い、リスク対応を評価する。

③監査結果
A)事業所30カ所をサンプリング調査した結果は以下の通り。
・防災マニュアルの基礎教育は、月次テストを活用して実施しており、未実施の事業所は無かった。
・大規模災害マニュアルで定められている「年1回の防災訓練(消防訓練とは区分して)」は15カ所で未実施だった。未実施のうち、過去3年では3か所あった。未実施の事業所管理者からのコメントで「消防訓練を実施しているので防災訓練は不要と考えている」というものが10カ所に上った。残り5カ所は、実施義務がある事を知らなかった。
・防災備品の備蓄は、全部署で年次点検は実施されていたが、大規模災害マニュアルに定められている「備品数量」の不一致は全ての事業所で発見された。事業所管理者からのコメントで「人員変更があったり、事業所で検討し不要なものをリストから外したりした結果、マニュアルの数量・品目との差が生まれている。」というものが半数程度あった。

B)危機管理部門(管理センター)情報との突合
・危機管理部門では、マニュアル教育・防災訓練・防災備品点検結果について、事業所からの報告を取りまとめており、そのデータ(集約一覧表)とサンプリング結果を突合させところ、防災訓練の実施に関しては消防訓練実施で防災訓練を実施したことになっている事、防災備品は点検を実施したかどうかの報告の実を記録している事が判り、実態を正確に反映しているとは判断できなかった。作成担当者に確認したところ、前任者からの引継ぎによるもので、特に問題を感じていなかった。
・危機管理部門長(管理センター長)へのヒアリングで、調査結果を報告したところ、「大規模災害マニュアル策定以降、細部に関しては見直しをしておらず、実態とのずれが生じている。」との返答があった。
・また、現在の運用状況に関しては、「東日本大震災ほどの大規模災害だけでなく、局地的災害も頻発しており、昨年には豪雨による浸水や配達不能等のトラブルが発生した事もあり、マニュアルの見直しをしなければならないと考えている。」との返答だった。
・具体的な取り組みや計画については、「現在のところ、特段の計画・予定はない。」との事だった。
・「現場の実践状況の管理に問題があるのでは」との質問に対しては、「現場からの報告待ちになっており、不正確な情報が含まれている事は問題だが、全ての事業所の実施状況を正確に把握するのは実務上難しい。また、危機管理部門として現場を指導する関係にない。」との回答があった。

④監査結果から導き出せる事(所見)
・内部統制リスク・マネジメントで重点リスクとされ、対策の強化に取り組んできたにも拘らず、運用実態は極めて不十分であり、大規模災害対策(危機管理システム)は機能しないことが危惧される。
・危機管理規程・大規模災害対策マニュアル・BCPが作成以降、見直しがされておらず、現場の実態を反映できていない事から、早急に見直しを行う必要がある。-P(計画)の問題
・現場(事業所)においては、日常の備えとして、教育訓練と災害備品管理が重要にも拘らず、半数近く防災訓練を実施しておらず、備品管理も組織全体の管理との齟齬があり、万一の際の対応に混乱が生じる恐れがある。-D(運用)の問題
・運用状況に関して危機管理部門での点検・監視する仕組みも担当者任せになっており、不完全なものだった。―C(監視)の問題
・したがって、システム全体の問題点を認識できておらず、是正・改善が進んでいない。-A(改善)

⑤指摘事項
・危機管理規程・大規模災害対策マニュアル・BCPの見直し作業を早急に行い、定期的な見直しの仕組みを確立する事。
・大規模災害対策マニュアルで定められた「防災訓練」を全事業所で確実に実施できるよう、危機管理部門から指導を行う事。
・防災備品は、年次体制に照らして、必要品目と数量を一覧表にまとめ、期日を決めて補充・入れ替えを行うとともに、実施記録を取る事。
・基礎教育・防災訓練・防災備品点検等の監視項目と監視方法を改定し、危機管理部門での監視体制及び内部統制委員会への報告を確実に行うよう、ルール化する事。

⑥トップへ報告(提言)として
・最大の問題は、危機管理部門が、組織全体を把握し、運用強化に向けた指導力を持っていない事にあると思われます。
・また、内部統制委員会機能である「リスク評価と対策強化(リスク・マネジメント)」についても、的確に行われているとはいいがたい状況にあります。
・内部統制委員会並びに危機管理部門に対して、大規模災害対策の抜本的見直しを行い、指導力を発揮して現場の運用レベルの向上を図るよう指示いただきたい。


〇実際の監査では、膨大なサンプリング結果や管理部門データを整理し、一覧表に落とし込むことが必要でしょう。また、監査調書には、もっと多くのヒアリング記録ができるはずです。ここで示したものは、特徴的な部分に絞っておりますのでやや言葉足らずになっていることはご容赦ください。

〇テーマ監査では、組織横断的な監査が一つの特徴ですが、その手続き(やり方)として、直接現場の監査を行うだけでなく、質問票や資料入手という手続きも組み合わせると合理的にできると思います。

トップへの提言は、「内部統制上の不備事項」として監査報告書に記載されるものです。今回のケースでは、危機管理部門の長が、権限を持って、システム改善に取り組むため、トップによる指示(バックアップ)を取りつけることで、改善への後押しの役割も果たせることになります。(危機管理部門の長が動きやすくすること) 監査の結果から、問題点を指摘するだけでなく、組織が改善に向けて動きやすくなるための提言ができることは、内部監査の成果物として最も大事なものだと思っています。

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テーマ監査②業務監査結果からの設定事例(20180417) [5-監査事例]

業務監査の結果から、テーマ監査の事例として、「勤務時間管理」をピックアップした例を紹介しましょう。

 

①監査目的

   業務監査を通じ、複数の店舗で、勤務時間の未打刻・時間修正(残業未認定と推察)が特定の職層(副店長・主任)に集中していた。また、配送センターでも、同様の事象が確認された。当該事項は、重点リスクとされ、統制強化に取り組んでいるものの、根本的な改善にいたっていないと判断されるため、監査する。

 

②実施要領

   業務監査未実施の事業所へ帳票点検(勤務時間記録)を実施し、全事業所の打刻・残業認定の実態を集約。人事部データの突合・分析。

   人事部ヒアリングを実施し、時間管理の強化策の進捗状況及び問題発生時の指導内容を検証し、原因特定と有効な改善策を検討する。

 

③監査結果

A)データ突合結果

   全事業所の1か月間の勤務時間記録からの特徴点として、退勤時の打刻修正が、宅配センターでは管理職層(副長・グループリーダー等)の45人中、半数近い21人、店舗は副店長と主任(40)はほぼ全員、福祉事業所では管理者の半数の13人に及んでいる事が判った。そのうち、90%以上で、週次・月次の残業累積時間の上限(36協定)を超えていないものの、ぎりぎりの状態である事もわかった。担当レベルでは同様の修正はなかった。

   打刻修正申告書は、主任やグループリーダーは作成していたが、副長や副店長、福祉管理者は、自ら打刻修正作業を行う権限があり、書面で作成していない実態もわかった。

   人事部記録も、タイムカードシステムのデータを勤務実態と認定し、事業所記録との不整合はなかった。システムデータ上、修正後打刻時間を記録しており、修正実態までは把握できないことが判った。

 

B)人事部ヒアリング

   人事部長へのヒアリングで、上記のような実態についてコメントを求めたところ、「様々な要因で打刻できないケースがある。最終的には、本人申請に基づく修正時間を採用しており、適正に残業認定されているとの認識であり、36協定違反とならない限り、指導対象とはしていない。」との回答を得た。

   業務監査の中で、複数の店舗で「36協定違反にならないよう、副店長や主任が、基準時間を超過しないよう自ら調整している事は暗黙の了解になっている」との回答があり、その事実について人事部長に質問したところ、「そういう実態があるなら、該当管理者へ適正な残業認定を行うよう指導する。」との回答を得た。

 

④監査結果から導き出せる事(所見)

   労働基準法及び「労働時間適正把握のためのガイドライン」に照らすと、直ちに法令違反とは言えないものの、同ガイドライン(3)労働時間の考え方、オの項にある「使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと」と推察される状況が生まれている事は重要な問題と言える。

   今回の問題事象は、時間管理(残業認定)権限のある、管理者が自らの労働時間を調整しており、自己決済による誤運用が原因にあり、特に長時間勤務になりがちな職位者では36協定違反を逃れるために意図的に調整を行っている事は明白である。

   管理部門(人事部)では、労働時間把握に関して、電子データに依存し、現場の誤った運用実態を把握できておらず、現状では監視(モニタリング)が不十分と言わざるを得ない。

 

⑤指摘事項

   「労働時間の適正把握のガイドライン」内容を人事部で再検証し、打刻修正による労働時間の意図的な調整を防止するための改善策を実施する事。

   一つには、労働時間の自己決済は、部長以上とし、副長や副店長・グループ長・主任・福祉事業所管理者等の時間修正は必ず、申請書により上位者(上長)が行うよう徹底する事。また、時間修正が実施された場合、申告書が適切かをチェックするよう、人事部の点検手順に加える事。

   根本的な問題として、副長や副店長・グループ長・主任・福祉事業所管理者の過重労働があり、業務改善・時間短縮を進める様、組織的な取り組みを具体化するよう、内部統制委員会への提案を行う事。

 

⑥トップへの報告(提言)として

   いわゆる「サービス残業(賃金不払い残業)」を産みだす、労働時間管理システムの欠陥が発見されており、現状では、労働基準法違反のリスクが高いと考えます。労働基準法遵守の意識向上のため、「時間短縮・打刻徹底・残業時間の適正認定」を指示していただきたいと考えます。

   特に、各事業所管理者(センター長・店長・福祉事業部門長)への指導を強化してください。

   人事部による労働時間の監視体制も不十分であり、人事部の権限強化・体制強化が必要と考えます。

 

〇労働時間に関する問題は、単純ではありません。今回事例として取り上げてみましたが、なかなか難しい問題でした。20年、30年前には、「早出や長時間のサービス残業は当たり前。休日も返上して仕事をする。」という風潮もあり、そういう中で働いてきた40代・50代以上の管理職にとって、労働基準法や労働時間の適正把握ガイドラインに示されているような内容は、なかなか受け入れがたいのが本音ではないでしょうか。

 

〇実際、私も監査の中で、ある管理者から「配属されたばかりは、毎日が勉強。仕事にならないのだから残業とは認めない。」という発言を聞いたことがあります。しかし、これが助長し、常態化すれば、明らかに「ブラック企業」です。過労死も他人事ではありません。

 

〇政府の示す「働き方改革」とは違いますが、やはり、効率的で合理的な働き方を求め、日々改善を進める事は重要です。その結果、適正な就業時間で成果を上げる事に尽きるでしょう。そう言っても、今、労働力不足が顕著になってきています。生協への就職を躊躇う若者も多いと聞きます。将来にわたって事業を継続・拡大するには、労働力の確保は極めて重要な問題です。そのためにも、労働条件の改善は重要です。労働時間・休日取得等の基本的条件の改善を進められるよう、内部監査もしっかり指摘し改善提案できるようにしたいものです。


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テーマ監査③不祥事・事故などからの設定事例(20180418) [5-監査事例]

 

外部指摘や不祥事・事故などからの「テーマ監査」として、会計士監査の指摘をもとにした例を紹介しましょう

 

①監査目的

l  会計士による経理部点検の際、講師料などの報酬計上プロセスで、源泉徴収額の誤謬が発見され、改善指摘を受けた。会計処理ミスの要因特定と再発防止のために、経営管理部同席にて監査する。

 

②実施要領

l  会計士指摘事項の追加確認(不適切処理の具体的事象の確認)を行った後、講師料など報酬支払いが発生する部署(組合員活動にかかわる部署・機関運営にかかわる部署)で、講師料決定にかかわる文書と支払申請手順、作成記録を検証。

調査結果をもとに、経理部の処理データと突合。経理処理手順の確認。その上で、経理部と経営管理部合同で、手順の再整備の協議を行い、再発防止策を確定する。(内部監査はアドバイザリーとして関与)

 

③監査結果

l  追加確認では、当年4月から9月までの半年間の、経理処理帳票を点検し、5件で源泉徴収額が計上されていない事が判り、修正申告を行ったことを確認した。

l  発生部署から、該当の5件に関する支払決定文書と支払申請書を取り寄せ、内容を確認したところ、源泉徴収に関する記載が抜けており、報酬額において、源泉額を引いた形での支払いを合意したものがなかったことが判明した。

l  それぞれの申請者へヒアリングしたところ、いずれも、源泉徴収に関する知識を持ち合わせておらず、講師からの請求額をそのまま支払資申請書に記載したことも判明した。

l  経理部及び発生部署それぞれに、講師料などの報酬支払いに関する手順書を確認したが、手順書や規程類は存在していないことが判った。

l  申請及び支払い処理については、熟練の経理担当者の作業内で進められており、今回の5件は、同一パートによる処理作業であり、点検作業は、個別ではなく、一括処理(表紙作成)となっている事も問題と判明した。

 

④結果から導き出せるもの(所見)

   講師料など報酬支払いに関する規程・手順が未整備である事が第一の問題である。結果、属人的業務となっており、現状では同様のミスが防止できない。(Pの問題)

   申請決裁及び支払い処理は、他の申請と同様の手順が適用されるが、個別決済ではなく、日次分のとりまとめ決済処理となっており、個別申請の承認決済は、発生部署(管理者)の承認のみとなっており、現場での決済ミスを発見できる手順が実施されていないことも問題であった。(Cの問題)

 

⑤指摘すべき事項として

   講師など源泉徴収を必要とする支払に関する手順を策定し、発生部署及び経理部内に周知する事が必要である。手順に関しては、職務権限規程及び経理規則との整合性を図るため、経理部及び経営管理部合同で、検討し策定を進める事。

   今回の件では、経理部内の業務分担において、作業者と点検者が不明確で、点検不備が発生しており、他の経理処理においても、ミス防止策が不完全と言える。経理作業全体において、作業と点検・承認の役割の正常化が必要。

 

⑥トップへの提言

   経理部における経理作業のPDCAが未確立な部分が発見されました。経理作業は、税法などの法律への対応も多岐にわたっており、専門知識を必要とする領域も広いため、高度なスキル・知識習得は欠かせません。一方、事務作業はパート職員が多くを担っており、職員による監視点検も重要となっています。経理を担う職員の育成に注力いただきたいと考えます。

 

〇このような事例はレアなものかもしれません。ただ、トップへの提言でも述べたように、経理は、かなり高度な専門知識を必要とする業務です。熟練の職員によって担われるところも少なくありません。そのために、手順整備がおろそかになっている事象はきっとあるはずです。

 

〇内部監査では、そうした専門領域への監査には限界があるため、事例の様に、経営管理部等の専門職との合同での監査(ピアオーディット)が有効です。時には、会計士の力もお借りするのも必要かもしれません。あとの項目で述べるつもりですが、法定監査との連携(監事・会計士)は、ただ、監査情報の交換に留まらず、連携して監査することも視野に入れて進めることが今後さらに必要となると思います。


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様々な監査手法①定期監視活動(20180501) [5-監査事例]

「個別監査(業務監査)」は、最も一般的な監査手法です。事業所を対象として、年間計画に基づき、スケジュール化し、段取りを踏んで丁寧に行う事で、高い監査結果を得られます。しかし、監査リスクを考慮した包括的監査になりがちで、労力と時間の負担も大きくなります。

しかし、経営トップ(代表理事)からは、日々動いている組織・事業に対して、内部監査からタイムリーでより効果的な改善提案を期待される場面もあります。計画的な業務監査は「静態」監査(監査日の状態に限定される)であり、トップの期待に応えられないこともあります。

そこで、監査の限界とトップの期待に応えるため、監査の対象や深度を考慮した、様々な監査手法を「監査フレーム」に組み入れる必要があります。

様々な生協で、自組織にフィットした手法で監査は実施されていると思いますが、何かのヒントになればと、これまで実施した特徴的な手法を紹介いたします。

 

(1)定点観測監査(定期監視活動)

「往査」では、「静態」(往査日における状態)での監査結果に留まるために、監査リスクが生じる側面があります。毎日の業務の積み上げによる成果や日次・週次・月次の変化、季節変動など、推移変化を捉えることで、対象や領域が抱える問題点を炙り出す事ができます。

 

方法としては、人事部門や経理・管理部門が管理しているデータを入手し、推移をまとめ、傾向分析を行う事でした。数か月のスパンで動向を把握することが必要な作業です。あるいは、前年・前前年の同時期の比較も行う事もあります。

 

私がこの手法で行ったのは、未収金管理・レジ誤差管理・労働時間管理等でした。

 

①「宅配事業の供給未収金管理」

供給未収金額が著しい状態(億単位)にある事を総代会で指摘されたことが発端でしたが、構造を調べてみると、日常的な監視システムがほとんど機能していないことが判りました。数値の把握は経理部で行っているものの、削減に向けた対策は未着手の状態でした。

 

宅配センターごとの月次の未収金発生件数と金額、督促移行件数と金額を追っていくと、特定のセンターで平均値より高い発生率にあることや、特定の期間で未収金が大幅に増加する事等、特異な実態が浮かび上がってきます。

こうした事態を発見した際に、発生センターへ「原因と対策・改善に関する質問票」を送付し、回答を得る事に取り組みました。

中には、センター長はこうした事態に全く気付いていないケースがあり、センター内部の管理体制が脆弱であることが判ることがありました。

また、本部部署に対しても、注意喚起を行うとともに、未収金発生のメカニズムの解明と対策強化を要請する事とし、生協全体として供給未収金の管理システムが順次構築されることになりました。

 

最終的には、月次の未収金発生件数は3000件レベル(17万件請求に対して)にとどめることができ、督促期限切れ(いわゆる回収不能に近い状態)は100件レベルとなり、監視当初の3分の1以下まで減少できました。結果だけでなく、月次の発生を監視する部署も設置され、未収金発生の初期対応が強まった事と督促移行前の対応が進んだことなどの仕組みが強化され、年度決算における「貸倒引当金」も当初の3分の1以下まで縮減され、経営上の効果も見られました。

 

②店舗レジ管理(レジ誤差)

レジ誤差に関しても同様に、毎月のレジ記録(集計システム)を抜き出し、レジ番号ごとの推移を分析することを続けました。異常値が発見された場合、前述と同様に、発生店舗・店長宛てに「原因と対策・改善に関する質問票」を送付し、回答を得る事に取り組みました。

当初は「現金授受の段階のヒューマンエラー」が主要因であるとしていた店長や本部も、特定の店舗で発生率が高い事や、特定曜日・期間に多い事などの実態を把握し、状況を提供することで、発生要因の深堀が進み、現場における「誤差への注意喚起」も強まりました。

特に、新人アルバイト採用の多い春先の誤差発生率が高い事から、チェッカー教育の仕組みの見直しが進みました。また、ヒューマンエラーの要因分析が進められ、現金授受の手順の見直しも行われました。最終的に、自動釣札レジの導入へ繋がりましたし、セミセルフレジの導入にも進みました。

恥ずかしい話ですが、監視を始めて、レジアルバイトによる不正も発見されてしまいました。発生率や発生傾向(曜日・時間)を丹念に見ていくことで、異常な動きを察知することは重要です。

「犯罪者を作らない」組織作りも社会的な要請です。内部監査も貢献出来ることはあります。

 

「福祉事業未収金管理」

福祉事業は保険請求制度を基本にしており、請求・審査・入金の段階があり、概ね2ヶ月程度の「未収金」が計上されることになります。

国保連・個人・行政他の3種類の未収金が計上されており、その管理は福祉事業現場と経理部門とで常に点検しておくことが必要です。

福祉事業部門の監査でも触れましたが、この管理に関して、不具合がある事を会計監査で指摘されたため、プロセスの整理と再構築に関しては、内部監査もアドバイザリーとして関与しました。

それ以降、プロセスが問題なく運用されているかを点検するために、経理部門と福祉事業部門から、毎月の事業高計上と未収金残高データを入手し、事業所・行政単位で推移分析を行い、異常値を発見するという作業を行いました。

また、新たに、個人未収金の回収不能という事態が浮かび上がってきました。高齢者世帯の経済力の問題、「パラサイト世帯」の高齢化などの社会問題が背景にあり、宅配未収金とは別の問題が存在していて、事業所単位ではなかなか解決できない事態がある事も判ってきました。

 

本来、こうした取り組みは、事業本部や管理部門が2次防衛ラインとして機能すべきでしょう。ですが、そういう指摘や要請をしても、なかなかすぐには変わらない。それならば、具体的な事象をもって迫ることで、システム改善を促すことも内部監査の役割ではないかと思います。

 

現状を把握し、推移・動向を分析し、表面上では見えない真因に辿り着くこと。そして、具体的な改善策を提案し、執行部門へのアドバイスへつなげる事。内部監査にしかできない重要なプロセスではないでしょうか?

 


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様々な監査手法②店舗点検活動(20180502) [5-監査事例]

もう少し、監査手法のバリエーションを紹介しましょう。

 

②店舗点検活動

 これは、店舗事業部門監査の予備調査に位置づけて既に説明しましたが、もともとは、内部監査交流会の中で、隣のG生協で「品質管理活動」として実践されていた内容を学ぶ機会がありました。

 内部監査の領域がどうか悩んだ部分はありますが、使い方によっては有効ではないかと考え、取り組むことにしたものです。

 

 「店舗の売り場は業務の結果が現れる場所」です。

 企画作り・売り場作りの計画をスタートとし、発注・仕入・加工・点検・陳列の工程で売り場が作られます。そして、日々の供給状況を監視・分析し、手直し・改善されていくことで、素晴らしい売り場が維持されます。

 

 いわゆる「PDCAサイクル」の結果が現れる場所であり、組合員・来店者へのサービス品質そのものであるわけです。と同時に、食品衛生法・表示法などの法令順守が具現化する場所でもあります。

 

 そう考えると、定期業務監査で、帳票点検や店長ヒアリングを行うよりも、売り場の実態をしっかり把握することの方が、有意義な業務監査結果を導けると言えます。

 

 最初に、私が取り組んだのは、年末迎春供給前の時期(12月初旬)でした。売場は大きく転換し、イレギュラーな品揃えが増加し、温度管理・品質管理に最も注意を払う必要がある時期だからです。

 

 点検に当たっては、「利用者目線」を大事にしました。

 

 自分自身は職員であるため、小さな不備があってもある程度理解しようと努力します。しかし、利用者(来店者)はそうではありません。ちょっとした判りにくさでも、購買意欲の低下につながります。不安要素があれば手が出ません。不愉快な思いをすれば、二度と来店されないかもしれません。そういう「来店者の目線」をもって、売り場点検を行う事にしました。

 

 点検したのは、POP・プライスカードをベースに、商品表示と日付でした。

 また、日配品や水産・冷食など温度管理を要する売り場では、温度管理状態(記録)も点検しました。

 衛生管理状態を見るため、売り場の隅々の清掃もチェックします。バックヤードや加工場も点検しました。

 

 すると、残念ながら、POPやプライスカードのミスや日付管理上のミス(期限切れ)、温度管理ミスなど、多数の問題が発見されました。

 

 これらは、全て、写真に収めるとともに、問題のある商品を売場から撤去、売り場管理者への問合せを行いました。また、結果は「点検報告書」にまとめ、翌日には店長へ提出しました。

 

 初めての点検結果は、店長や事業本部にとっては驚きだったと思います。

 日常業務では適切に実施しているはず、来店者から特に意見や苦情を聞いていない等、自分たちの業務を客観的にみることができない為、概ね良好と理解していたからです。しかし、結果は惨憺たるものでした。期限切れ商品の供給が発見されたり、プライスカードが明らかに間違ったものがあったり、法令基準温度を満たしていない冷蔵冷凍ケースがあったり、ほとんどの店舗で、正常な売り場管理ができているとはいいがたい状態だったのです。

 発見された問題事象は、すぐに是正(手直し)されましたが、残念ながら、根本原因には至らず、その後年2回(夏・冬)、同様の点検活動を行いましたが、店舗全体の指摘数は減少とはなりませんでした。

 

 ただし、店舗単位では大幅に改善したところもありました。

 そこでは、職員・パート・アルバイト全員で、売り場点検活動をルーチン化し、担当外の売り場を分担し、相互チェック体制で臨んでいました。

 また、他の店舗では、店長による定期点検評価(売り場担当評価)を行う活動を組み込み、常に緊張感をもって売場管理を行うように意識改革に取り組まれていました。

 また、バックヤード在庫の大幅削減に取り組むことで日付管理の改善に取り組んだ店舗もありました。

 

 一方で、指摘事項が増加した店舗もありました。

 因果関係としては、来店者数の予想以上の減少による不良在庫の増加やパート・アルバイトの離職による体制不足といったものが背因として考えられました。こうした店舗に対して事業本部からのマネジメント指導・支援が不十分な事も問題でした。

 

 「店舗の売り場は業務の結果が現れる場所」と考えると、「問題事象はマネジメント不全の結果」あり、是正(手直し)だけでは不十分です。

 

 なぜ、そうした問題事象が生まれたのか、どのプロセスに問題があるのか、監視・モニタリングは機能しているのか等、探っていかないと、再発します。

 当初は、売り場点検活動は単独で実施していましたが、後年は、点検活動の結果を定期業務監査の予備調査に位置づけ、問題事象が多い店舗は「リスク重点対策店舗」と位置づけ、定期業務監査も売場管理に重点を置くようにし、真因追及と有効な改善策の提案につなげるようにしたのです。

 


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様々な監査手法③内部統制自己評価を用いた監査(20180503) [5-監査事例]

「内部統制自己評価を用いた監査」は、特殊な事情で実施したものですが、アドバイザリー機能の一つとしてみた場合、ある程度有効だと思っておりますので、紹介しましょう。

 

大規模宅配センターが新設され、2つのセンターが統合され、新体制で運営が始まった段階で、トップから、新センターのマネジメント強化に関するアドバイザリーの指示がありました。

当該センターの定期業務監査は、半年後の予定でしたので、何か別の方法でと考えてみました。

まず、2つのセンターが統合されることで、どのような問題が発生するかを考えました。

当然、二人いたセンター長のうち、どちらかが長に残ります。副長も4人から二人へ減員されます。マネジメントラインが大きく変わることは明白です。マネジメントラインの変更は、運営手法やルールも含め、相容れない要素を多分に含むことになります。混乱や不満は当然高まるはずです。これは、不正の動機に繋がり、不正リスクが高まることが予測されます。

業務プロセスでは、それぞれのセンターの規模の違いで、職務分担の違いがあるために、統合により、抜け落ちや重複が発生することも予測されます。事故やミスの発生リスクは高まります。

また、配属される職員数も、センター全体では、100人を超え、委託配送業者を含めるとさらに大人数のセンターとなるために、日常コミュニケーションの欠如やハラスメントのリスクも高まることが予測されます。

何より重要なのは、センター長・副長・グループ長等の運営管理メンバーが、何処までリスク認識を持ってマネジメントに臨もうとしているかだと考えました。

そのための手法として、「CSA(コントロール・セルフ・アセスメント)」はどうかと考えました。

 いきなり、小難しい内容ではなく、運営管理メンバーが自らの問題と捉えて参加できるよう、できるだけ平易な内容にすべきだと考えました。

 以下が「進め方」として提示したものです。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  1.  監査主旨説明(目的・進行・結果対応) 10

    「専務懸念事項」であること。-運営上の問題が起きていないか(可能性も含め)。旧センターの運営ルールとの違いから、「不平不満」が発生していないか。

    「不正のトライアングル」

l  動機(不平不満・自己利益・劣悪な労働環境・人間関係)

l  機会(管理不備・統制不備・監視不備・マネジメント不在)

l  正当化(自分だけじゃない・他にもやっている人がいる・上司が悪い)

    ハラスメント問題(パワハラ・セクハラ・いじめ等)

    業務の効率性・有効性-業務課題の適正分担・能力発揮・目的の明確化等が管理者によって為されているか(経営者のコミットメント)

  今回の監査では、「適正なセンター運営」が出来ているかどうか、アシュアランス(保証)とアドバイザリー(助言)を行うのが目的。

  不正摘発とか管理者評価を行うのが目的ではありません。‐専務懸念の払拭‐

   2.  直感テスト実施 5

  30問の直感テストを各自記入-一旦回収して、初期値として反映する。

  結果の公表-直感レベルでのセンターの運営課題の整理<重点リスク評価>

 

   3.  監査:実査 80

  直感テスト項目(30)に沿って実査

4.  まとめ 15

  監査結論を導き出すための振り返り・話し合い

   5.  監査所見と手続確認 10

  本日の監査結果を「所見」として整理。指摘事項について是正・改善報告書の提出を求めます。尚、監査結果は、月次の監査報告会で、専務へ報告し、必要に応じて事業部門統括へも報告します。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

肝になっているのは「30問の直感テスト」です。

 

≪実際のテスト≫

 

区分

項目

設問

 
 

1

目標管理

方針・計画

全体方針は周知されていますか?

 

予算

予算達成に向けた実行計画は策定されていますか?

 

個別目標

チーム(エリア)ごとの目標や課題は明確に示されていますか?

 

個人目標

個人ごとの業務目標は示されていますか?(面談実施評価)

 

月・週単位

週次・月次の具体的な目標は示されていますか?

 

2

マネジメント

運営ルール

センターの運営に関して、明示されたルールがありますか?

 

職場会議

職場会議は定期開催され、積極的な参加で運営されていますか?

 

日報・週報

日次や週次の業務報告は、丁寧に作成され、上長に提出されていますか?

 

コミュニケーション

部下からの相談は積極的に受けていますか?

 

ケア

上長は部下に有効な指導・支援をしていますか?

 

3

管理業務

商品管理

お誘いサンプル・誤欠配品・追加発注品の管理は適切にできていますか?

 

現金管理

小口現金はルール通り管理・運用されていますか。(出納責任者と管理者の二重チェック)

 

鍵管理

施設・金庫・トラックの鍵類は毎日点検していますか?〈預かりの鍵も含めて)

 

施設管理

防犯防火対策はできていますか?(施設点検表による点検運用はどうか)

 

申請決済

ルールに沿って、申請・決済(押印)はされていますか?

 

4

労務管理

契約書類

定時職員全員の労働契約は期限内に結びましたか?(更新内容の適切さ)

 

タイムカード

出退勤時のカード運用は適切に行われていますか?(片打刻の有無)

 

残業時間

残業時間は申請と認定ルール、およびタイムカード打刻に即して運用していますか?

 

安全衛生

労働安全衛生委員会は定期開催し、施設・業務の改善策が取られていますか?

 

業務改善

時間短縮のための業務改善は取り組んでいますか?(成果もふくめ)

 

5

トラブルミス(不適合)発生改善

交通事故

事故発生時の処理と検討会、再発防止のための指導は適切にできていますか?

 

交通違反

交通違反撲滅のために安全運転教育をしっかり行っていますか?

 

業務ミス

業務上のミスは適切に報告され、処置と再発防止が取られていますか?

 

ハラスメント

セクハラ・パワハラ・いじめはありませんか?

 

労働災害

労災は適切に報告され、再発防止策は取られていますか?

 

6

センター固有の課題・項目

委託先

委託先との定期的な協議を実施し、目標達成のために共同体制はできていますか?

 

スタッフ

組合員活動や共済推進等、今年度新たに配属されたスタッフとの関係は良好ですか?

 

近隣

近隣住民からの苦情や申し出には適切に対処していますか?

 

他事業連携

店舗・福祉事業との連携は進んでいますか?

 

後方・連合

連合や事業本部・管理部門とは、必要な支援や情報提供が取れる関係にありますか?

 

 

8名の運営管理メンバーそれぞれに、03点満点の評価を入れてもらい、合計して平均値を算出して、点数の低い項目を重点にディスカッションを通じて、原因(真因)へ迫りました。そして、対策について議論し深め合いました。

実際の取り組みでは、予算管理と実行計画の問題、業務会議の開催内容の問題、労務管理の問題の3点が課題であると認識され、それぞれについて、改善方向を深めることができました。

監査終了後には、所見書と指摘事項を提示し、センター長から「是正・改善計画」も提出いただきました。是正改善計画はすぐに実行され、職場運営の改善が進んだと考えています。

監査評価(センター長からの評価)でも、「監査は心地よいものではありませんが、自センターの弱みや強みが改めて確認でき有意義なものでした。強みは伸ばし、弱みは改善し、適正なセンター運営に努力します。」との感想も出されました。

 なにより、この取り組みを通じ、グループリーダー(主任級)が運営に関して積極的に発言し、問題提起しており、いわゆるボトムアップ型のセンター運営を体感できたことは大きな成果だったと思います。当年度の予算は見事に超過達成し、労働時間短縮も進んでおり、運営改善・経営改善に一定寄与できたものと自負しております。

 

■「CSA」とは

CSAControl Self Assessment:統制自己評価とは、業務スタッフを監査手続に巻き込む手法。「効率のよい内部監査を行う」ことが可能となる。業務管理者と業務担当者に「ファシリテーション」を通じて特定の問題や業務プロセスについて議論し自己評価してもらう。

1995年にIIAInstitute of Internal Auditor:内部監査人協会) によって、「正式に文書化されたプロセスでビジネス機能に直接関与する経営者やワークチームが、稼働しているプロセスの有効性を判断し、そして、いくつかの(または全ての)ビジネス目的達成のチャンスがそれなりに保証されているかどうかを決定する。」というCSAの定義が与えられている。

■CSAの実施

CSAのファシリテーションは、議論のテーマと成果物を設定し、参加者の意見交換を成果物という目標に向かってまとめあげていく作業と言える。その、議論を目的の成果物へと集約させるまとめ役を「ファシリテータ」と言い、ファシリテータは、ファシリテーションを成功させる重要な役割を担ってる。

CSAでは、このファシリテーション以外にも業務担当者に幅広く自己評価の意見を聴取するチェックリスト(アンケート)もよく使用される。

Deloitte/デロイトトーマツHPより一部引用)


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「労務監査」の勧め① [5-監査事例]

 皆さんのところでは、人事労務の領域について、どのような監査をされているでしょうか?

 

 私は、着任2年目に外部研修で「労務監査の実務講座」を受講し、実践してきました。

 ちょうど、この時期に、長時間労働やメンタルヘルスによる休職が増加、新規採用者の離職増加など、人事労務上の課題が大きくなってきた背景があり、トップの懸念事項にもなっていました。

 

 ただ、人事・労務には専門領域が多く、生半可な監査は出来ません。そこで、人事部長にも相談して、社労士による外部研修を受けることにしたのです。

 

 外部研修では、社労士の方が講師となって、労務監査の背景・プロセス・ケーススタディ・監査範囲と監査項目手順等のパートに分けられており、非常に判りやすく、受講することができました。

 今回、その内容をベースに、私が取り組んだ「労務監査」をご紹介いたします。

 

2012年当時、すでに、大手チェーン店で「店長の過労死」や「残業代未払い」「アルバイトへの不当な契約」など、いわゆる「ブラック企業」という言葉が新聞紙上を賑わしていました。係争案件も増加しており、多くの企業で対応に追われる実態が見られました。

生協においても、前述のとおり、長時間労働やメンタルヘルスによる休職者の増加、労基署による立ち入り調査対応などもあり、人事労務管理の立て直し・強化が喫緊の課題と考えられていました。

こうした背景を持って、労務管理に取り組みました。

 

しかし、労務監査の対象範囲は広く、労務管理・人事管理・福利厚生・安全衛生・雇用契約・教育研修・モラール・給与・社保手続きなど、数多くの管理プロセスを持ち、さらに、採用前(募集段階)から退職後までの期間に及ぶものです。

これらすべてを対象とした監査はかなり大掛かりになり、一人体制では到底太刀打ちできるものではありません。そこで、研修で得た知識を活用し、シンプルに重点的で効果的な監査を目指すことにしました。

 

-労務管理:日本人材育成協会HPより一部抜粋-

労務管理とは一言で言えば「労働者・人材の有効活用」という事です。

「生産性を上げる事」「利益を上げる事」「商品を開発し社会に還元する事」等、企業としての目標を達成するために、労働者にやる気を出して働いてもらうことを目的とした人材の活用を意味します。

 内容については、労働者の募集、採用に始まり、配置、異動、教育訓練、人事考課、昇進、昇給、賃金や労働時間の管理等、退職に至るまでの一連の流れを適正に管理する事です。

 

(1)労務監査の視点

労務監査に取り組む時の視点として「5+2」の視点がある事を学びました。

①LC(リーガルチェック:遵法対応)

・この点は専門家の協力を得て行う必要があり、最初は就業規則の洗い直しから。記述内容がすでに労働基本法などの労働関係法に抵触するようなものが横行している実態がある。顧問弁護士とも意見交換しながら進める。

 

②RM(リスク・マネジメント:危機管理・トラブル回避・訴訟対応)

・費用発生リスク・訴訟リスク・行政処分リスク・風評被害リスクの視点で、人事労務に内在するリスク分析を行う必要。それへの備えがどこまでできているかを監査する。

 

③ES(エンベロイサティスファクション:従業員満足)

 

④CS(コーポレートサティスファクション:企業満足)

 

⑤SS(ステークホルダーサティスファクション:株主満足)

 

CP(費用対効果)とCD(費用削減)

・上記①から⑤までの視点に対して、労務管理の実情を分析し、予防対策に打つ費用や損害賠償などの発生費用のバランス(コストパフォーマンスとコストダウン)を見て指摘・提案につなげる。

 

     特に、重視したのは、LCとRMでした。法令順守は当然の責務であり、リスク・マネジメントは内部統制・組織統治の原点だからです。また、監査に当たっても「リスクベース監査」の展開にはリスク評価は欠かせません。

     ES/CS/SSの3点。これは、監査人の立ち位置に関係する事項と理解しました。従業員・経営者・株主の期待(満足)のどこに重点を置くか。生活協同組合という組織において、もっとも重視されるのは何かという事と、内部監査人に何が求められているかが重要です。労務管理の領域においては、3者満足を満たす事が大事だと思います。研修会の講師(労務管理士)は、企業満足(CS)を軸に進めるべきと強く提唱されていましたが、おそらく、バックグラウンドの違いによるものが大きく、生協という組織体では少し違うのではないかと思います。


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「労務監査」の勧め② [5-監査事例]

 基本的視点は前述のとおりですが、実際にどのような監査になるのかをプロセスで整理します。

 

■監査プロセス

 

①監査対象

当然、人事労務の管理部署(人事部等)が対象となるわけですが、それだけでは片手落ちです。労働関係法令は基本的に事業所単位の遵法が求められるため、事業所単位で、監査をすることが必要です。したがって、定期業務監査と経営監査を組み合わせた監査を展開する必要があります。

 

②監査項目

 これは「リスクベース」視点で抽出することになります。しかし、初めから適正なリスク評価ができるわけではありませんから、労務管理の基本となる「就業規則」「雇用契約」の点検から取り組むことが有効でした。これにより、自組織における労務管理の基本的な考え方を理解するとともに、法令チェックも同時に行うことになるからです。

 労働基本法や労働関係法令は、運用細則や課長通達などまで含めると、絶えず変更されています。特に、大きな社会的事件が発生した後、運用細則が変更されたり、周知のための課長通達が出されたりするなど、注意して対応し、就業規則等の変更を行わないと法令違反になりかねません。そうした変更手続きのプロセスが構築されているかもチェックポイントになります。

 

③実際の監査項目(ワークシート)

 事業所単位の監査の際には、以下の様なワークシートで項目を設定していました。

 

 

就業に関わる事項(労務管理)

1)

●規程・基準・手順
・管理者は、労働基準法を遵守し、就業規則・時間管理等の内部規程を理解し、適切な労務管理を行う義務がある事を理解しているか?

2)

●自部署の労務管理上のリスク評価
 ・長時間勤務・休日未取得等の法令リスク・業務の不均衡によるモチベーション低下や離職リスク

3)

●管理体制
 ・時間管理や業務調整などのマネジメントラインは有効か?
 ・ラインから外れた職員はいないか?管理職へのマネジメントはできているか?

4)

●教育
*労働基準法の周知(全員・法的義務)と管理職層への教育(時間管理や休日管理の手順教育)

5)

●運用(1)
*雇用契約の実施と管理(パート労働法準拠)
 ・適切な作成と合意、保管ができているか?・契約内容通りの勤務実態か?(就業月報点検)
■契約書点検

6)

●運用(2
*時間管理と休日取得
 ・タイムカード打刻状況(管理職層も含めて) ・残業申請・認定の運用-36協定違反(日・週・年)
 ・時短者・高齢職員への配慮 ・休日取得状況
 ・特別休暇(慶弔・生理・介護育児など)の取得
■就業月報点検

7)

●モニタリング
・就業月報を点検し、労働時間の実態や課題を把握しているか?
・時間内の業務終了(時間短縮)や休日の確実な取得に向けた、業務改善や職務分担の調整等のマネジメントが適切に実施されているかを点検しているか?

8)

●不適合管理
・違反・問題発生時に速やかに主管部局へ報告されているか?その内容は有効か?■報告書点検

9)

●是正・改善:違反・問題発生後の是正・再発防止策の有効性
*報告書記載の「是正・改善」に具体性と有効性があるか?
*報告書に基づき適切に実施されているか?再発していないか?

10)

IT対応
*人事総務部管理の「労務管理DB」は活用されているか?

 

安全衛生に関する事項(労務管理)

1)

●規程・基準・手順の理解
*「労働安全衛生法」への遵守姿勢を持って、「安全衛生管理規程」は理解し、業務にあたっているか?

2)

●労働環境・労災などの安全衛生上のリスク評価はできているか?
・労災事故(事故隠し=重大な法令違反)、体調不良等の要因(環境)、公衆衛生不備による病気発生、メンタルヘルスやハラスメント問題等のリスク

3)

●管理体制
*法令及び内部規程に基づく管理体制ができているか?
  ・安全衛生管理者資格の取得・安全衛生委員の選出、法定職場では資格取得者の登録義務
  ・安全衛生委員会・推進委員会の開催(■安全衛生委員会開催報告書点検)

4)

●教育・訓練
*安全衛生教育はされているか?
 ・中央労働安全衛生委員会からの指示・情報を基にした教育
 ・労災事故の情報共有、・インフルエンザや熱中症・ノロ対策の教育

5)

●運用(1)
*労災防止(労働環境)点検活動=5S推進は実施しているか?
*労安法:管理者の義務事項=労働環境の整備は実施しているか?
*具体的な点検や改善を行っているか?

6)

●運用(2)
*健康診断・細菌検査の実施は計画通り実施されているか?
*メンタルヘルス対策(メンタルチェック)は取られているか?

7)

●モニタリング
*安全衛生に関する日常監視活動
・健康管理や労災等の発生の有無確認を行っているか?

8)

●不適合管理
*労災発生時の報告はされているか?
*安全衛生(健康管理・メンタルヘルス問題)発生時の報告はできているか?
■労災事故報告書点検

9)

●是正・改善:違反・問題発生後の是正・再発防止策の有効性
*報告書記載の「是正・改善」に具体性と有効性があるか?
*報告書に基づき適切に実施されているか?

10)

IT対応
*人事総務部管理の「労務管理DB」は活用されているか?

 

 事業所単位の監査は、終業にかかわる分野では5)から8)の「運用」に関わる項目が、安全衛生に関する分野でも、「運用」に関わる項目が重点になります。ここで得られた監査結果から、人事部対象とした「テーマ監査」の証拠として整理したものを準備することになります。

 

④テーマ監査の項目(ワークシート)

 年度ごとで重点は変わりますが、初年度のワークシートは以下のようになっていました。

A:勤怠管理

1.労働時間の管理

1.時間管理データの有効性チェック

2.実態調査の実施状況

3.時間外の認定方法

2.勤怠指導(時間短縮の取り組み)

136協定違反発生の確認

2.事業所指導体制

B:労働安全衛生

1.労災事故管理

1.事故発生状況確認

2.再発防止策の有効性確認

3.事業所指導実態

4,報告・補償対応

5.労災規程の点検

2.健康管理

1.健康診断の実施状況

2.産業医の勧告

3.メンタルヘルス問題の把握

4.緊急事態発生時対応

3.安全衛生委員会の運用

1.中央労働安全衛生委員会・職場委員会

2.職場巡視活動の状況

3.遵法対応点検

 

 今、振り返るとかなり稚拙な内容だったことが判りますが、当時、人事総務部への監査ではかなり突っ込んだ指摘を行っていました。

 その後、監査項目を見直し、標準項目として以下の様に整理しました。

 

A:計画・方針

1.年度計画・方針の確認―重点確認

2.リスク評価と対応状況確認

B:コンプライアンス点検

1.労働関係法の改定状況の把握

2.労働関係法令への適用状況確認

 ・労働基準法―周知

 ・労安法-安全衛生管理者の届け出・資格取得・労災報告等

 ・道交法-安全運転管理者届出等

C:人事管理

1.年度人事計画の確認

2.研修等育成計画の進捗確認

3.評価制度の運用確認

D:労働契約等の管理

1.パート・アルバイト雇用契約の管理確認

2.給与・時給等の運用確認

E:就業(時間・休日)管理

1.勤務時間管理の運用確認

2.休日取得状況の確認

3.業務改善・時間短縮の取り組み確認(時短委員会開催)

F:安全衛生管理

1.労働災害の管理状況(発生・再発防止策)

2.健康管理(定期健診・2次検診等)の運用状況

3.メンタルヘルス・休職等の管理

4.ハラスメント問題などの把握状況(内部通報含む)

5.安全衛生委員会の開催確認

G:安全運転管理

1.交通事故発生・交通違反の管理

2.安全運転教育の運用確認

 

■上期・下期継続監査スタイルの採用

 労務管理は対象領域が広い事から、上期と下期に分けて監査する事にしました。

 〇上期には、主に計画やルール・法令点検(A/B/C)を中心に実施しました。

       狙いとしては、早い段階で計画や方針を確認し、リスク対応ができているかを点検することで、年度内で修正が進められる事が優位だという事です。また、法令点検も早期に行う事で、不備への対応が進められリスク回避できると考えたからです。

 

 〇下期は、リスクの高いプロセスの運用管理(D/E/F/G)に重点を置きました。

       下期になれば、労働時間や休日、労災は交通事故など、運用実態・結果データが揃ってきます。そして、その実態に対して、管理者や管理部局による改善指導や教育訓練の有効性といった点も見ることができます。より実態を反映した監査指摘ができるために、下期監査の重点項目としました。

 

 この形で、4年ほど実施するようになり、人事労務に関する組織的課題を明らかにし、内部統制上の不備事項として、具体的な改善提案を行いました。同時に、人事部内のマネジメントの改善にも効果を発揮することができるようになりました。


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「労務監査」の勧め③ [5-監査事例]

労務監査を定期的に実施する中で生まれた、具体的な成果について許される範囲でご紹介します。秘匿義務がありますし、現実的な数値資料などを提示すると、労基法等に係る重大事態を招きかねませんので、ご容赦ください。

 

1.福祉事業部門の業務改善の進展

 

労務管理に関しては、福祉事業部門は、3Kとか5Kとか揶揄されるほど、厳しい実態にあります。

 

これは、単にマネジメントの問題では片づけられない問題に起因していることは、現場の職員は皆承知しているようです。特に、介護保険制度に基づく事業を主体に行っているところでは、「介護報酬の低さ=労働の評価の低さ」が経営問題となっています。待遇改善の上乗せ支給等の補完制度もありますが、基礎部分で、労働対価自体の設定が、根本的に低いのです。それでも、事業体として赤字は避けねばならず、おのずと、人件費の抑制に動くことになります。結果的に、職員不足や長時間労働が生まれ、管理職種においては「サービス残業」は黙認されてしまうような厳しい労働環境を作り出してしまいます。

 

私のいた生協では、正規職員・パート・ホームヘルパー等ざっと1500人以上の介護職員がおり、事業所数も、通所・短期入所・訪問介護・居宅介護支援・訪問看護等30カ所ほどありました。

 

人事部が取りまとめる「勤怠時間データ」(打刻データ)では、宅配事業・店舗事業・生活サービス事業・管理部門などと比較しても、著しい長時間勤務の実態がありました。

 

監査を始めた初年度には、36協定違反は、実のところ、半数以上の介護職員に見られるものでした。さらに、現場の業務監査によって、管理職(所長・事業別管理者)では、打刻後の就業(サービス残業)も確認されていました。

 

もっとも、深刻だったのは、そういう実態を、当の本人たちが「仕方がない」と安易に受け入れてしまっている事でした。問題がある事は認めつつも、改善はできないという諦めが先に立っていたのです。これでは、毎年、新規採用する職員やパートは長続きせず、結果として、年度途中に体制不足に陥り、サービス量を制限せざるを得ない状況を産み、結果として、収支改善はできないという負のスパイラルに陥ってしまうのです。

 

したがって、内部監査として、労務監査の着手の最初の課題を「福祉事業部門の労務改善」としました。

 

初年度の指摘(課題)は、「サービス残業の撲滅」でした。法令違反は明らかですので、反論の余地はありません。3ヶ月程度で8割以上の職員の打刻が変わってきました。明らかに、残業時間が増加したのです。当然、人件費は増加し、収支は悪化します。そうなると、課題は、福祉事業本部(管理部門)へ移ります。

赤字削減目標を掲げる福祉事業本部としては、費用をいかに抑制していくかを真剣に考えます。事業所の統合や管理職の再配置による管理経費の削減、赤字事業所へのテコ入れ、高家賃事業所の移転等、これまで「長時間・サービス残業」に甘えてきた経営スタイルの刷新を図る事へ舵が切られる事になったのです。

しかし、これはまだスタートに過ぎません。労働環境の改善(業務改善・時間短縮)こそ本丸なのです。物件費や管理経費の削減には限度があります。もともと、福祉事業の経営構造は、他の事業と比較すると、収入に対して人件費率が異常に高いわけです。経営改善には収入に見合った人件費率を維持することが重要であり、物件費抑制は経営効果が低いのです。

では、労働環境をどう改善するのか。答えは、現場にあります。事業本部でいくら頭をひねったところで、机上の空論に過ぎません。各事業所で管理者(マネジャー)を中心に、業務改善・時間短縮を真剣に考えることを、次の段階の監査指摘事項としました。

しかし、各事業所の管理者(所長・事業部門管理者)自らの課題にすることは容易ではありませんでした。先に述べたように、現場では「諦め」が蔓延しています。その中でも、管理者は、「犠牲的精神」の強い職員が任命されがちなのです。「問題は認識しているが改善などできない」と考え、自らサービス残業を受け入れてしまっている職層なわけです。

内部監査として、「法令違反が発生しているので是正するように」という指摘は簡単です。でも、実際、なかなか是正・改善は進みません。おそらく、そういう生協は多いのではないでしょうか?そのため、福祉部門への監査が及び腰になっているように感じます。

私は、この問題(長時間労働・サービス残業)を指摘するにあたって、事業所の経営構造(収支構造)とリンクして、管理者とのディスカッションに注力しました。

例えば、居宅介護支援事業(ケアマネ・ケアプラン作成事業)では、収入は、ケアマネの受け持ちプラン数と単価で決まります。どちらも、介護保険制度で上限や報酬が定められていますので、青天井というわけにはいきません。(ある情報では、いくつかの生協ではケアマネの受け持ちプラン数上限を無視しているところもあるようですが・・サービス品質の低下は避けられませんし、減算指導も覚悟すべき問題です。)要するに、ケアマネ人数とプラン数と単価の掛け算で収入は確定します。また、加算制度(ケアマネ人数・主任ケアマネ配置や定期的なケース検討など)で収入増加策も積極的に利用する事も重要です。

一方で、人件費はどうなっていくのか。ケアマネの基本業務(相談・サービス調整・プラン作成・モニタリング・サービス管理等)をいかに合理的に実施するかがカギになります。居宅介護支援事業では、ケアマネジャーは専任業務であり、他の干渉を受ける事はありません。新人も経験者も資格を有する以上、皆、同等に仕事ができます。言い換えると、「属人的業務スタイル」が基礎になってしまうわけです。どの業務にどれくらいの時間をかけるべきか、それぞれのケアマネに完全に任されているという事です。ですから、ケアマネには「セルフマネジメント(自己管理)能力」が問われるわけですが、そういう教育訓練など受ける機会はなく、結果として、それぞれ試行錯誤しながら自らの業務スタイルを作っているという状態です。同じ量の利用者を分担すれば、能力差による長時間勤務が生じる危険性があります。そして、管理者自ら、長時間労働を受け入れてしまっていると、だれも問題化しませんし、改善の動きなど生まれようもありません。(ここが最大の問題です)結果、収入と費用はアンバランスな状態になり、いくら頑張っても収支改善しない、いや、頑張って仕事をすればするほど人件費は上昇し、赤字が拡大するという構造になるわけです。このように、事業所の収支(赤字削減)目標達成には、時間管理が欠かせない、マネジメントの強化が重要であるという認識に行きつくまで、話を深める事が重要なのです。

それでも、すぐには、結果は生まれません。しかし、1カ所でも好事例が生まれれば、それを次の年には他の事業所へ伝える事にしました。通所事業や訪問介護事業でも同様のメソッドで、管理者とじっくり向き合い、話し合い続けました。そして、好事例を広げていく中で、改善事例が過半数を超えれば、それが次のレギュラー(標準)になっていくと考えたわけです。

この監査を進めることで、事業部門単位の話し合い(通所・訪問介護・居宅介護支援などの同事業所の部会)も進み、業務で使用する書式の統一や手順の整備、標準化が進みました。属人的になりがちな業務を標準化することで、個々の能力の違い(計画や調整能力、文書作成能力なども含め)を見ながら、管理者のマネジメントも向上したと思います。

私が退職する年には、福祉事業部門は、他の事業部門と比較しても、残業時間は大幅に削減されていましたし、サービス残業はほとんど見られないようになっていました。

実際には、ここに至るまでには、書ききれないほどの苦労や痛みがありました。もっと深刻だった事業所では、「業務改善・時間短縮」を真っ向から反対(所得減少へ抵抗)した一部職員が一斉に退職し、一時、事業所存続の危機さえも生まれましたから、すべてが上手くいったわけではありません。(福祉事業部門管掌役員の指導力の問題も含めて問題の所在は複雑でしたが)

しかし、少なくとも、現在の状況として、3Kとか5Kという言葉は当てはまらないほど、改善は進んでいますし、おそらく、現状も常に「業務改善」の視点で介護サービスの質向上へ努力していると思います。

長くなりましたので、二つ目の成果は明日の記事へ回します。

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「労務監査」の勧め④ [5-監査事例]

時間管理に関して、もう一つ深刻な問題があります。

これは、事業部門に拘わらず、おそらく全部門で見られる問題でしょう。また、管理部門ほど深刻な問題となっているとも考えられます。

 

それは、「中間管理職種の長時間勤務・サービス残業発生」の問題です。

 

先の、福祉部門の問題にも含まれていますが、宅配事業や店舗事業では、部長職(センター長・支所長・店長)以外は、すべて一般職員とされていました。副センター長・次長・副店長など、現場に最も近い所で管理を主任務としている職種で、職務上、イレギュラー対応(お申し出・トラブル・事故等)の現場責任者となります。もちろん最終責任は、部長職になるわけですが、会議などで部長職は不在がちであり、現場職員にとっては、中間管理職種のトップが拠り所です。現場で急な欠員が出れば補充のために現場に出ることも多く、休日すら満足に取れていないという厳しい状況ではないでしょうか?

 

 

2.中間管理職種の業務改善の進展

 

 人事部データ(打刻データ)の分析の中で、長時間勤務傾向のある職員を定点観測すると、副店長や副センター長・グループマネジャーや部門主任等の中間管理職種の名前が毎月の様に抽出されました。

 また、年間休日取得データでも、有給や指定休日の未取得も同様の傾向が認められました。

 

 全体の時間管理改善の運動が強まるにしたがって、担当者レベルの長時間勤務が減る一方で、中間管理職種の長時間傾向が強まり、36協定違反ぎりぎりの勤務時間になる傾向もみられました。明らかに、時間修正を行っていると判るケースもありました。

 

 現場監査では、事業所全員分の打刻データと時間管理表を突合し、不整合を洗い出すことにしました。その結果、中間管理職種ではかなりの量の打刻修正(残業カット)が行われていることが判りました。現場では、打刻データをもとに時間管理表を作成し、月次で人事部へ提出する手順になっていますが、その作業で、自らの打刻の修正を中間管理職種で行っていたのです。ほとんどのケースは、上長(センター長や店長)からの指示ではなく、自らの意思で行っていたようでしたが、最終点検者であるセンター長や店長も黙認している実態があり、かなり重大な問題だと判断しました。

 

 最初に着手したのは、宅配センターでした。

 センターは、「センター長-副センター長-グループマネジャー(課長職)」がいわゆるセンター運営メンバー(管理者層)となっていて、大規模センターでは総勢100名程度の職員のマネジメントを行うことになります。現在のセンターは、システム化や分業化が進み、多様は雇用形態と職種で構成されています。配達業務だけ見ても、正規職員・パート・委託業者がありますし、出庫物流業務や事務業務などすべてが関連しセンター業務が滞りなく進むようなプロセスとなっています。さらに、配送効率の追求から、シフト配送も広がり、物流の早朝業務(朝6時)から最終終了(午後10時)までの長時間稼働が当たり前となりました。

1日の全ての動きを管理者が把握することは困難な実態となっています。したがって、セクション(グループ)ごとに管理者が置かれ、それらすべてを把握するのは実質的に副センター長という事になります。順調に進んでいれば良いのですが、何かトラブルがあれば、早朝から深夜まで対応を余儀なくされる立場となり、当然、気の休まる日はないというのが実情でしょう。

グループマネジャーは、10名程度の担当者のマネジャーで、課長職が中心です。配送パートの増加に伴い、急な欠勤も多く、グループマネジャーは配送体制の補充に回る事も多く、結果的に、残業が発生しがちです。

このように、センターの中で、副センター長やグループマネジャーは、ルーチンワークよりもイレギュラー対応のために定時で業務を終了する事が難しいポジションにあります。前述のように彼らは時間管理業務も行っており、自らの残業時間を確実に把握できるところにあるため、組織全体で「業務改善・時間短縮」が取り組まれた際に、センター長からの呼びかけに答える形で、不適切な打刻修正を行うようにならざるを得ない状態にあるわけです。(もちろん全てがそうでありませんが、自らの評価を高める意識からそういう風に動きがちでした)

 ここまで見ていくと、これは、構造的で根深い問題がある事は明白です。いくら、内部監査で「36協定違反や労基法に抵触する事態であり、速やかな是正が必要」と指摘したところで、簡単には解決できるものではありません。幾つかの問題事象を取り上げ、一つ一つ、もつれた糸を解すような改善が必要でしょう。

 

一つ、特質的に取り組んだ事例があります。

 

以前にもブログ記事に掲載していますが、センター運営メンバー全員を対象にした「CSA監査」です。自らの事業所の課題について、運営メンバー全員で抽出し、解決への道筋を自ら探して行く手法です。実際には、二つのセンターの統合という機会に、運営ルールの改善(統一化における課題改善)をベースに、各管理者の業務整理(重複業務の整理や廃止)を進めることで業務改善と時間短縮を進めるものでした。CSAを実施する中で判ったことは、それぞれの管理者がお互いの業務内容について余り理解していない事でした。おそらく、業務プロセス全体を把握しているのは副センター長だけかもしれませんでした。したがって、個々の抱える業務には、重複も多く、集約的に実施すればかなり時間短縮につながる事も発見されました。また、インフラの整備やPCデータの活用などを進めることでさらに改善できる可能性も発見されました。CSAを通じて、長時間勤務の問題を共有できたことで、以降は、合理的な業務プロセスを求める気風や思考が強まりました。端的に言えば「長時間勤務する事は業務改善できていない証拠」という認識が高まり、この意識がセンター全体へ広がったという事が最も大きな成果だったと思います。

 

 二つ目に取り組んだことは、センター監査の結果を部門監査報告にまとめ、事業本部(宅配事業本部)監査で、本部長ヒアリングを通じて、部門課題として共有し、改善に向けた対策を要請した事です。本部長として、センターの時間管理問題はある程度認識していましたが、実態を知る事で深刻さを共有でき、具体的には、モデルセンターを設定し、人事部門と事業本部による「業務改善プロジェクト」を発足させ、日常業務を洗い出し、一つ一つの作業時間の目標設定や不合理な作業の変更を1年間かけて取り組んで、残業ゼロを目指すことになりました。これはかなり高い成果になりました。一番大きな成果は、それまで定着しづらかった配送パートの定着率が向上し、日常の体制安定が図られたことです。結果として、副センター長やグルプマネジャの残業は大幅に減少しました。そして、この結果をもとに水平展開へと動くことになり、部門全体で「長時間勤務の削減」が当然という認識作りにつながりました。

 

 まだまだ、改善の余地はありますが、あきらめムードだったところに一筋の光が差したようで、おそらく、今後も業務改善の取り組みは継続していくと思います。これこそ最も大きな成果ではないでしょうか?

 

 経営トップは、コンプライアンス・経営改善等を重視し、労働時間の削減(時間短縮・サービス残業撲滅等)を宣言する事はあっても、現場の受け止めは、かなり冷ややかになりがちです。トップが言ったところで、現場はそんなに簡単には動きません。特に、管理者層は、計画達成のためには時間外労働はやむを得ないという意識は根強いものです。彼らの意識をどう変えていくか、自らの問題であり、取り組めば成果につながるという実感を得ない限り前進はありません。そのために、内部監査は「アドバイザリー機能」を発揮していくことが重要だと考えます。

 ただ、残念な事もあります。私のいた生協は、店舗事業は大きな赤字を抱えて苦しんでいました。店舗事業トップは総代会で「赤字半減を目標に取り組む」と宣言し、「売り上げ拡大と現場の人員削減」の大号令をかけ、現場への圧力を強めました。結果として、正規職員へのしわ寄せが強まり、開店から閉店後までの勤務を強いられるような状況も見られました。内部監査で問題を指摘しても、部門トップが「積極的に黙認」している実態では、現場は変わらないのです。・・・これ以上は止めておきましょう。組織問題になりかねませんね。

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「労務監査」の勧め⑤ [5-監査事例]

時間管理に関する事例を2つ取り上げましたが、労務管理監査では、これ以外にも重要なテーマは沢山あります。

「労働安全衛生」に関する課題もそのひとつです。

労災事故だけではなく、メンタルヘルスの問題も年々増加しています。ハラスメント問題も重要でしょう。職員の高年齢化に伴う健康管理の課題も年々強まってきています。

人事部へのヒアリングを行うと、こうした問題はまるで「モグラ叩き」で、一つ解決してもすぐに次の問題が生まれるような状況にある事を、部長や課長から嘆きの様な回答を聞くことになります。

多様な雇用形態になり、職員間の価値観も多様化して、物事を単純に捉えることが難しくなってきている事も大きな要因ではないでしょうか。だからといって、見過ごすことのできない問題も多く、一つ一つ丁寧に取り組むしかないでしょう。

 

(1)「労働安全衛生管理プロセス」では、「安全衛生委員会」の仕組みが基本になります。

法定上、設置が義務付けられていますね。しかし、問題は運用実態です。私のいた生協では、「安全衛生管理規程」が明示されており、事業所単位の「安全衛生委員会」と組織全体を統括する「中央労働安全衛生委員会」が設置されていました。しかし、運用内容は、余り実効性があるとはいいがたいものでした。

 

1.最初は、この「P-D-C-Aサイクル」の「P(計画・設計)」の部分にメスを入れました。

P、すなわち、仕組みの中枢となる「中央労働安全衛生委員会」の役割・目的と有効なメンバー構成(法定)、毎月開催の内容の検証を行いました。そして、アドバイザリー機能として、事務局となる「人事部」とともに、改善に取り組み、人事部管掌役員の関与・指導を強めるよう、提言しました。プロセス全体を統括する骨格の立て直しから着手したわけです。

労働安全衛生法・労働安全衛生管理規程の二つを基準に、労働安全衛生のあるべき姿やリスク認識、PDCAサイクルのあるプロセス設計、主管部署(人事部)の役割等、人事部長だけでなく、管掌役員とも協議しながら、改善の方向や課題を整理していきました。当初、管掌役員(常務理事)は事の重大さは余り把握できておらず、協議を通じて重要性について共有していくところから始まりました。多忙な常務理事にとっては、労働安全衛生の領域は、重大な労災が発生しない限り、時間を割くことはないのが一般的でしょう。それでも、内部監査として進言・提言し続けることで徐々に認識の向上を進めたわけです。

結果として、中央労働安全衛生委員会の開催やメンバー構成、進捗管理、内部統制委員会への報告など、内部統制システムを構成する重要プロセスと認識されるようになったわけです。

 

2.次は、運用実態(「D」)の改善です。

各事業所の「安全衛生委員会」の開催実態は、惨憺たる状況でした。

安全衛生管理規程では、法定職場(従業員数基準)はもちろん、それ以外の職場も、安全衛生推進委員会を設置することが義務付けられていて、職場長が委員会を四半期開催することになっています(法定職場は毎月開催し報告提出義務あり)

しかし、まったく未開催の職場があり、法定職場でも構成員(労組代表半数以上)の基準を満たしていない実態もありました。中には、委員会名簿さえも作成できていないお粗末なところもありました。また、この状況の中で、法定職場の中で職場長が「安全衛生管理者」の資格未取得の実態も発見され、法令違反状態であることも判り、管理者任用時の要件見直しの議論も起こしました。(結果的にこの問題は店舗事業部門管掌役員からの反発がありうやむやになりましたが・・・)

事業所の業務監査では、必ず監査項目に「安全衛生委員会・推進委員会の開催状況の確認」を入れ、委員会の未実施・不完全実施の職場・事業所には是正・改善指摘を行いました。同時に、指摘事項を一覧化し、中央労働安全衛生委員会(人事部事務局)へ提示し、運用の改善を要請しました。協議内容よりもまず、きちんとした体制の下で、定期開催することから着手したわけです。

すると、事業所からは不満の声が出るようになりました。「話し合う項目が判らない」「毎月開催する必要があるのか」など、要するに、労働安全衛生委員会の目的(労働環境の安全確保・衛生管理の向上)が十分に理解されていなかったわけです。

この問題には、人事部とともに、通年の学習テーマや検討テーマを策定し、資料配布なども行う事で、意識の向上を図る事から取り組むことになりました。例えば、6月は食中毒防止、7月は熱中症対策、9月は災害対策、11月はインフルエンザ対策等、既設や前年度の事故状況からの検証テーマを揃え、情報発信することで、上長として開催すべき内容を提供する役割を人事部に持たせたわけです。

そのことで、開催後には報告書も作成しやすくなり、人事部から請求しなくても報告書が確実に提出されるようになりました。こうなると、各事業所の開催状況は人事部で把握しやすくなり、指導すべき事業所もある程度限定されることになります。

こうした流れを本来であれば、人事部長(人事部担当課長)が整備し進捗管理するのが本来の仕事だと思いますが、それができていなかったのです。だから、内部監査が指摘し改善提案するほかなかったわけです。

 

3.次は、労災事故の組織的把握と是正改善の監視に取り組みました。

労災事故発生時には法定報告は適切に実施されていましたが、組織内で共有できていませんでした。もちろん、重大事故は職場会議などでも報告されているようですが、報告に終わっている実態もあります。事故から自らの職場・事業所で同様の問題はないかを検証することはできていませんでした。

これには、データベース(掲示板)の設置と定期的な報告を行うよう提言し実施しました。ま

た、中央労働安全衛生委員会の役割の見直しの一つとして、各事業所への定期巡視活動(年2回)と人事部による独自モニタリングの実施を定式化しました。

最終的には、こうした取り組みの結果を「内部統制委員会」へ定期報告するようにし、安全衛生システムの監視体制を強化しました。

また、事業部門単位で「労災事故の共有化」が進み、作業手順における「安全確保」の検証と手順教育の強化も進みました。事業所内では「当たり前」に行っていた作業が実は労災事故を誘発する事があるという事例は、幾つも見つかりました。(おそらく、他の生協への視察などでそういう発見をされたことはあるのではないでしょうか?)

さらに、インフラの整備(安全な職場環境の保持)のための計画(修繕・補修計画)も作成できるようになりました。収益優先で、修繕・改修が遅れ気味のところも、安全衛生上の課題ではないかと再検証されることで、必要な投資が促進される動きになるという事です。

特に、店舗事業では、赤字経営の中で、従業員の安全衛生の視点が軽視され、バックヤードや加工場・商品搬入口等の老朽化が放置されているケースが見られます。もちろん、商品管理上の問題もはらんでいますので、安全衛生と商品管理・衛生管理の視点で再検証し、必要な修繕・改修を行うよう働きかける事が必要で、労働安全衛生の強化を通じ、大きく前進できたと思います。

 

 当たり前に行われているはずの事が、「コンプライアンス上問題がないぎりぎりのレベル」に留まっていて、形式的なものになっている事をまずは問題化し、システムの有効性を高めるよう働きかけるのは、内部監査の最も重要な役割だと考えています。

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「労務監査」の勧め⑥ [5-監査事例]

労働安全衛生の領域は広く、課題も多いため、もう少し解説させていただきます。

 

(2)メンタルヘルスを含む「健康管理プロセス」についても、同様の改善提案を進めました。

基本は、内部統制の要素(統制環境・リスク・計画・運用・コミュニケーション・モニタリング)です。

①統制環境=健康管理意識の醸成(組織責任と個人責任の意識づけ)ができているか?

②リスク評価=(メンタル問題のリスク、職員高齢化に伴う健康リスク等)が適切か?

③計画=年次単位の健康管理計画は適切に策定されているか?

④運用=健康管理教育と健康診断などの運用管理はされているか?

⑤コミュニケーション=健康報告(内部通報や報告の仕組み整備)の仕組みはあるか?

⑥モニタリング=定期的なモニタリング実施はされているか?

⑦モニタリング結果から改善がされているか?

これらの項目で、人事部の業務プロセスを点検することにしました。

 

幸い、人事部内には「健康サポート課」が設置されており、課長とともに、運用状況について相談も進めることができました。

恥ずかしい話、こうした取り組みに入る前には、全員受診が求められる「定期健康診断」の受診率が低く(リーガルリスク)、2次受診の実態も皆無に近い状態でした。健康被害リスクへの対応は不十分と言わざるを得ない実態にありました。また、勤務中に倒れるという痛ましい事故も発生していましたし、メンタルの問題や病気による休職者も少なくありませんでした。もちろん、検診制度や健康管理相談(保健師配置)、産業医委託などの法的要件は満たしていましたが、真剣味という点では疑問がありました。

まずは、人事部内の危機意識の醸成が必要だと考えました。法令リスクももちろんですが、何より、職員の命を守る事が最も重要であり、そのために健康管理プロセスの強化が重要であることを、人事部のみならず、管掌役員も含めた意識改革を進める必要を感じました。そのためには、初めの監査で、じっくり時間をかけて、不備事項を抽出し、重大な損失につながる事をアピールする必要がありました。健康サポート課長は保健師でもあり、職業上「健康管理やメンタルヘルス」に関する知見は充分に持っていましたが、マネジメント(プロセス運用)に関しては未熟でした。ですから、プロセスの有効な運用についてはしっかりの話し合いを行いました。

取り組みを始めて、3年目には健康診断受診率は100%を達成しましたし、2次受診率も飛躍的に向上しました。同時に、診断結果に基づき、就業に不安のある職員は、職場異動や業務変更の対策も取られるようになりました。

職員の高年齢化や定年延長・再雇用の拡大等により、健康不安のある職員は今後増加すると予見されます。そのためには、組織として「健康管理プロセス」を強化することが極めて重要になってきています。まずは、管理プロセスの整備から進めることを提案します。

 

(3)「ハラスメント問題」は、労働安全衛生とは少し趣の違う問題です。

多様な雇用形態となる中で、価値観も広がっています。もはや、生協内の常識は非常識であるという認識で捉える必要も生まれてきています。上司が部下の業務成果について厳しく指導する事が「パワハラ」だったり、体調を心配して「大丈夫?」と声掛けすることが「モラハラ」となったり、女性から男性への「セクハラ」訴えがあったり、なかなか難しい社会状況になってきています。

おそらく、この問題は今後も人事部の頭を悩ます問題だと思います。

ただ、少なくとも、「訴え」を公正な立場でしっかりと受け付ける仕組み(内部通報制度や悩み相談等)を整備し、周知することが重要でしょう。

監査の際には、まず、内部通報・相談の受付状況や記録、問題に関する判断や具体的な調査・対応、管理トップ(人事管掌役員)への報告状況について点検しました。個別案件の内容に立ち入るのではなく、仕組みとして有効かどうかが監査の最重点です。したがって、相談件数がある事を問題にするのではなく、相談が適切に受け止められ対応されているかについて検証することになります。

3000人もの職員を抱えていれば、相談が全くないということは考えられません。また、それが散発的なのか、集中しているのか、また、同じ職員から再三訴えはないかという視点で記録を確認することに重点を置きます。重要なのは、些細な事でも相談できる環境を組織としてどこまで準備できているかであり、相談した場合に、個人が守られる仕組みが整備されているかでしょう。

その点を監査では人事部とディスカッションします。同時に、マネジメントにおいても「内部コミュニケーション力を高める」訓練ができているかも確認します。ハラスメント問題の根幹には、コミュニケーション不足があります。意思疎通ができていないと、同じ言動でも、ハラスメントと受け取るケースが多くなるからです。もちろん、明確なハラスメントもありますので、注意すべきだと思います。

 

全体を通じて、現在の組織運営において、「人の管理」は極めて難しい状況にあり、リスクの高い領域に間違いありません。訴訟につながるリスクも高く、慎重に取り組むことが求められています。多くの組織で、この問題は、たいていの場合、人事部局の専門領域という認識にあり、他の部門のリスク認識が低い傾向にあります。しかし、問題の本質は現場のマネジメントにあるわけですから、全ての組織でリスク認識を持ち、取り組んでいかなければならないはずです。

内部監査は、組織を横断的に監査・監視できる唯一の部署です。業務監査やテーマ監査を通じ、労務問題を常に重要監査項目にあげて、注力することが必要だと考えます。また、労務問題は他の課題に比べて、是正・改善に時間が掛かる問題という認識に立って、一つ一つ課題を整理し、有効な改善策を丁寧に低減する姿勢も必要だと思います。

一方で、労務問題が改善することで、リーガルリスクへの対策だけでなく、人件費の問題、人材採用や育成に関する問題など、これからの組織経営における重要な課題に内部監査のアシュアランスとアドバイザリー機能を発揮して、貢献できることは明確で、とてもやりがいのある監査テーマだと理解しています。


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「個人情報保護」に関する監査① [5-監査事例]

PCが頼りの現代社会において、個人データ(アカウントやクレジットコード、ID、会員情報等)は、個人を特定できる有力な情報です。

 

大企業による大量漏えい事件は後を絶たず、他人による不正使用だけでなく、知らないうちに、資産・財産を失ったり、全く別人になってしまっていたり、犯罪に関与していたり、存在自体が無くなってしまっているという想定される状況です。

 

いずれの生協でも、大量の組合員情報を保有しています。そして、それは、様々な事業現場で活用されています。当然、外部からの侵入や内部からの漏えい対策は万全を期していると思いますが、100%安全とは言えないのが実情ではないでしょうか。

 

皆さんの生協では、個人情報保護に関するルールはどうなっているでしょうか?

多くの生協では、個人情報保護法が制定された際に、個人情報保護規程や運用規則・細則などを定め、全職員に対して教育訓練も実施し、保護状況の監視の仕組みも整備されていると思います。

 

では、その規程や規則は適宜見直しされているでしょうか?

また、今回の様な「大量漏えい事件」などが起きた場合、自組織のリスクの再評価を行い、有効なプロセス強化を行っているでしょうか?また、そういう事がルール化されているでしょうか?

 

個人情報保護に関しては、プライバシー認証制度やISO規格27001(情報セキュリティシステム)等でシステム構築の考え方が整理されていて、そういう認証を得ているところもあると思います。しかし、個人情報保護は、「個人情報保護法」による順守義務のある事項ですので、認証の有無にかかわらず、組織として適切な対応・措置を取ることが必要です。したがって、個人情報保護のシステム内容は法令に照らして適切に構築することが必要です。

 

内部監査として、「個人情報保護」に関わる領域の監査は、リスクベース視点から極めて重要です。万一、組合員情報の大量漏えい事故(事件)が起きてしまえば、信用の失墜に留まらず、事業・経営への影響は甚大なものです。そして、リスク発現の可能性について数値化も難しいものです。ですから、定期的に、個人情報保護に関する監査を実施することが必要です。私のいた生協では、「個人情報保護規程」の中で、定期監査が規定されていました。

 

では、どのような監査を進めればよいのでしょうか?

この場合も、現場(事業所・部署)の監査と、管理本部系のシステム監査の2つを組み合わせて実施することが望ましいと考えます。現場監査では、主に、システム運用の実態(統制活動)を中心に監査し、運用上の問題を軸にして、システム監査を実施することで、個人情報管理システム全体の有効性評価を行い、統制上の不備事項への改善を提案するという流れになります。

 

以前に報告した「法令順守」と同様、実際のワークシートを例に見ていきます。

 

■事業所監査におけるワークシート

1)

●規程・基準・手順
・「情報管理規程」や「個人情報保護管理規程」や付随する諸規定・基準・手順等を理解しているか?

(機密情報保護や個人情報保護、PCの使用や管理に関する管理者の認識を確認する)

2)

●リスク評価
・情報漏洩(機密情報・重要情報・個人情報等)のリスクや業務上の紛失リスク(店舗で重要リスク特定)をどの程度認識し、対応に関して理解しているか?

3)

●教育・訓練
*個人情報保護規程に基づく基本教育(職員ハンドブック)は、部署全員を対象に行ったか?-実施記録-

*教育は有効か?(理解と運用)

4)

●運用(1
・個人情報取得にあたって、利用目的は明示されているか?
・利用目的に沿った情報利用が守られているか?
・個人情報(紙ベース)の保管と廃棄はルール通りに行われているか?
・持ち出し禁止ルールは守られているか?
*
委託先にも同様の措置を要請しているか?

5)

●運用(2
PCやモバイルは個人IDによる使用が確実に実施されているか?
・すべてのデータはサーバーに保管され、重要な情報はセキュリティが施されているか?(管理職・事務含む)

6)

●運用(3
・要配慮情報・センシティブ情報に対する特段の措置は取っているか?(福祉事業や夕食宅配・共済・葬祭等での扱い頻度が高い実態への対応状況、組合員統合DBへの入力・閲覧制限、事業連携時の注意)

7)

●監視・モニタリング
・個人情報の保管管理に関する定期的な点検は行われているか?
PC/モバイルの適正な使用状況を点検しているか?

8)

●不適合管理
・個人情報の漏えい・紛失・不正取得や不正使用が発生した場合、主管部署へ速やかに報告しているか?

9)

●是正・改善:違反・問題発生後の是正・再発防止策の有効性
*報告書記載の「是正・改善」に具体性と有効性があるか?
*報告書に基づき適切に実施されているか?

10)

IT対応
*「規程集DB」の個人情報項目は随時確認できているか?

 

現場では、基準・既定の確認、リスク認識、統制管理体制、運用、管理モニタリング、改善(不適合管理)のPDCAサイクルの有効性を確認するワークシートになっています。

 

特に、重視するのは、運用(1)~(3)とモニタリング(監視)の部分です。個人情報保護は、それだけで単独に動くシステムではありません。様々な業務プロセスの中で、個人情報を活用していますので、それぞれのプロセスの中で、担当者やパートまで、個人情報保護に留意して作業が行われているかが重要になるのです。しかし、全ての作業プロセスを点検する事は難しく、リスクの高い業務に絞って検証する事になります。特に、リスト化された情報を取り扱うプロセスは要注意です。安易に、PC上にデータを保存したり、内部メールに添付したり、外部へ引き渡したりしていないか、そういう可能性のある作業はないかを確認する事です。そして、そういうリスクの高い作業プロセスに対して、上長による監視・点検の仕組みが整備され運用されているかを点検することが必要です。

 

 以前は紙ベースの扱い(印刷や配布、廃棄手順)を点検することが多かったのですが、現状、ペーパーレス化が進んでおり、作業プロセスを点検することに比重を置く必要があります。

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「個人情報保護」に関する監査② [5-監査事例]

次に、システム監査(テーマ監査)として実施する場合のワークシートです。

 

監査の対象は、個人情報管理システム全体を主管する部署(経営管理部や機関運営部等)です。

事業所監査の結果をまとめたうえで、実施します。

 

■個人情報管理部署監査のワークシート(対象:経営管理部)

大項目

小項目

設問・監査手続

1.個人情報管理体制

1.「個人情報保護規程」及び関連する基準・手順の教育

規程に定められた「定期教育」が実施されているか?
*記録による内容と実施状況の確認

2.「個人情報保護文書管理基準」に基づく「管理台帳」整備

保護すべき文書が明確になっているか?
*一覧表(管理台帳)による確認。漏れはないか?

3.安全管理措置(インフラ整備・文書管理・扱い者手順)整備

安全管理のための「書庫」設置と保管状況を確認。
*事務所内・倉庫内・事業所外施設(デポ)等の作業現場への放置はないかは実査目視で確認。

4.安全管理の監視体制

事業所内の監視責任者(体制)の確認。
*定期的な事業所内の点検体制はあるか?

5.委託先における「安全管理体制」確認

委託先・作業委託者での安全管理体制の点検実施状況
*定期的な点検或いは報告はあるか?

2.運用管理

1.個人情報の不適切な扱いや漏洩の監視

情報の放置や不適切な取扱い、(+不正な取得と使用)はないか?

2.PCID/パスワードによるセキュリティ実施

ID/パスワードの使用実態確認(共有使用の有無調査)
*パソコン管理規程に基づく運用基準の適用(データの使用や保管):共有PCを重点点検。

3.外部流出監視

紛失・漏えい・(データや書面などの誤送信)の有無を誰がどのような方法で監視しているか?

4.事故発生時の対応

対象期間内で事故は発生していないか?
発生した場合の報告沿是正措置と再発防止策は有効か?

 

監査では、管理体制(システム構造)と運用管理に分けて考えています。

 

これは、「順法管理」の進め方と共通です。異なる点は、個人情報保護システムは、「個人情報保護規程」によって一つのシステムとして独立的に設計されており、詳細な手順や細則・教育訓練内容まで規定されている事でした。監査基準が「順法管理」に比べ明確で、適・不適の判断や問題指摘はやりやすいと言えます。しかし、表面的になりがちなので、運用実態をしっかり把握して真因追及することが重要です。また、運用の誤りを発見した場合の是正措置や再発防止策が、「個人への教育訓練の強化」に偏りがちになる事も容易に想定され、有効な対策を明確にすることを重視する必要があります。

 

運用管理は、現場の実態調査が鍵です。宅配センターや福祉事業所では、詳細な個人データの取り扱いが頻繁にあり、担当者自身が保持しているケースも多く、複数の業務プロセスと職員によって利用されるため、事業所内には様々なところに個人情報があります。これらがしっかりとしたルール(置き場所や保管場所、閲覧や利用可能者の制限など)で運用できているかを見ることになります。(前述のブログで詳細)

 

これまでの監査経験では、個人情報管理の重要性を認識できている管理者の下では、パートやアルバイトまで、個人情報の扱いについて注意を払っており、全ての作業プロセスにも同様の傾向がある事です。

ざっくり言えば、机の上やラック等が整然としている事業所では、個人情報の管理もおおむね適切であるという事です。

また、大量の個人情報(センシティブ情報)を扱う福祉事業所では、個人情報の事業所間のやり取りが頻繁で、さらに、ケアマネやサービス提供責任者など個人単位の管理になりがちです。さらに、介護保険法の規定に基づき過去情報(サービス提供終了後5年)の保存義務もあります。事業所内のインフラ(鍵付き書棚や文書保管場所)の充実が極めて重要になります。このことを、経営層も認識する事が重要なのです。

ただ、この数年で、業務内でのペーパーレス化が進められており、大半が電子データとなりつつあります。私のいた生協でも、配達担当者は専用モバイルを持ち、配達情報や組合員情報・仲間づくり情報・商品情報など、モバイル一つで完結できる仕組みを導入したため、ペーパーレス化が一気に進みました。福祉事業でもケアマネやサービス提供適任者やヘルパー等もモバイルやPCを貸与されるようになり、文書の保管量は低減しつつあります。

ここで新たな問題が生じてきました。現行の「個人情報保護規程」が電子データの管理に関して対応しきれていない事でした。別に、「文書管理規程」や「機密情報管理規程」などもありますが、いずれも電子データに対応しきれているとは言えません。今日的には、「電子データの大量漏えい」のリスクが高く、そこへの対応は遅れている実態なのです。

この点は、「内部統制上の不備事項」として指摘し、規程類の見直し提案を行いました。その後、内部統制委員会で検討も行われましたし、同時に「特定個人情報保護」に関する対応策も協議・運用改善にも取り組まれました。

 

なお、言い訳になりますが、私は「情報システム監査」には取り組んだことはありません。

私のいた生協では、情報システムの構築・管理を事業連合に全面的に委託していたため、その領域は監査対象となっていなかったのが主な理由です。

このブログでは、あくまで「個人情報保護」管理プロセスを対象領域としていますので、情報システム管理とは異なる監査手続きであることを、ご理解いただきたいと思います。

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「宅配事業:商品管理」に関する監査① [5-監査事例]

ここからは少し実際の監査の事例から、個別の問題についてご紹介します。かなり際どい問題も出てくるかもしれませんので、肝心な部分ではぼかしてしまう事にもなりますがご容赦ください。

 

まずは、宅配センターの監査からの事例です。

 

宅配事業(共同購入事業)のセンター監査では、「商品管理」は重要なテーマです。ほとんどの生協で、宅配事業は、受注・仕入・仕訳・物流・配送・請求までかなり高度なシステムが構築されました。私が生協に入ったころには考えられないほどの変化です。

 

当時(35年前)は、注文書は手書き作成で、班単位で回覧し、当番さんが班の注文数を集計し、注文書を提出。担当者はそれを集めて、コース単位でセットして集計のパートが1枚ずつ集計し、発注書に仕立てて物流部へFAX送信。物流部では各センターから送られてくるFAXを集計し、メーカーごとに発注書を作成していました。ここまででも多くの人の手を掛けていました。ですから、当然ヒューマンエラーも多く、今では考えられないくらい発注訂正も起きていました。

次に、各メーカーから受注に基づき、センターへ納品され、物流担当者は「倉庫担当」と言われ、納品された商品の数量を点検し、日別に仕分けし、パレットごとに分けていました。それを、物流パートの皆さんがコース出庫表に基づき仕訳し、コースに出庫されたものは配達担当自身が点検し、配達しやすいように組み直し、トラックに積み込んでいく。・・書き出すだけで大変な作業の積み重ねの上で、1日の配達が始まるわけです。

そして、配達はほとんど「手おろし」作業でした。注文数を組合員の方に読み上げてもらい、一つ一つ商品を手渡ししていたわけですよね。こういう原始的な(当時はかなりこれでも画期的でしたが)作業で配達は進んでいて、150万円から80万円くらいの供給高でした。

もちろん、集金はすべて現金。荷卸し後に当番さんから現金を受け取り、勘定して領収書を切って現金カバンに収める。すべて無事に配達できれば、センターに戻って現金を数え、供給日報(商品部類ごとの供給高を計算して記載)を作成し、上長に提出。配達ミスがあれば、すぐに連絡し、時間外でも届け直しを行っていましたね。現金誤差があればすべての班に再確認の電話をかけますし、不明となれば、現金誤差報告書(始末書)を提出、ひとしきり怒られた後、次の日の準備・・・。今では考えられないほどの作業量とサービス残業です。

だいたい、朝は7時半くらいに出勤し(就業時間は9時ですが)、帰宅するのは夜9時や10時はざらでした。その上、早朝牛乳配達があれば、朝4時には起床という状態で、睡眠時間以外はほとんど仕事でしたね。それでも、40年くらい前はそれが問題になる事はありませんでした。職員の平均年齢もまだ30代に届くかどうか、若い事はいろんなことがクリアできるんですね。

 

こんな事を思い出してしまいましたが・・本題に戻ります。

 

以下は、私が宅配センター監査の際に使用したワークシート(商品管理領域)です。

 

1)

●規程・基準・手順
・イレギュラー供給(追加・返金)や回収品の管理、サンプル商品に関する管理ルールが明示されているか(文書化・教育)。-業務規程・手順

2)

●リスク評価
・商品供給に関わる不正・ミスのリスクは認識されているか?(返金処理額は推定2000万円以上)
・商品サンプルの不正使用リスクは認識されているか?

3)

●統制・管理体制
・供給管理に関する管理責任者は?
(副長・事務・物流担当等の権限と決裁・点検体制)

4)

●運用(1-イレギュラー供給(当日加減算処理)
・供給額・返金額、消費税計算等でミスは防止されているか?
・欠品や誤配・回収措置等は不正防止視点で管理できているか?
*モバイル運用による手順変更と改善効果は出ているか?

5)

●運用(2-良品返品管理
・返品商品の区分管理と数量(実態)確認はできているか?
・東海への返品処理は適切か、フードバンクは活用されているか?
・内部供給の際の手順と管理は適切か?

6)

●運用(3-サンプル管理
・景表法に基づき「サンプル」の表示が適切に実施されているか?
・在庫管理の手順はあるか?
・不正使用を防止する仕組みはあるか?

7)

●監視・モニタリング
・供給管理・商品管理に関して、管理者は報告ラインを持っているか?(日報や週報・月報の運用)

8)

●不適合管理
・供給管理・商品管理に関するミスや不適合が発見された場合、是正・改善まで含めた報告を関係部署へ行っているか?(事業支援部・経理部・連合等)

9)

●是正・改善:違反・問題発生後の是正・再発防止策の有効性
*報告書記載の「是正・改善」に具体性と有効性があるか?
*報告書に基づき適切に実施されているか?

10)

IT対応
*「KISS」運用は適切か?

 

固有の用語も含まれていますのでわかりにくい所もあると思いますが、項目全体の構成は、基準や規程の確認、リスク評価、統制管理体制、運用、監視モニタリング、改善(不適合管理)の要素で、PDCAサイクルの確認ができるように組み立てています。

 

少し、長くなりましたので、実際の内容は、次のブログとします。


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「宅配事業:商品管理」に関する監査② [5-監査事例]

センター監査における「商品管理」の監査では、倉庫内の目視点検とセンター事務作業は定番です。

 

今は、ほとんど、商品(供給品)は、事業連合等の集中物流センターで「個人別パック」の状態でセンターへ入荷しています。「発泡スチロールの箱」の山が整然と入荷し、コース番号や個人記号が貼付され、間違いないよう仕訳できる仕組みで運用されています。大型商品もコース別入荷が増えていて、ヒューマンエラー防止策は万全です。

だからこそ、倉庫内を点検すると、イレギュラーが発見しやすい状態です。配置場所以外ある「商品」や「パック品」は何らかの問題があるわけです。これを発見した場合、必ず、周囲にいる物流パートに確認します。即座に回答が返ってくれば、まだ、管理された状態と言えますが、「判らない」という事があれば、何らかの管理ルール上の問題があるはずです。これは、ヒアリングの中で確認する材料になりますので、写真で残します。

 

また、倉庫内には、「お誘い用のサンプル商品」や配達ミスや追加発注などの「預かり品」もあります。それぞれ、管理ルールがあるはずですので、担当者が居ればその場で確認します。

冷蔵庫・冷凍庫内も点検します。ほとんどは「個人別パック」で入荷していますので、商品が見える状態にはないはずですが、冷蔵庫や冷凍庫の隅に棚が設置されていて、商品が置かれているようであれば、イレギュラー発生の可能性がありますので理由を確認することになります。こうした実態を記録(写真)に残して置き、担当者や物流パートなどから聞いた事項も記録します。それは後で管理者ヒアリングの材料になるわけです。

 

事務所内の点検では、事務パートの業務が主要な対象となります。

 

今の配達業務では、センター事務の業務が大きくかかわってきます。

私のいた生協では、担当者のモバイル使用前から、注文の訂正や返金等は担当者からの報告(申請)に基づき事務パートが一括処理する仕組みで運用されていました。ですから、イレギュラーな対応は全て事務パートが把握することになります。そして、全ては「当日加減算票」「追加発注書」という記録に残ります。これを1か月分点検します。じっくり見ていくと、特定の担当者が著しく当日加減算票や追加発注が多かったり、特定の組合員からの返金要請が多かったり、不自然なものが目に付く等の特異点が発見されます。実は、これは事務パートが一番認識している事なのです。

ですから、書類点検前に少し事務パートからも話を聞きます。意外に皆さん正直に問題を教えてくれますし、中には、仕事の進め方に疑問を抱えていて相談されることもあります。本来であれは、副長や事務管理者が適切に対処すべき事項なのに、相談できない事情を抱えているケースがあります。これは、管理者ヒアリングの格好の材料になるわけです。

こうした、小さな点検を積み上げながら、センターのマネジメントの課題や商品管理に関する課題を抽出する作業が現場の監査でエネルギーを使うところになっていました。

 

こうした監査の中で、極めて重要で深刻な問題が発見されました。(ごめんなさい。不正発見の事例もありましたが、情報漏えいになりかねませんので、少し皆さんのところでも共有できるものにしています)

 

発見したのは「返品商品の管理」の問題です。

 

Aセンターでは、事務所入り口の長机の上に、ビール・お米・調味料・菓子類が並べられていました。その横に「組合員価格3割引きで処分。購入者はお金を箱に入れてください」の表記と紙の箱が置かれていました。その表記にはセンター長名が記載されているのです。紙箱を振ってみると、お金の音がしました。

Bセンターでは、同じように商品が置かれた場所の脇に、記録表が置かれて、商品名と購入金額と購入者氏名が記録されていました。価格は組合員価格(定価)でした。

Cセンターでは、そのようなものは発見されませんでしたが、休憩室に少量の「商品(飲料)」が積まれていて「処分品。ご自由にどうぞ」と書かれていました。

Dセンターでは、昼時間に冷蔵庫前に物流パート・アルバイトの皆さんが集まっていて、何をしているかを確認すると、冷蔵庫・冷凍庫にあった在庫商品(返品?)を副センター長が並べて、パートの皆さんへ分けているところでした。一応、代金は戴いているようでしたが、半額で設定しているとの事でした。

 

これはかなり深刻な問題です。

 

返品商品は、以前には考えられなかったことです。班共同購入が主流の頃は、例え注文ミスであっても、班の中で調整し買い取ってもらったり、他の班で引き売りしたりして、基本的に返品は受け付けないようになっていたからです。しかし、現在では、引き取り不能の商品は返品を受ける事が基本ルールになっていて、大型センターでは、その返品量は尋常ではありません。

そして、これら返品商品の処分について、残念ながら、共通のルールが存在していなかったのです。すべて、センター長の裁量の中で処分するというのが暗黙のルールになっていたのです。ですから、3割引や2割引や半額、中には経費処理して処分などと、さすがに着服するようなことはないように見えましたが、確証は得られませんでした。また、現金徴収も問題でした。処分による供給現金は本来、供給に計上され入金すべきですが、別管理し流用している事も発見されました。これは、あきらかに不正です。

 

不正や横領の温床になっている事を厳しく指摘せざるを得ない状況でした。

 

月例の監査報告で、「返品商品の管理において、センターごと独自ルールで運用され、実態として、横領や現金不正につながるリスクが高い状態にありました。一部ではすでに現金管理上の不正(流用)も見られました。」と専務理事へ報告しました。

専務理事も宅配センター長を経験されており、実態が依然と様変わりしている事に驚かれ、是正・改善の必要性について確認いただけました。その上で、事業本部長に対して、是正・改善の指示が出されました。

まずは、宅配事業本部が、統一のルール(返品商品管理ルール)の整備を進めました。返品商品の一覧化と処分記録の保存、買取りの際には現金ではなく加減算票による処理(引落)限定など、かなり細かい運用ルールが整備されました。価格設定も低下処分を基本にすることになりました。

しかし、これだけでは、大量の処分には耐えられない事態があり、事業連合への返品拡大や「セカンドハーベスト(フードバンク)」の活用拡大についても検討が進み、ドライ商品に関する管理はかなり前進しました。生鮮品に関しては、基本廃棄というルールとなりました。

これですべての問題が解決したわけではありませんが、不正(着服や横領)防止策としては一定の効果はあると考えられます。また、今回の監査指摘を通じ、組合員からの商品返品の在り方について、組織的な議論が進み、センター内でも問題の本質について協議も出来、全体として、返品量がやや減少したとの報告も聞きました。

 

商品管理については、この問題以外にも、サンプル商品(おさそい用)の管理、深夜早朝の無人入荷時の管理、追加発注や返金処理の管理、等について、年次で取り上げ指摘し是正改善を進めてきました。

システム化され、分業化が進む中で、想定されなかった問題は必ず生まれてきます。それが、それぞれのプロセスのはざまで発生した場合、容易に是正・改善できない事もあります。

また、この事例の様に、一つ一つの事業所では完結している事でも、本来共通・統一されているべきルールがバラバラになっていて、それが大きな問題であることに気付く人・部署がないケースもあります。こうしたことを繋ぎ、埋めていくのも、内部監査の重要な役割であり、より多くの部署・事業所の監査を計画し、効果的な監査に取り組むことが必要だと考えます。

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「小口現金管理」に関する監査 [5-監査事例]

もうひとつ、宅配センターの監査事例をご紹介しましょう。

 

皆さんの生協でも、「小口現金」の仕組みがあると思います。

名前の通り、小口で現金支払いが必要なケースへ対応するための仕組みです。

昔、この「小口現金」の管理に関わっては、管理者や事務担当者による不正使用の事件が発生しており、管理ルールは厳しく、取り扱う金額もより少なくしてきました。また、月1回の棚卸の際には、出納記録と現金精査の結果報告が定式化され、四半期に1回は、内部統制委員会による点検も実施されるようになりました。これにより、事件性のある様な不審な事案は防止できているはずです。

 

内部監査でも、内部統制委員会の定期点検が有効なものとなっているかを監査する為、現場監査では、小口現金管理も確認しています。

 

小口現金管理に関する領域は「事務管理業務」という区分にまとめ、主要な項目は以下の通りです。

 

1)

●規程・基準・手順
「経理規則」「小口現金管理規程」「請求書取扱基準」「領収書取扱基準」「自家消費処理手順」等の経理事務に関する規程・基準・手順は正しく理解されているか?

2)

●リスク評価
・経理処理(現金管理)に関する部署のリスクを認識しているか?(不正リスク-他の生協で重大事件発生)

3)

●管理体制と教育・訓練
・出納管理者・出納責任者(実務)は明確になっているか?
・経理事務を担う担当(職員・パート)へ、経理事務の教育訓練は行っているか?

4)

●運用(1)-小口現金管理・出納管理・金庫内管理
・小口現金管理規程に基づき、出納記録や現金精査は適切に行われているか?
・金庫内に、簿外となるような現金や現金同等物はないか?
・組合員への支払現金の受け渡し記録(領収書)は確実か?

5)

●運用(2)-備品購入・申請決裁・経費支払・自家消費
・消耗品や備品購入にあたって、確認・決済は行われているか?
・申請書(交通費も含む)は上長が確実に点検・承認しているか?
・自家消費(生協内購入)はルールに沿って処理しているか?

6)

●運用(3-未収金回収・請求事務・現金入金
・未収金の記録と管理はできているか?(個人記録化)
・出資金や利用料金などの現金入金は確実に管理できているか?
・領収書は「領収書取扱基準」に沿って適切に発行されているか?

7)

●監視・モニタリング
・経理事務が適切に運用されている事を定期的に監視しているか?(点検体制・報告等のルール)

8)

●不適合管理
・経理事務に関するミスや不整合を発見した場合や経理部から指摘があった場合、上長及び経理部長へ速やかに報告しているか?(報告書確認)

9)

●是正・改善:違反・問題発生後の是正・再発防止策の有効性
*報告書記載の「是正・改善」に具体性と有効性があるか?報告書に基づき適切に実施されているか?

10)

IT対応
*「経理DB」の活用はできているか?

 

この監査によって、現場の運用で問題が発見されました。

 

一つは、前述の「商品管理」でも触れたように、金庫内に小口現金とは別の「現金」が発見されたのです。いわゆる「簿外管理」とされている現金です。

 

商品の内販により発生した現金で、それ自体は副センター長が管理していましたが、その額が適切なものか証明する記録はありませんでした。ですから、「ちょっと借用」や「着服」もできます。正しく管理するにはどうすれば良いか、元はと言えば「商品の内販」自体が問題もあるのですが、少なくとも、「商品供給」をした場合は即日入金すべきですし、簿外化することに問題を感じる事が当然だといえるものです。

これはすぐに是正され、経理部からも「金庫内に簿外となる現金の保管を禁止する」という通達もだされました。しかし、残念なのは、内部統制委員会の定期点検で発見されているにも拘らず、点検者(内部統制委員:執行役員)が見逃していることでした。内部統制委員会による点検の有効性が疑われましたので、この点は、内部統制委員会へ報告し、点検項目と基準の再確認を行うよう要請しました。

 

もう一つは、出納記録の不備の発見です。

 

小口現金管理規程では、出納実務は、実務管理者と実務執行者を分けて配置する事とされていますが、あるセンターでは、事務パートの不足から副センター長が実務も点検も一人で行っており、出納事務を週に一度まとめて行うようになっていたのです。支払申請もかなりの数に上り、時間が掛かるようになるため、記録が後回しになり、現金出勤だけが先行するというような悪い習慣を産んだのです。点検者が居ませんから、問題を指摘する人もなく、監査当日には、現金が不整合となってしまいました。また、センター長はこの実態を把握できていませんでした。

管理体制の不備(監視・点検)が生んだ問題です。この問題は、不正発生の一歩手前ともいえるものです。この問題は、経理部へも報告しました。

管理の仕組みとして、小口現金の出納記録は経理部へは月に1回(締め日)提出となっていました。ですから、「面倒だからまとめてやればいい」というような運用が生まれたのだと考えられました。経理部としても、月次の締めで不整合がなければ良いわけですから、問題は表面化しません。

改めて、各事業所の「小口現金管理体制」を確認し、出納管理者と出納実務者の登録確認が行われ、経理部での点検(支払い記録の点検)も強化されました。しかし、膨大な点検作業で人員確保も難しい現実があり、システム導入の検討へと進みました。現在使用している経理管理システムの中で、小口現金管理(事業所による直接入力と経理部による点検)の仕組みを構築し、煩雑な作業の合理化へ進むことになりました。これで問題がすべて解決するわけではありませんが、少なくともヒューマンエラーや不正防止へと一歩進むと思われました。

 

現場では、人員不足が顕著です。ルールはあっても、それを支えるマンパワーが不足すれば、「手抜き」作業が生まれます。事務や経理という部分がそのしわ寄せを受けるケースは多く、結果としてミスが発生し対策でまた業務が増えるという悪循環が発生し、現場は苦しんでいるのです。

 

 だからこそ、内部監査が問題を発見し、その真因に迫り、現場が楽になるよう、経営者・管理部門へより具体的な提案を行う事が必要ではないでしょうか。

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「福祉事業:介護事故」に関する監査① [5-監査事例]

福祉事業の中で、リスクの高い項目として「介護事故」があります。

 

時として人命にかかわる痛ましい事態となり、利用者はもちろん、介護者職員側にも深い傷が残るため、マネジメント上ではもっとも注意しなければならない問題です。介護保険制度においても「介護事故」は行政への報告義務や行政からの指導・再発防止策の徹底等、かなり厳しい内容で規定されています。

 

内部監査としても、この問題(リスク)への対応レベルをしっかり確認する必要があります。

しかし、内部監査は、ケアワーカーとしてのスキルがあるわけではありません。ケアの内容や手順が適切かどうかを判断する事はかなり難しいと言えます。交通事故(安全運転)への対応であれば、自身が運転免許を持ち、日常的に運転もしていれば、事故の要因や問題などへコメントすることはできるでしょう。しかし、介護事故については正しいコメントを出すことは無理です。だからと言って、監査領域から除外する事は出来ません。では、どうするか。

 

解決策の一つは、ピアオーディット(同行監査人)の採用があります。

他の福祉事業所から、管理者の同席を得て、介護現場を視察し、作業マニュアルや実際の介護を検証してもらう方法です。より専門的な視点で検証できるというメリットがありますが、同じ問題を抱えているケースでは有効な解決策を見いだせず、指摘事項も「甘く」なってしまうというデメリットがある事を理解しておく必要があります。

 

ピアオーディットが確保できない場合、通常の業務監査同様に取り組むしかありません。あまり難しく考えず、取り組みましょう。

ちなみに、以下が、私が使っていた福祉事業所の監査ワークシート(介護事故リスクに関わる領域)です。

 

①事故対応
・事故報告と対応記録
・再発防止策の有効性確認

 事故対応マニュアルに基づく「記録・報告」の確認(書面)

・発生経過や原因特定、再発防止策の記載が適切か?

・管理者の把握と対応、上長やトップへの報告は適切か?

②苦情トラブル対応
 ・記録と解決、報告

 苦情対応マニュアル(介護保険制度規程)に基づく記録確認

・記録内容は適切か(受付者・申し出人・日時・内容・事後処理)

・重要な事項は上長・トップへ報告されているか?

③ヒヤリハットの取り組み状況
・業務手順や設備改修などの改善取り組み

 福祉目標「ヒヤリハットによる事故防止運動」の実施状況

・月の記録件数(目標)は達成できているか?

・記載事項から、手順や設備などの改善はできているか?

 

事故は、苦情やヒヤリハット(未然事故事例)の取り組みとセットで捉えます。

これは、安全運転の取り組みと類似していますね。

 

介護の現場では、特に、ヒヤリハットの取り組みが事故防止に有効だという認識があります。(ヘルパー研修などでも繰り返し呼びかけられています)

しかし、ヒヤリハット報告書を見ると、すでに事故が発生している事例が多く見られます。これは、現場にいる介護職員の中に、怪我や破損といった外的ダメージがなければ事故ではないという意識があり、ちょっとしたことは事故じゃないという甘えの構造につながっていると考えられます。しかし、この意識こそがが重大な事故を引き起こすことになるのです。

ですから、監査の際には、「ヒヤリハット報告書」を丁寧に点検します。そして、管理者と、事故に関する認識(視点)を確認していくことが重要です。

 

ある事業所で、「外出支援で転倒事故」が発生しました。比較的、歩行能力は高いと判断された利用者が、近くのお店に買い物に行かれる際の同行援助を行っていました。その方の家は、坂の途中にあり、家から坂道を下っていく途中で、よろけた際、道路わきの側溝に転落し、大腿骨を骨折するという事故でした。同行していたヘルパーは寄り添って歩いていましたが、転倒時に支えきれなかったのです。高齢者にとって、大腿骨骨折は致命傷になりかねません。暫く、入院となり、それを機に一気に身体機能が低下することになります。中にはそのまま寝た切り状態となってしまう方も少なくありません。

この事故は、適切に記録され、行政や組織トップへも報告されていました。同事務所のヘルパーでも共有化され、事故防止のための対策会議も実施されていました。同行援助の際、「利用者の安全確保」の視点が弱かった事が最大の問題であり、道路の危険個所の確認不足が生じていた事から、同様のサービスにおいては、事前にルートの安全確認を行う事と同行の際の転倒不安がある場合、車椅子等の利用を提案する事など、ケアマネジャーとも調整したうえでサービス提供の手順の見直しも進みました。事故を出発点に、ルールや手順の見直しが進んだ事例です。

 

別の事例では、通所サービスにおいて、昼食後に利用者が椅子から立ち上がる際に転倒、翌日になって骨折が判明するという事故がありました。昼食後、やや眠気がある状態で椅子から立ちあがった際にふらつき、そのままお尻から座り込むように倒れたのです。周囲には介護職員が居たわけですが、ふいに立ちあがった際の出来事で間に合わなかったとしていました。ただ、この場合、転倒後に身体異常はないかの確認が十分にされておらず、帰宅後夜間になって痛みを感じ、翌日ご家族が病院に行き骨折が判明し、かなり重大な問題となったわけです。

通所では、こうした転倒事故の発生は珍しくありません。椅子から立ち上がる、トイレから立ち上がる、浴槽から立ち上がるなどの基本動作では、予期せぬところでめまいやふらつきが発生し、掴まる所がなければそのまま転倒・尻もちをつくという事象は避けられません。だからこそ、介護職員はそういう動作にリスクがあるという認識を持ち、利用者の動きに注意を払っておくことが求められます。介護度の低い方ほどこのリスクがある事を認識しなければなりません。

 

この施設は、小規模で職員数に対して利用者も少ないため、目が届きやすいという安心感(気のゆるみ)が生じていたとも言えます。そして、なにより、事故発生後の対応が安易すぎました。転倒・尻もち事故が起きた場合、身体異常が起きていないか、看護師による確認と医療機関受診の判断が必要です。マニュアルではそう記述されていますが、現場では「大丈夫?痛い所はありませんか?」の一言が優先し、利用者から「大丈夫。痛くない。」という返答があれば、問題なしという判断がされていました。結果的に、半日経って重大事故だったと判断され、この件ではご家族から厳しい指摘も受け、医療費用や付き添い費用などの損害賠償請求も発生し、半年近く、管理者や事業本部が対応に追われることになりました。まさに、事業損失に直結した事故となったわけです。

 

他にも、「通所送迎時に車から降りた際に車止めに躓き転倒(手首骨折)」「通所入浴時に脱衣所が濡れていて転倒・介護職員も利用者を支えるため腰椎損傷」等の事故は起きていました。また、直接的な身体被害は無いものの「通所から勝手に帰宅し所在不明(認知症進行・近所で無事発見)」とか「薬の飲み間違い事故」など、通所や訪問介護事業では介護事故は常に発生しています。

 

こんな事故をどう防ぐか。重要なのは、事故リスクの認識を絶えず持っておくことでしょう。そのために、日常的に「ヒヤリハット」の取り組みを強化することと、それぞれの事業で事故を共有化し、自らの事業所の点検を行う事です。

 

内部監査では、先に記述した通り、事故対応、苦情トラブル対応、ヒヤリハットの取り組みの3点を監査項目に設定し、それぞれの記録を点検し、記録と報告、対応と再発防止策の有効性を確認することを通じて、「介護事故リスクへの対応」がどこまで有効かを検証する役割を果たす必要があります。


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「福祉事業:介護事故」に関する監査② [5-監査事例]

福祉事業では、身体に危害を与える「重大な介護事故」だけでなく、もっと頻繁に発生している事故があります。それは、ホームヘルプの際の「物損事故」です。

 

私は当初、この問題をあまり重視していませんでした。

幾度かの現場監査でも、事業に多大な損失を与える様なものではなく、弁済・補償の手続きや記録化も適正にされているという認識でした。

 

しかし、ある事業所で重大な事故が発生し、専務理事から「もっと丁寧に監査するように」との厳しい言葉をいただきました。

事故の内容は、「ホームヘルパーが家事援助で室内の掃除を行った際、飾られていた花瓶を落下させ破損した」というものでした。

事故の事実は、すぐにヘルパーから当該事業所・サービス提供責任者へ報告されていました。また、事故発生時には、利用者(ご高齢の女性)から「古いものでそれほど高価なものじゃないから、(弁済は)良いよ。」との了解を得たとの事でした。

当該事業所のサービス提供責任者は、それを確認し、翌日、謝罪に訪問しました。対応されたのは、利用者の息子さんで、「高価な花瓶だったから、補償してくれ」とのこと。すでに破損品は片付けられてしまっていて、どれほどのものか確認するすべもなく、結局、その息子さんの言い値で弁済せざるを得ないことになってしまいました。(法外な金額要求だった)

結局、その額は、事業所長(課長)が決裁できる金額を大きく超えており、上長(事業部長)決裁となり、事実関係を確認し、最終的に役員に報告されることになったわけで、その段階で初めて、経営トップの知る所となったわけです。既に相手とも物損補償の示談も終了しており、法外な金額を支払うしかない状態でした。

家事援助における物損事故(ミス)が多大なる損失へ繋がったと同時に、利用者(この場合ご家族)の法外な要求を受け入れるという事態につながった事も、組織として承認できるものではありませんでした。

 

なぜこのような事態に陥ったのか。

業務監査で何故こうしたリスクを指摘できなかったのか。

内部統制上の不備として是正・改善提案できなかったのか。

 

そういう視点で経営トップからは指摘されました。

これは明らかに、内部監査の失態です。

こうした事態を招かないよう、より丁寧に監査することを指導されて当然だと思います。(実は、これには伏線があり、この事故が発生する以前にも、いくつか重大な業務上のミスによる損失が続いていて、内部監査への期待が最も高く状況の中で起きたことも厳しい指導となった要因だったのです。)

 

では、こうした事態を招かないために、内部監査はどのような監査に臨む必要があるのでしょうか?

 

先に述べた「介護事故」と同様のロジックで考える必要があります。

事故リスクへの認識はどうか、日常的な監視(モニタリング)はどうか、報告と事後対応のルールはどうか、ヒヤリハットの取り組みは有効か、いわゆる「身体危害を伴う介護事故」だけでなく、「物損事故」も同等のリスク意識をもって臨むことができているか。

こうした項目で監査していれば、これほど深刻な事態を産むことはなかったのではないかと考えます。

 

その後の監査では、訪問介護事業では、ヘルパーの業務報告やヒヤリハット報告を丁寧に読む作業を追加しました。

 

すると、「鍋の取手を壊した」「しゃもじを折った」「お皿を割った」などの家事援助中の物損事故は、かなりの件数発生していることが判り、大半は「利用者が了解してくれた」ことで事なきを得ているように報告されているのです。また、同等のものを購入して補償したという事例もありました。中には、ヘルパーが「自分のミスなので自分のお金で購入して弁済した」というものさえありました。

 

自己管理のプロセスを確認すると、結局、物損事故が起きた場合の対処方法が共有化できていなかったことが判りました。

 

すぐに、福祉事業本部へ、部門監査報告として、事故対応時の対応マニュアル・ルールが未整備である事を指摘事項としました。

福祉事業本部では、当初、介護事故対応マニュアルは整備されており、物損事故も同様に対処されていると認識しており、監査結果に驚き、すぐに「事故対応マニュアル」の検討・整備が進められました。そして、訪問介護部会や通所介護部会などを通じて検討され、運用が始まりました。

 

特に、訪問介護部会では、定例開催のホームヘルパー会議を通じて、物損事故発生時の対応マニュアルの学習会や、ヘルプ手順確認時の事故防止策の徹底等、これまで以上に重視されるようになりました。

最も大きく変わったのは、訪問介護サービス提供前の「アセスメント」(サービス提供責任者が実施)の際に、家事援助サービスでどのような作業に事故リスクがあるかを詳細に点検するようになったことです。

先に書いたように、物損事故は使用する機材(食器類や調理器具)の老朽化や家財道具の劣化等に起因するケースが多いため、作業と機材・家財の関係も詳細に点検することになりました。また、破損が発生した際、現品確保(回収或いは写真撮影)を行い適正な補償額を確認できるようにしておくことも徹底されました。この辺りの考え方は「交通事故」の対応と類似していると思います。

 

リスク認識が生まれたことで、予防措置として何が必要なのか、部会での協議の成果だと思います。

また、最終的に、保険適用(福祉事業保険)も相談窓口を明確にし(事業本部内に担当配置)、事故発生時の手順の確認や必要書類の作成、相手方との交渉などの業務を専門的に行えるようになりました。

 

重大な事故を契機に、内部監査が、重点的に監査することで、各事業所の問題を客観的に整理し、問題の所在を指摘することができれば、かなりハイレベルな改善が進むことがよく解った事例でした。


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「福祉事業未収金」に関する監査 [5-監査事例]

様々な監査手法①「定期監視活動」の中でも少し触れましたが、今後、福祉事業の拡大を目指されている生協では、必ず、問題となってくることに「個人未収金の回収不能」の問題があります。

ここでは少し、実例を挙げて、監査の実際と指摘・改善の提案について述べたいと思います。

 

私のいた生協の福祉事業は、年間20億円ほどの事業規模でした。

2億円にも達していませんが、利用者人数は途轍もない数になります。

一人一人の月利用額は、基本的に保険請求事務によって作成され、請求事務が発生します。数千円の人から数万円と、利用頻度や内容によってばらばらです。そして、利用金額の支払いは「口座振替」を基本としていましたので、請求から1ヶ月以内に、未払い(引落不能)が判明します。ルールとしては、宅配事業と同様に、翌月再請求ののち、さらに引き落とし不能となれば、督促状が発行され、最終現金回収ということになります。

 

定期監視活動では、この個人未収金の動きについて、経理データをもとに点検を掛けていましたが、福祉事業でも、ざっと30人から40人程度が引落不能状態となっていました。事業所単位で見れば、12人程度なので、個別に相談し、滞りなく引落ができるように働きかけをしていました。

 

しかし、私が監査に配属された当初は、こうした未収金の動きが、事業本部でも事業所でも全く把握できていませんでした。経理部だけで未収金が発生している事を認識できている状態で、会計士からも指摘を受けたこともあり、内部監査室と経営管理部・経理部・福祉事業本部で、未収金管理システムの構築を進め、事業所における個人未収金の管理ルール(宅配事業同様の記録管理)が適用されることになりました。大きく前進しました。

 

その後、未収金管理の実態がより明確になっていく中で、深刻な問題が見えてきました。

 

最も重大な問題は、「長期未収金の存在」でした。私が生協をやめる直前の記録では、2名の利用者が長期未払いとなっていて、額も数十万円に達していました。それ以前にも数名の方がいらっしゃいました。

 

高齢者の方の収入は、基本的に年金です。年金は2か月分まとめて入金されるため、引落不能になる可能性の高い月と低い月があります。これは現場でも理解できているため、一旦引落不能となっても翌月支払い可能というのはよくある話です。年金が少ない方は収入がない場合には、生活保護受給となっていて、個人請求はなく全額公費負担のため、未収金にはなりません。そういう点で、福祉事業で個人未収金が膨らむのは余り想定されていないのです。

 

では、長期未払いはどうしてうまれるのでしょうか?

 

最も重大な問題は、「パラサイト世帯の存在」です。高齢者世帯の「老々介護」が社会問題化しつつありますが、同様に、「親の年金を当てにして同居している子」が、結局、収入がなく親の年金を自分の生活費に充ててしまっているのです。未払いが発生した場合、本人への請求はもちろんですが、家族へも支払いを請求します。同居だけでなく別居の親族があれば、相談させていただくことになります。

 

今回、私のいた生協の事例では、同居の子(成人・高齢)が一旦は支払う約束をしながらも結局支払いを渋っている状況でした。行政(社会福祉事務所)へも相談しますが、行政は個人の支払いにまでは口出ししません。そのため、事業所の担当者や管理者が個別に粘り強く対応をすることになります。ただでさえ、長時間勤務の傾向にある福祉事業ですから、こうした事案はさらに業務負担となります。

 

経理部から未収督促・長期未収の発生報告と改善要請が事業所へ届いても、なかなか成果にならない(支払いが完了しない)という実態に突き当たります。

 

実際、この問題が発生している事業所では、この問題について、管理者やサービス責任者とじっくり話し合うことになりました。構造的には前述のとおりですから、現場としては引き続き粘り強く対応するほかないというのが結論です。しかしそのための業務負担は多大なものです。他にも、課題はたくさんあります。そして、該当事業所に留まらず、同様の構図で長期未収金につながりかねない実態はほとんど事業所にある事も判りました。

 

さらに悩ましいのは、宅配事業と違って、未払いが嵩んでいるから「サービス提供を中止する」という判断が難しいという事です。通所や訪問介護のサービスを受けている本人にとって、利用中止は「命に拘わる」事態です。サービス提供側としても「未払いがあるからサービスを中止する」とは言えない心情的な問題もあります。

 

しかし、こうしているうちに未払い額はどんどん膨らんでいくわけです。先ほどの2名のように数十万円ともなれば、月の年金額を遥かに超える額ですし、一気に支払う事などできるはずもなく、分割入金の補法を探る事も必要なのです。未収金問題の解決を迫る事は、まさに、利用者もサービス提供側も苦渋の選択を迫ることになるわけです。

 

内部監査としては、この問題をどう解決すべきか、まずは、福祉事業本部と相談することにしました。その際、宅配事業における長期未収金管理を参考にしました。

 

宅配事業の長期未収の大半は、「意図的未払い」です。センターからの働きかけと未収金対策課(事業本部内)からの働きかけ(未収金督促)の2段階と、最終、債権回収会社への委託という形をとっています。それでも、年次で数百万円の欠損(除名処分と出資金回収、特別損失計上)が発生しています。500億規模の宅配事業ですから、収益上の影響は比較的小さいという組織的判断に基づいて実施されているわけです。

 

では、福祉事業はどうか。

これまで、未払い金に関して特別損失などの計上ルールはありませんでした。結果として、何年もにわたる長期未収金が存在していましたし、対応も長期化しているわけです。まずはここを改善できないか。支払い不能であると組織として認定し、欠損処理のルール(申請と組織承認)を整備することにしたのです。当然、この判断の前提としてサービス提供の中止も盛り込まれますし、行政への報告も付随することになります。また、そこに至るまでに、事業所としてやるべきことも明確にしました。利用者本人の支払い意思の確認や、親族・家族による支払い能力・意思の確認、分割入金の約束状の作成等、未収金管理ルールを整備することになりました。

 

これにより現場の対応は変わりました。欠損金処理ルールが整備されたことで、事業所として、そこへの移行を前提に利用者対応を強める事が出来たのです。組織ルールを提示し、利用者とより丁寧に対応すること、そして一定の期間の対応で結論を出す事が目標化されたわけです。

述のように、長期未収金は現状2名に留まり、その2名についても、分割入金の約束が取れています。(実際の入金は滞りがちなのが次の課題ですが)

 

問題点を発見し、指摘し是正・改善要求を行うだけで、内部監査の業務は終了しません。もちろん、内部監査基準では、指摘事項への是正・改善は、監査対象の判断に委ねられることとなっていますが、経営に資する監査を目指す以上、アシュアランス機能だけでなく、アドバイザリー機能を発揮し、問題解決のためにできることに尽力することも、内部監査の重要な役割だと考えます。

 


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「大規模災害(危機管理)態勢」に関する監査① [5-監査事例]

活発な梅雨前線による記録的豪雨で、西日本から東海の広い範囲で、水害や土砂災害が発生し、多くの方が命を落とされました。ご冥福をお祈りするとともに、被害に遭われた方に対してお見舞い申し上げます。

 

私の住んでいる滋賀県でも、琵琶湖の水位が上昇し、自宅前の白砂青松の「萩の浜」は水没し、あと僅かのところで氾濫という状態でした。市の防災ラジオからは、臨時放送が流れ続けており、避難指示にまでは至りませんでしたが、行政としてかなり神経を使っている事は実感しました。なにしろ、数年前には、市内を流れる鴨川の決壊で、広域に水害に見舞われた地域だっただけに、今回もかなり心配しておりました。

 

「天災は忘れた頃にやってくる」

とにかく、日ごろからの備えが重要と言われていても、これがなかなか難しいものです。

西日本や東海エリアの生協の皆さまは、いかがでしょうか?

 

今回は、少し掲載順を変更して、「大規模災害」に関するテーマ監査を取り上げることにしました。

 

こういう時だからこそ、自組織の備えはどうなのか、内部監査の立場として検証する事が重要だと思います。

 

内部統制における「リスク・マネジメント」では、リスクアセスメント(評価)をスタートにしています。私のいた生協でも、内部統制事務局から、部門長(管掌役員・統括部長)に対して、自部門のアセスメントを要請し、集約し、重点リスクを抽出する作業を毎年行っていました。

 

アセスメントの基本は、「事業への影響度[×]発生頻度」で点数化され、上位のリスクが重点と定められていました。(この方法にはある問題点があり、内部監査として改善提案をしてきましたので、別の機会で詳しく述べたいと思います。)

この方法では、頻度の高い交通事故や違反といったリスクや、発生影響度(社会的信用の失墜による事業影響)から「役職員の不正」「商品供給事故」等が入るわけです。

それと同様に、東日本大震災や熊本地震等により「大規模災害」リスクは、甚大な被害・事業継続の危機という意識から、必ず上位となっており、大規模災害に対して「危機管理規程」「大規模災害マニュアル」「BCP(事業継続計画)」といったものが整備され、定期訓練や災害備品の充実といった取り組みも年々強められています。

したがって、内部統制の有効性評価(独立的モニタリング)のためには、この「大規模災害リスク」に対する対策・統制システムの構築評価も、当然、内部監査の対象領域となってきます。

では、どのような監査を展開すればよいのでしょうか。

大規模災害対策は、ほとんどの場合、組織全体に関わる問題として、発生した場合、統括部署(危機管理本部)が設置されて、事業継続計画(BCP)に基づき、2次災害防止や復旧のプロセスが示された規程が定められていると思います。したがって、大規模災害対策に関する監査では、本部系(管理系)の部署監査が主体になると考えられます。

 

私も当初は、そのようにイメージし、経営管理部や人事総務部を対象とした監査を実施していましたが、余りにも「概念的」な監査になりがちで、大規模災害の想定被害やその場合の対応という、いわば机上の空論ともいえるような領域の検証になってしまい、監査の有効性に疑問を感じていました。

 

そこで、事業所監査の中で、大規模災害対策の有効性評価ができないかと考えました。(環境ISOを主としている生協では、規格要求事項の中に「緊急時の対応」が重視されていて、その範疇で大規模災害に関しての備えも検証されていると思いますが)

 

事業所監査で「大規模災害対策」に関わる領域は以下のようなワークシートを使用しました。

なお、その際、領域設定は、「防犯・防火・災害対策」を一括りにしていました。(環境ISO:緊急時の対応をベースにしたため)

1)

●規程・基準・手順
・危機管理に関する諸規程(リスク管理規程、危機管理規程、災害対策規程、防火管理規程、ハラスメント防止規程、災害対策マニュアル、緊急時対応マニュアル等)は理解しているか?

2)

●リスク評価
・自部署として、自然災害・火災・その他事業継続に重大な影響を及ぼすリスクを認識しているか?

3)

●管理体制(法令基準・防火管理・防災体制)
・消防法に基づく防火管理者の届け出・管理体制・消防計画の提出はできているか?

4)

●運用(1)防火管理体制
・防火体制は、年次体制にあわせて更新し、明示しているか?
・消防設備は、適切に使用できるよう点検・管理しているか?
・消防訓練は、法令に従い実施され、報告しているか?

5)

●運用(2)大規模災害対策
・事業別災害対策マニュアルは策定され、周知しているか?
・防災備品は、定期的に点検し不足のない事を確認しているか?
・防災訓練は、年次防災訓練計画に沿って実施しているか?(避難訓練・安否確認・無線通信訓練等)

6)

●運用(3)その他の危機管理
・「緊急事態発生時の対応マニュアル」の記載内容を理解し、管理者としての責務を理解しているか?
・火災・自然災害・重大な交通事故を除く緊急事態とは何かを理解しているか?

7)

●監視・モニタリング
・緊急事態発生に関する日常的な報連相は行っているか?

8)

●不適合管理
・各規程・手順・マニュアルとの不整合や、消防署などの点検での指摘があった場合、速やかに報告し是正しているか?

9)

●是正・改善:違反・問題発生後の是正・再発防止策の有効性
*報告書記載の「是正・改善」に具体性と有効性があるか?
*報告書に基づき適切に実施されているか?

10)

IT対応
*規程集DB(危機管理カテゴリー)、防災DBは活用しているか?

 

監査の結果は、事業所単位で「是正・改善」が必要な事項は指摘事項としましたが、それとは別に、事業部門単位で整理し、事業別の課題にまとめることにしました。その結果、重大な問題が見つかりました。

 

宅配事業では、「配送中の対応」に関するルールが未整備だったことが判りました。実際、過去には、「ゲリラ豪雨による道路冠水が各地で発生、生協車両が水没する」という事故が発生しましたし、「大雪による高速道路通行止めに伴う物流センターからのセンター納品不能」も発生していました。こうした災害発生時の配達ルールはある程度は作られているのですが、全県エリアでは、局地災害への対応が不十分だということが判り、事業共通ルールに基づく事業所ごとの運用ルールと訓練が重要だということが判りました。

 

店舗事業では、「災害による長時間停電」への対応の不十分さが判りましたし、店舗共通ルールとしては、災害発生時の対応者は定められていて、安全を確保したうえで「できるだけ早く開店する」とされているのですが、実際、POSレジは稼働できず、レジ機能が確保できない限り供給はままならない事も経験済みでした。それへの対応・対策は進んでいませんでした。

 

福祉事業では、通所においては「豪雨や積雪・台風などでのサービス休止」は事業所長判断することが定められていましたが、訪問介護事業では「可能な限りサービスを提供する」ことになっていて、実際、ゲリラ豪雨発生の際、ヘルパーが帰着できない事態も発生していました。また、サービス提供中に「大規模災害(大地震)」が発生した場合に、利用者の安全確保や避難誘導をどうするかは決められていませんでした。

 

組織全体の「災害対策マニュアル」や「BCP」が立派に整備されていても、日常業務の現場では、未整備な部分がかなりあり、それらは、全体のマニュアル・規程では対応できるものではない事も判りました。

結果として、事業別災害対策マニュアル・事業所別マニュアルの整備と教育訓練が重要であることは明白でした。この点は、事業部門別監査報告の中にしっかりと書き込み、事業本部への改善提案としました。

 

特に、近年では、広域の大規模災害だけでなく、ゲリラ豪雨の様な局地型災害が頻発しており、事業の中枢を担う物流センターや電算センターが被害に遭うと、事業全体が停まってしまう事態も想定されます。また、宅配事業では大規模センター化が進んでおり、配達エリアが広く、センター周辺では全く問題はなくとも、配達先が大変な状態というのも珍しくありません。こういう細かい部分にまで神経を使って、対策・対応を作っていくことがますます重要になってきていると思います。


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「大規模災害(危機管理)態勢」に関する監査② [5-監査事例]

次に、管理本部を対象とする「テーマ監査」について述べます。

 

事業所監査の結果をもとに、危機管理システムの有効性評価が主要な監査目標となります。

 

ワークシートは以下のようになっています。

H 防火・防災態勢

1.防犯・防火対策

1.防火管理体制の明確化

組織全体の防火管理体制(防火管理規程に基づく)を管理部門が確認しているか?

2.防火管理規程に基づく教育実施

ハンドブックによる教育(標準教育)は全ての部署で実施されている事を確認しているか?

3.防火訓練(消防・避難)

消防法に基づく法定訓練(事業所規模・事業別要件)の実施を確認しているか

4.消火設備の適正配置

管財部による施設点検、外部業者による保守点検の実施状況を把握しているか

5.施設周辺の安全措置

安全衛生委員会の巡回点検で施設周辺の安全管理を確認しているか

2.危機管理・大規模災害時の対応マニュアルの周知と訓練

1.「災害対策マニュアル」に基づく教育実施

ハンドブックによる教育(標準教育)は全ての部署で実施されている事を確認しているか?

2.「事業別・職場別マニュアル」策定

規程に基づく「事業別・職場別マニュアル」は年次策定・更新されているか?

3.災害発生時の対応の訓練と教育

災害訓練は全職場で実施されている事を確認しているか?

4.大規模災害時の対応

災害時に適切な対応ができるよう「図上訓練」「本部設置訓練」等、年次計画に基づき、実施されているか

5.防災用品の保管管理

マニュアルに基づき、必要な防災備品の確保及び配置ができているか?一覧表による管理がされているか?

 

私のいた生協では、危機管理・大規模災害対策の本部事務局は、人事総務部となっており、監査については、人事総務部長と担当部長(途中で交代・課長職へ)へのヒアリングを実施することになっています。

 

事業所監査の結果から、これらの項目いずれも不十分な運用実態にある事は明白ですから、ヒアリングは、「なぜ進まないのか」に集中することになります。

 

理由はいろいろありますが、最大の問題は、危機意識(リスク認識)の欠如でした。

東日本大震災の翌年には、プロジェクトを設置し、災害対策マニュアルやPCB等、全部門代表による協議・検討が旺盛に行われ、立派なものが整備されました。

しかし、時間が経過するにしたがって、リスク認識は低下し、人事総務部の内部でも、災害対策担当部長へ丸投げ状態となり、部分的に修正や補強がされた「大規模災害対策マニュアル」がデータベース上に掲示されているにすぎない状態でした。

 

内部監査が監査する事は、まさに「寝た子を起こす」行為とも受け取られるような状態だったわけです。

初年度は、ほとんどの項目が不十分でしたから、可能なところから、一つ一つ是正・改善に取り組むしかありませんでした。

防災備品・用品の保管管理は、比較的早く着手されました。

標準用品を設定し、人数に合わせて増減、事業所へは年1回点検した結果を報告させ、補充する仕組みは容易に構築できます。それをイントラネット上のDBで掲示することで、集中管理も容易く出来ます。また、補充計画も策定し、年次予算化もできるようになりました。

ただ、「標準用品」は適用範囲が職員対象であったため、事業特性に合わせた補強が次の課題になりました。端的な例は、福祉事業所(通所・短期入所)での備品です。職員だけでなく、利用者も対象とした場合、品目数や必要数が極端に多くなります。保管場所の確保も必要です。何より、必要な物品は現場でしかわからないため、管理本部での一括管理になじまないこともわかりました。業務監査の中で、ある通所事業所では、市内の防災マップから事業所周辺に有効な避難所がない事を知り、地域の自治会とも連携し、一時避難所の機能を果たせるよう、防災倉庫を設置し、自治会の協力も得て、毛布や飲料水などの確保を独自に実施している事例がありました。これをベースに、他の事業所への普及と福祉事業における防災備品の検討を、福祉事業本部の課題とする事にしました。

 

また、都市部では「帰宅困難者対応」も社会的役割として求められ、いくつかの施設では、備品の追加、受け入れルールの整備、行政への届け出なども行う必要がありました。これは、地域の組合員の意見・要望がベースでしたが、同様の施設(組合員施設・会館)の機能の見直しと必要備品の検討が、組合員活動支援部を中心に始まりました。

 

宅配事業では「配達時の災害発生対応マニュアル」が策定され、トラックへ常備し、年1回の模擬訓練がスタートしました。福祉事業でも、前述のとおり、マニュアルが整備されました。店舗については、すでに、水害発生による緊急対応を経験済みの店長を中心に、災害発生時の開店マニュアルが策定され、順次普及が進んでいます。

その後も、順次、課題を提示し、改善方向を示しながら、監査を継続しました。

 

ただ、最も是正・改善に手間取った課題があります。

 

それは、大規模災害対策本部の設置と運用に関する訓練の実施です。

大規模災害対策の監査の初めは、現場の是正・改善について、事業本部を絡めて具体化することで、前進は生まれます。しかし、経営トップ(常務理事会)を本部長とする「災害対策本部」の訓練は、なかなか具体化できません。理由は、本部事務局の力量不足に他なりませんでした。組織全体の訓練には、シミュレーション(シナリオ)作成が必要ですが、経験がなく、他の訓練へ参加することもなく、意識はあるものの着手できない状態だったのです。それでも、事務局としては年次訓練計画を作成し、9月には全体の模擬訓練を位置づけながら、未実施という状態が続いていました。事務局へのヒアリングでも、未実施の状態について悩んでいました。私は、この問題は直接、経営トップ(専務理事)へ提起させてもらいました。コミットしていながら、必要な人・モノ・金が用意できていない事。やる以上、成果の上がる内容とする事。そのために、事務局(担当課長)への研修指示を出してもらうよう要請したのです。この問題は、その後の展開は確認できていません。

 

このように、現場の実態をベースに、管理部局へ課題提示する事で、有効な改善へ動くことができます。もちろん、こうした動きは内部監査ではなく、管理部局が主体的に取り組むべきものでしょうが、組織全体の危機意識が低下してしまうと、一部局の発案では前進しがたいのも事実です。

そういう点で、内部監査は、システムの綻びをいち早く発見し、経営トップへ報告し、大きな穴になる前に是正・改善提案を行う事が期待される役割ではないでしょうか?

大規模災害は、他人事ではありません。そして、命を守る砦として、生協は地域から強く期待されているはずです。


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「安全運転管理」に関する監査① [5-監査事例]

安全運転に関しては、長年の取り組みにも拘らず、事故や違反は絶えず発生しており、特に、近年は、パート配送比率が増加し事故発生が増加しています。交通違反も増加しています。交通事情は、昔の様に「路上駐車」が許されなくなってきましたし、サービス過剰で狭い路地まで入り込むような危険運転も一向に減らない現状があります。また、最近の新規採用者の中には、日常的に運転はほとんどしたことがないというケースも多く、予想外のトラブルが増えています。

 

こうした現実の前で、安全運転に関する教育訓練は、これまで以上に重要になっていますが、効果的なものとなっているか、はなはだ疑問です。

 

「安全運転管理プロセス」は、監査対象領域としてしっかり監査する必要があります。

 

監査手続きは、事業所監査(業務監査)と管理部門(人事部・安全運転管理担当)の監査を実施しました。

 

1.事業所監査での監査

事業所監査は、内部統制の標準項目として、以下の様にワークシートに盛り込みました。

1)

●規程・基準・手順
*管理者は、「道路交通法」の遵守姿勢を持って、「生協車両運転規則」は理解し、適切な業務を行っているか?

2)

●リスク評価
・自部署の「車両事故・違反」のリスクを認識しているか?

3)

●管理体制
・安全運転(運行)管理者の資格取得と届け出はされているか?
・安全運転トレーナー制度に基づくトレーナー任命はされているか?

4)

●教育・訓練
・職員ハンドブックに基づく一般教育は実施しているか?
KYTは定期的に実施しているか?他部署事故の共有化はできているか?

5)

●運用(1
・生協内免許の認定更新は計画通り実施しているか?
・認定更新後にトレーナーからの報告を受けているか?

6)

●運用(2
・日常業務における安全運転点検(免許証携帯や健康状態チェック等)は確実に実施できているか?
・車両の日常整備点検やクリーンネス・傷点検・出発前点検は実施されているか?

7)

●監視・モニタリング
・安全運転の実施状況について日常的に監視する仕組み(報告等)はあるか?-日報の運用

8)

●不適合管理
・交通事故・違反発生時に、速報作成と期限内に「事故検討会」を開催し、記録されているか?

9)

●是正・改善:違反・問題発生後の是正・再発防止策の有効性
*報告書記載の「是正・改善」に具体性と有効性があるか?
*報告書に基づき適切に実施されているか?

10)

IT対応
*「安全運転の広場」DBや「安全運転推進交流」DBは定期的に閲覧し、必要な情報を活用されているか?

 

この監査項目は、全体の一部分に過ぎませんから、時間はあまり割けません。

 

したがって、リスクベースの視点で、日常的に車両を使用する部門である、宅配事業(センター)と福祉事業(通所介護・ヘルパー・ケアマネ)はより丁寧に実施しました。特に、前年度の事故や違反の発生状況(全体の安全運転報告からデータ入手)をもとに、事故や違反の増加、重大な事故発生等の状況に照らして、重点事業所を抽出しておきます。そこでは、できるだけ時間を割いて、ヒアリングできるようにしました。また、宅配センターでは、出発時の立会い確認も可能な限り実施しました。

 

ワークシートにあるように、基本は「安全運転管理プロセスのPDCAサイクルの有効性評価」です。

 

監査を始めた初期の頃には、安全運転管理者の届け出といったコンプライアンス上の問題が浮かんできました。特に、大規模センターでは台数に応じて副管理者の配置が必要であるにも拘わらず、理解不十分で、選任できていない実態すら発見されました。管理体制の不備であり、コンプライアンスに関わる問題であったため、すぐに是正改善の指摘事項となりました。

 

私のいた生協では「生協車両運転規則」が定められていて、道交法や運送法の順守や、職員教育、事故発生時の対応と事故検討会開催等、細かい定めがあります。しかし、現場の理解は不十分なものでした。もちろん、通年での「安全運転教育」は展開されていましたが、長年にわたり繰り返しの内容で教育がなされているため、現場ではマンネリ化も進んでいました。特に、現場の教育訓練の主体が主任クラスの「安全運転トレーナー」に頼っているために、指導力や徹底力、日常マネジメントの連動などが上手くいっていない為、事業所によっては機能していない実態さえも見られました。安全運転管理者が、法令順守のための「名前だけ登録」に終わっていて、極めて形式的な運用に留まっていたわけです。運用に関する不備も次々に発見されました。

 

さらに、事故発生時の対応に関して、現場対応は比較的スムーズにできているのは確認できましたが、事故報告と事故検討会の開催は不十分な状態でした。重大な事故は確実に報告されていましたが、軽微な事故(物損)や違反(速度超過や駐車違反等)の報告と内部検討はほとんどできていませんでした。

「生協運転規則」では、軽微な事故も検討会を開催し再発防止策を確認することとなっていましたが、まともに行われているのは一部の事業所でした。

 

全体として、安全運転管理プロセスの現場での運用管理は不十分だと言わざるを得ない実態が浮き彫りになりました。

 

さらに、ヒアリングを通じて、宅配センター長(安全運転管理者)の悩みも判りました。

パート配送者の増加と新人の運転未経験者の増加という実態の中で、従来の安全運転教育や運転訓練では対応できないレベルになっている事でした。免許証は持っているが、運転実技が伴わない正規職員・パートが増え、なぜ事故が起きたかという問いに、まともに答えられない状況がある事。なぜ、ここでそういう運転(ハンドル操作)をしたのかと訊いても「わからない」という回答。試採用期間中の運転訓練で、課題がクリアできず、退職を希望する職員・パートが発生している現状があるのです。「人並みの運転ができない」状況への対応策を持ち得ていないわけです。

 

この監査の結果は、事業部門単位の監査報告書にまとめました。そして、宅配事業では、事業本部が中心になって、従来進めてきた「安全運転トレーナー制度」の運用改善と、安全運転教育の見直しに取り組むことになりました。

 

事業本部は、「モデルセンター」に設定し、安全運転トレーナー会議もモデルセンターで開催し、実践報告をもとに標準化(水平展開)する継続的な取り組みが始まりました。大きく変わったのは、車両清掃と出発時監視(場外出入口での上長による監視)の標準化、そして、KYT(危険予知トレーニング)の手法の改善でした。

お恥ずかしい話、KYTは、安全運転センター(別会社)が主体で組み立て、30年来変わらず「紙ベース」のトレーニングを継続しています。臨場感・緊張感のないやり方が継続され、マンネリ化しています。これに対して、現場では「実際の事故映像をもとにKYTを実施する」手法を取り入れ始めていました。より臨場感と緊張感をもって、瞬時に判断する能力を高める必要を感じていたからでしょう。この取り組みも、水平展開され始めています。


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「安全運転管理」に関する監査② [5-監査事例]

事業所監査の結果をもとに、組織全体の管理についてはテーマ監査として実施します。

 

前述したように、私のいた生協では、「生協車両運転規則」が定められていて、事業所ごとの安全運転管理者・安全運転トレーナーが配置されていると同時に、それを総括するのは、人事部内に専任担当が置かれ、それをバックアップする形で「安全運転センター」への業務委託がされていました。

したがって、安全運転管理プロセス全体のテーマ監査では主管部署(人事部)が対象となりました。

 

2.安全運転管理部署への監査(テーマ監査)

安全運転管理システムの概要は以下の通りです。

 

統制環境

法令

道路交通法・車両運送法等

環境整備

「倫理方針・行動規範」の周知

リスク管理

アセスメント実施

交通事故リスク(保険によるリスク転嫁を除く)-信用リスク

統制活動

内部規程類

生協車両運転規則(東海)

主管部署

人事総務部

機関会議等

安全衛生委員会(規則への記載はない)

機関会議等

安全運転トレーナー会議の開催

教育訓練

安全運転管理者・車両運行管理者の教育

教育訓練

安全運転トレーナーの育成・教育

アウトソース

安全運転センター

運用

安全運転管理者の専任・資格取得・届出(道交法74条)

運用

事故違反報告・事故検討会(規則14条~17条)

運用

生協内運転免許認定制度(規則3条・23条~35条)

運用

安全運転トレーナー制度(規則18条~22条)

運用

交通安全フェスティバル実施

運用

日常教育(KYT・トレーナーによる教育指導)

運用

始業時点検の運用

情報
コミュニケーション

報告

主管部署からの「安全衛生委員会・内部統制委員会」への報告

伝達

安全衛生委員会(常務理事会)での決定事項

コミュニケーション

安全運転センターとの情報共有化(DB・会議等)・外部情報受入

モニタリング

日常監視

安全運転の日常監視

モニタリング

月次報告(部署ごと、人事総務部集約)

モニタリング

SDカード(事故違反記録照合)発行実施

監査

内部監査(経営監査)

是正・改善

モニタリング結果からの是正・改善の実施

レビュー

代表理事による年2回のレビュー(12条)からのアウトプット

IT活用

DB活用

安全運転DB(事故報告含む)

 

安全運転管理システムの監査では、上記のシステム概要をベースに一つ一つの整備・構築・運用実態を確認することになりますが、現場監査で発見した不備事項から、日常教育・始業時点検、日常監視、月次報告の在り方についてを重点に監査しました。

ヒアリングしたのは、人事部長と安全運転管理責任者(人事課長)ですが、ここでかなり深刻な問題が発見されました。

「生協車両運転規則」により詳細に管理体制や手順は定められているものの、事業連合全体で承認された「規則」であり、20年以上前から、見直しがされていなかったのです。運用に当たっては、法改正に照らして問題のないようにしているのですが、「規則」が現実と乖離している事を人事部課長も認識しているのです。しかし、従来から「安全運転センター」に依拠して取り組んできたために、単協の内実は空っぽに近い状態でもあったわけです。

正直なところ、安全運転センターにはかなり高額な業務委託料が支払われているのですが、コストパフォーマンスについては検証できていない、検証する対象となっていないのです。

 

安全運転は極めて重要な課題であり、トップも重点リスクとして統制強化を指示していながら、実態は安全運転センターに丸投げ(極論ですが)という状態ともいえるものです。むしろ、現場・事業所はそういう遅れた実態を自らの意思で克服する努力をしているわけで、統制不備は明らかだと言えます。

 

まずは、この問題を最重点に指摘事項としました。「生協車両運転規則の検証と有効性向上」「安全運転センターの業務委託内容の見直しと有効性評価」という指摘です。

 

しかし、人事部長はこの指摘に難色を示しました。(安全運転センターは役員が社長兼務、顧問契約先は役員の要請・指示による)・・・残念ながら生協でも、いわゆる「忖度」が働き、「触れられない領域(聖域)」という認識が組織内で定着している・・これは、内部監査としては踏ん張りどころです。

こうした悪しき認識をどう是正するか。やはり、監査報告(エグゼクティブサマリー)の中で、明確に問題を指摘する以外ないと判断しました。

 

経営トップは極めて渋い表情を浮かべていました。

監査報告は、同時に監事へも報告しますので、監事会でもこの問題は重視され、監事による経営監査のテーマにもなるわけです。必ず、監事監査で適切な回答をしなければなりませんので、内部監査の指摘事項を無視することはできないのです。(「法定監査との連携」の意味がここで発揮されます)

 

少し、話が「安全運転管理」から離れてしまいましたので、戻します。

 

テーマ監査では、根本的なシステムの問題の指摘と同時に、現場の取り組み(事業所・事業部門)も報告し、全体システム管理の立場から、支援・指導するよう要請しました。その中で、全体で行っている「安全運転トレーナー会議」の運用改善(宅配センター主体の運用から、事業部門別の運用改善)、KYTのレベルアップ(動画活用・単協独自の教育訓練の運用)、事故検討会の内容検証や事故発生者への個別指導の定式化、新人職員・パートの運転訓練強化(自動車学校など新たな教育制度の検討)等、単協独自に強化できる項目を整理し、是正・改善を進めることで合意したのです。

 

まだまだ成果が見える段階ではありませんが、内部監査が一石を投じる事で、マンネリ化・硬直化して、有効性を失っているシステムを改善する事へ繋がると信じています。


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「店舗事業の供給管理」に関する監査 [5-監査事例]

店舗の規模の大小にかかわらず、「売り場」は、店舗職員の業務が直接反映する場所であり、商品管理・品質管理・衛生管理・表示管理等行き届いているか点検する重要な場所です。

店舗の業務監査では、売場の点検は必須です。業務監査の日程・時間が十分に確保できる状況ならば、帳票点検やヒアリングと一つのセットにして取り組むと、良いでしょう。(以前に、店舗点検活動というタイトルでご紹介した内容と重複している部分もありますのでご容赦ください)

 

私の場合、一人監査の限界があり、売り場点検は、別日程で組みました。いわゆる「予備調査」の一つとして組み込んだわけです。当初は、年末供給前に実施していましたが、店舗側にとって、点検結果を有効に活用する為、春(梅雨時期)と秋(年末供給前)の2回、全店舗の売り場点検を行っていました。

これは、隣のG生協の内部監査担当の方が、「品質管理担当」業務として実施していたことを交流会で報告いただき、詳細を教わり、少しアレンジした形で実施しました。

 

具体的には、すべての売り場の温度管理・衛生管理・表示・期限管理などを丁寧に点検します。

棚は必ず全アイテム2品抜き出し、日付と表示を目視し、プライスカードと照合します。特に、日付(期限)については、まさかこんなものが期限切れになどと驚くことがありました。また、一定の売り場範囲で、表示や期限の管理がおろそかになっている事もわかり、結局、人の力に頼って、任せっきりというパターンも多い事もわかりました。一つ一つ不備を発見し是正・補正するのは容易ではありませんが、組合員(来店者)のサービス向上に重要なポイントだと思います。

 

商品分野によっても重点を変化させます。

青果分野では、鮮度維持の視点や産地表示等を徹底的にチェックします。鮮度管理では、温度はもちろん、湿度(水分)保持も重要です。意外に、菌茸類の管理(温度管理)が杜撰でした。また、産地表示では、混在している例もたくさんありました。それと、日付管理。青果部門は「鮮度感」を重視していて、葉物野菜や果菜類、果物という順位でチェックの差があります。見落としがちなのが、「水煮野菜類」でした。長期保存可能という安心感からかチェックが甘く、期限切れも発見されています。

 

水産分野では、温度管理が第一でした。鮮魚類は冷蔵ショーケースで管理できていましたが、塩干類は不適切な温度帯(常温や冷凍)も少なくありませんでした。また、品名表示も独特で、売り場担当者の知識の範囲で名称が付けられていたり、生食・加熱の区分も不明瞭なところがあったり、考えられない事がいくつも発見されました。また、フローズンチルド商品の日付管理・温度帯変更表示なども不備が見られました。また、テナントによる鮮魚コーナー運営のパターンでは、生協内の基準・ルールが理解されておらず、温度記録や表示・陳列はかなり乱暴なところもあり、店長からの指導(要請)への対応姿勢も問題がある事もわかりました。

 

精肉分野では、関連陳列品(タレ・調味料類)の管理が盲点となっているケースが見られました。精肉パック商品は、ほぼ毎日入荷のため、値引き対応など日付管理は否応なしに確実に実施されます。しかし、関連陳列品は、ワンシーズン以上の陳列も少なくなく、結果的に期限切れもありました。

 

畜産加工分野では、表示問題が顕著でした。ハム・ソーセージメーカーは、頻繁に規格や価格変更を行います。外見はほとんど変わらないのに、グラム数が1割少なくなっているとか、肉の産地が変更されているとか、とにかく、プライスカードと現品の不一致が顕著なのです。見方を変えると、消費者を欺くようなパッケージが当たり前という業界なのかと疑いたくなります。そして、その変更が売場まで反映できていないという状態にありました。

 

ドライ商品分野では、回転の悪い商品の期限切れが発見されました。棚の最上段と最下段、調味料類の特殊な商品、飲料(豆乳や産直飲料等)、そして、ビール類の中でも「地ビール系」、製菓材料等はしっかり点検しておく必要があります。また、飲料でも冷蔵ショーケース内の点検も重要です。店舗規模が大きい所では、ショーケースも大型化していて、入れ替え作業で奥まで手が届かない等という実態もありました。菓子類でも「駄菓子コーナー」は要注意です。

 

きりがないので、ここらにしておきますが、こんなふうに、分野特性を理解して売り場を点検する事で、それぞれの分野担当が緊張感をもって業務を遂行しているかを把握することができるわけです。

 

点検の結果は、全て写真に撮り、異常品は現品を撤去して、可能な限り、その場で是正できるようにしました。当初は、担当者からは怪訝な表情で見られていました。しかし、確たる証拠を突きつけていますので、反論の余地はありません。そして、なぜこのようなミスが起きるのかをヒアリングするようにします。

 

こうした結果を、「店舗点検報告書」にまとめ、翌日には店長宛てに報告を送付し、是正改善を要請しました。また、全店実施後には、「店舗点検結果報告書」として冊子化し、店舗事業部長と管掌役員へ送付しました。初めて実施した際には、店舗管掌役員から理不尽なお叱りを受ける事(役員の了解のない点検活動は認められない:暗に内部監査への介入ですが)もありましたが、専務理事報告後には、店舗管掌役員が、店舗事業部長に対して、点検結果をもとにシステム・プロセス改善するようにとの指示を出していました。

 

それ以降、年2回の点検は、店長や売り場担当者にとって、日ごろの業務の評価と是正改善のチャンスという受け止めが広がり、かなり好意的に受け入れていただけるようになりました。

 

ただ、よく考えてみると、「内部監査の点検結果を業務改善に活かす」というのはかなりレベルが低いのではないかと思います。わざわざ内部監査が出向いて点検しなくても、お客様(組合員)の目こそ、最も厳しいはずです。日常的に、お客様の購買状況やご意見をしっかり把握し、常に最善の売り場作りを目指し、日々、是正・改善を進める事こそ、店舗職員のあるべき姿だと思います。店舗によっては、店舗委員会(組合員組織)で、定期的に売場チェック(モニター)しているところもあるはずです。生協ならではの組合員組織との協同によって、売り場をさらに良くする事は出来るはずです。そういう視点こそ、生協らしいと思います。

 

もう一つ、店舗点検を始めてから、生まれた成果があります。

 

私のいた生協もご多聞に漏れず、店舗事業は赤字でした。そのため、リニューアルは計画通りには進んで居らず、冷蔵・冷凍設備やバックヤード・加工場の老朽化が著しい所も見られました。店長としては、売り場・設備の更新リニューアルに取り組み、来店者の増加・供給高増加を進めたいところなのですが、修繕費用が捻出できない、赤字拡大になってしまうために、じっと我慢しているという実態がありました。

 

売場点検を行うと、例えば、冷蔵ショーケースの温度記録を点検すると「異常値」が発見されます。原因を確認すると、外気温が上昇するとパワー不足になるとか、出入口付近の風防室の建付けが悪く外気が吹き込んで温度が上昇するとか、いくつか設備の欠陥に行きつくわけです。

 

もちろん、食品衛生法の観点から適温管理が求められるわけで、こういう事態を点検結果で厳しく指摘したため、店舗事業本部と管財部が動いて、設備点検が大々的に実施され、年次計画化(予算化)まで進みました。こうなると、次は、計画に基づき修繕が予定通り行われているかを監査すれば良く、「設備・施設管理プロセス」のテーマ監査への連動させることができるのです。

 

現場で起きている事が必ずしも経営層(役員)まで届いているとは限りません。むしろ、マイナスな情報はなかなか届かないのが実態ではないでしょうか?それで、現場は苦労しているわけです。

 

内部監査は、経営に資することが最終目標ですが、現場で起きている問題がどうしたら是正改善できるかを、監査対象に指摘事項として提示するだけでなく、事業本部や経営層に報告し、組織的に解決する道筋を見つける事も重要だと考えます。そして、現場の職員にとって、内部監査は「味方」であるべきだと、私は考え、取り組んできました。


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「福祉専門職の業務」に関する監査 [5-監査事例]

福祉事業所の業務監査の中でも「専門職種の業務」については、独特な監査視点が必要でしたので、少し解説をしておきます。

 

私のいた生協では、福祉事業部門としては、いわゆる「介護事業」が主体で、居宅介護支援事業(ケアマネジャーによるケアプラン作成・サービス管理)と訪問介護事業(ホームヘルプ事業)、通所介護事業(デイサービス)、福祉用具貸与・販売事業、地域包括支援事業などを展開しておりました。

 

いずれの事業も、介護保険制度上の「認可事業」であり、法令要件を満たしておくことは大前提です。そして、それぞれの業務者には、有資格者が当たることになります。

 

訪問介護事業や通所介護事業、用具貸与事業など、いわゆるサービス提供側の事業所では、チーム運営・マネジメントが重要であり、専門職種(ヘルパーや介護福祉士・看護師・社会福祉士などの有資格者の集団的サービス提供体制が取られます。その意味で、業務監査の一つの視点としては、チームとしてのマネジメント(QMS:サービス品質)が適正か、有効かをしっかり見ることになります。

一方で、居宅介護支援事業(ケアプラン作成・サービス管理)では、事業所全体のマネジメント(個々のケアマネジャーの業務管理)は存在するものの、極めて脆弱な状況にあります。それは、ケアマネジャーの役割が、利用者個別の相談・プラン作成・サービス調整などを行う、いわゆるマネジャー(マネジメント)であるためです。事業所管理者が、個々の利用者のプランやサービス調整の状況を把握し、承認する権限を有しないため、個々のケアマネジャーの「単独業務」・・セルフマネジメントに委ねられる構造になっているためです。もちろん、加算要件(特定事業所加算など)を取得するには、ケアマネ会議の定期開催や主任家マネの配置などと言った細かい要件をクリアすることになり、ある程度、管理者の関与は発生しますが、小規模事業所の場合、「ケアマネ(=個人事業主」の集まり」に過ぎないのです。

 

実際、業務監査の際、ケママネジャーの業務実施状況を確認する為、成果物である「ケアプランなどの個人カルテ(記録)」を点検すると、ファイリング方法はまちまちですし、必要書類の不備(保管ミスや作成名地陽の不備)が多数発見されます。近年になり、電子カルテ化されていても、作成途中だったり、重要な情報が誤っていたり、サービス管理上の不具合が放置されていたりと、あきれてしまうような実態を目にすることになります。

なぜこのような事が起きるかは明白です。ここのケアマネ業務に対して、他者による点検の仕組みがないためです。法的にも必要としていていない(行政による実地指導で発見され是正指摘を受ける以外は)ためなのです。

このような実態は、利用者へのサービス低下やサービス提供側のミスを招く要因になりますし、保険請求時のサービス管理ミス・誤請求を誘発し、ともすれば、損失につながりかねません。結果的に、事業所管理者の管理責任が問われるのは明白なのです。

私は、業務監査の度に、「ケアマネ業務のマネジメント強化」について指摘していました。はじめのうちは、管理者もさほど危機感を持って受け止めてもらえず、中には、「ケアマネは個人事業主だから」と開き直る様な管理者さえいました。

 

しかし、事件が起こりました。

あるケアマネが必要な手続きを怠っていた状態で、3ヶ月経過し、行政(保険者)から該当期間分のサービス提供(保険請求)を認めないという決定を受けてしまったのです。当然、サービスは提供されているわけですから、3ヶ月分のサービス料全額をサービス提供側へ補てんする責任が生じます。その結果、大きい欠損金を産んでしまいました。当該のケアマネは、日ごろから独善的な業務姿勢が強かった事もあり、最初の行政からの通知を無視してしまった事が後々厳しい処分となってしまいました。

 

この事件をきっかけに、業務監査における指摘事項に対する管理者の受け止めは大きく変わり、問題の本質追及と是正・改善策について、具体的に相談されるようになりました。

居宅介護支援事業所の管理者はほとんどが、ケアマネ有資格者が担っていました。ですから、ケアマネ業務の手順やルールには明るいはずですが、実は、他者の業務内容を見る事はほとんどないに等しいのです。もちろん、ケアマネの研修(認定・更新)ではグループワークによる研修が実施されるため、共同作業の経験は持っているわけですが、実際の業務となると、結果的に「自己流」が通用してしまうのです。そのために、何が正しいのかという事になると、意外とあいまいな部分が多いのです。

 

事件の後の監査から、この問題について、少しずつ解しながら改善を働きかけてきました。

初めに着手したのは、ケアマネの業務日報の運用でした。ほとんどの事業所では、予定表(訪問先や業務予定)は作成していましたが、結果の確認ができていませんでした。そこで、業務日報の作成を要請しました。まずは、報連相の「報」の強化です。ここのケアマネが毎日どのような業務を行っているかを管理者が把握できる仕組みを作る事です。すると、個々のケアマネで、例えば「利用者との相談時間」の長さが極端に違っている事が判りましたし、プラン作成の実務にかける時間も、サービス調整にかかる時間も、かなり差がある事が判りました。能力の差だけでなく、仕事のスタイルの差が著しいのです。当然、受け持ちプラン数が同じなら、残業発生の状況に大きく差が生じてくるわけです。ここから、改善していく課題が発見されました。

 

次に、作成書類の統一化・インデックス作成を提案しました。利用者カルテの点検を通じ、ファイリング方法がバラバラで点検しづらかった事から、まず、ファイリング方法を統一し、インデックスを作成すると、未作成のままでいた書類や不足している書類がすぐに発見できるようになりましたし、利用者の引継ぎに際してトラブルも減少させることにもつながりました。また、統一化を進めるにあたって、個々のケアマネの仕事ぶりも把握できるようになりました。もちろん抵抗がなかったわけではありませんが、ある事業所でこの提案を実践した直後に、行政による実地指導を受け、ファイリング方法に関して高い評価を得たのです。これは事業所会議で報告され、部会でも書式統一・ファイリング統一の機運が高まり、一気に広がっていきました。

 

この2点の取り組みだけでも、個々のケアマネの業務管理・マネジメントが改善され、特に、若手のケアマネ(経験年数の短いケアマネ)にとっては、「報連相」のしっかりした事業所で働けることでの満足度が高まったと思います。(実際、監査の休憩時間などで、雑談しているとケアマネからそういう声をいただくことが多くなりました)・・若手のと書いたのは、やはり、長年「自己流」で縛られずにやってきた熟練ケアマネにしてみれば、余計なお世話という感覚が消えなかったようで、「仕事が増えた」という愚痴は聞きましたが、実は、そういう方こそ、ミスが多く重大な事案につながるリスクが高いのです。先に記した事件も、実は、事業所管理者と創業以来のケアマネ2名の独断による重大なミスだったわけです。

 

訪問介護事業や通所介護事業、用具貸与事業でも、小規模になると固有の業務分担(生活相談員やサービス提供責任者など)で、他者の目が届かない(監視されない)業務にある場合、同様のリスクがあると認識すべきだと思います。(用具貸与では、先の事案と同様の手続きミスによる欠損金発生事件があった)

 

基本は、「報連相」と業務プログラム(手順)の統一化と明確化にあると思います。この点は、ISO9001(品質)規格の中でかなり細かく、要求事項とされており、内部監査による適正性と有効性チェックが行き届いていれば、すでに着手されているかと思いますが・・・。内部統制システム上でも、モニタリングの重要性は言われていますし、手順・プロセス管理の重要性も言われています。いずれにしても、マネジメントの改善に内部監査が最も力を発揮することができる領域だと思います。


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「組織管理体制」に関する監査 [5-監査事例]

これは、事業所監査の中から、派生した問題を取りまとめて、経営トップへ提案した「内部統制上の不備事項と改善提案」を解説するものです。

 

私のいた生協は、宅配(共同購入)事業・店舗事業・福祉事業・受託共済事業が主要事業と呼ばれ、これにかかわる職員は全職員の8割以上でした。

しかし、「くらしまるごと」を目指し、総合事業の展開を進める中で、移動店舗事業や文化事業、住まいの事業、その他生活サービス事業にも取り組んでいます。もちろん、事業規模はいずれも小さく、中には、職員人件費も賄えないほどの分野もあります。結果として、職員1名とパート・アルバイトといった事業所(職場)がいくつも存在することになりました。

また、管理部門のコスト削減も進められる中で、部の統合や課員減少により、課長1名・パート数名という部署も生まれることになってしまいました。

 

こうした小規模部門が乱立してくることで、想定されるリスクはなんでしょうか?

前述した「福祉部門の専門職業務」の問題と同様に、「マネジメント不全」のリスクが考えられます。

 

業務に関わる様々なプロセスでは、決裁・承認の権限が設定されます。ミスや不正防止の観点から重要な工程ですが、たいていの場合、正規職員あるいは管理職とされます。正規職員が複数以上いる部門では、申請者と決裁者は別となり、相互けん制機能が働きます。しかし、一人の職員しかいないとしたらどうでしょう。パートやアルバイトの申請に対して決裁は出来ますが、自分の申請は出来ないことになります。それでも、部門長となれば「自己決裁」せざるを得ません。

 

実際、業務監査で発見した問題事象として、「勤怠管理に関する決裁」がありました。

以前に、労務管理監査の項目でも述べましたが、宅配センターや福祉事業所など多くの職員やパートが居る事業所であっても、不適切な運用がありました。それが、正規職員一人の職場となるとどうでしょう。自分の勤怠記録を自分で承認せざるを得ない状況に置かれます。この時点で、すでにルール違反なのですが、結果として、残業認定できない状況に置かれ、サービス残業が発生してくるわけです。あるいは、休日出勤しても、タイムカードを切らない等、管理とは程遠い状況に置かれるのです。

 

これは、職員自身の問題ではありません。そうならざるを得ない環境を組織的に生み出しているのです。

部門の細分化を図り、専門性を高める。あるいは、経営改善のために「独立採算・区分管理」などを明確にするため。等のもっともらしい理由をつけて、部門縮小・人員削減を進めることを、もし意図的に行った結果とすれば、これは内部統制上の重大な不備事項に当たると考えます。

マネジメント不全の状況を組織自ら招いてしまい、不正の温床を作ることになってしまうのです。こうした視点で、組織管理体制を検証することが、なかなかできない。これが生協組織の甘さではないかと常々思っています。

 

ちょっと脱線しますが、私のいた生協では、以前・・20年以上前ですが、毎年のように、組織機構体制の変更がされていました。

当時の経営トップの「組織論」へのこだわりが強く、何か計画推進上の不具合があると(年度総括)、機構・体制を変更し、部門の統合や廃止が行われていたのです。それはほぼ毎年の様なペースでした。中期計画のスパンで変更されるのであれば、理解できます。しかし、その理由が明確になっていない。そしてもっと皮肉なことに、「機構体制が変更になっても、仕事(業務)分担が個人に付いて回る」事がほとんどだった事です。人の異動はあるが、仕事はその異動先について行くわけです。だから、極めて歪な組織機構ができてしまうのです。だから、毎年のように訊こうを変えざるを得ないのです。

若い頃(20代の頃)、それをトップに尋ねた事(文句を言ったというべきかも)がありますが、回答は明確でした。

「組織機構体制をどうするかは、経営者の最優先事項であり、組織論に裏打ちされたものだ。担当職員が意見することではない。」というものでした。もちろん、会社組織をどう作るかは経営者の手腕が問われるところでしょうが、それは、全社員、ステークホルダー、顧客にも理解されるような明快さと、効率的で合理的なマネジメントを実現するものであるべきだと思います。意見を排除する理論では成功しません。

 

ちょっとそれてしまいましたが、こうした「マネジメント不全」を改善することの内部監査の重要な役割だと思います。

 

監査報告書には、以下のような記述があります。

 

●内部統制上の不備事項

     管理後方部門や○○事業部門では、人員昨年と昨日の細分化がすすめられ、正規職員1名とパート・アルバイトという少人数部署となっていました。少人数部署では、管理に関わる業務で、不適切な処理や非効率的な作業が発見され、その問題は「監視・点検体制」の甘さにあると考えられました。

     正規職員一人の体制では、業務監視や牽制機能が脆弱になり、不正やミスを産みだしやすいだけでなく、長時間勤務は休日未取得(休日のサービス出勤)を産みだし、不適切な労務管理につながっていました。

改善提案

     少人数部署の統合や、正規職員の複数配置を検討し、業務の合理化・効率化を進めてください。特に、管理職業務の改善につながるよう、運用改善を進めてください。

 

この監査報告書は年度末に組織報告されましたが、上期報告の際にも専務理事へ報告・提案しており、次年度の方針・計画・機構体制の検討に際して、「少人数部署」の問題が検討されました。結果として、事業部門での統合と管理者配置の変更は進められ、現業部門では改善が進みました。

しかし、管理後方部門(人事総務部や経営管理部門など)では、さらに上の経営層(単協・連合のトップ層)の「経営改善」のための方策として、管理部門の統合(事業連合と単協の部門統合)が進められ、人員削減へと舵が切られてしまいました。経営管理部も内部監査部門も統合されてしまったのです。

本来、事業連合と単協との関係はどうあるべきかとも関わる問題です。ですから、正解というはないかもしれませんが、私のいた生協では少なくとも、3つの生協と事業連合は「受託・委託」の関係であり、事業連合は「仕入れ機能」を持つ事で、独立採算となっていました。ということは、単協は事業連合をけん制・監視する立場にあるわけです。しかし、それが統合されるということになると、ガバナンス不全について誰も警鐘を鳴らすことができなくなります。内部統制上の最も重大な問題を抱えてしまうわけです。

 

私が退職した理由の一つは、この問題が目の前にあったからです。何度も、管理後方部門の統合には反対意見を表明してきましたが、理解を得ることができませんでした。残念です。なかなか、難しいですね。


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「組合員活動領域」に関する監査① [5-監査事例]

組合員活動の領域について、皆さんのところではどのような監査がなされているでしょうか?

事業分野の監査はかなり丁寧に行われているにも拘らず、組合員活動や運動分野に関する監査はなかなか難しいというのが実感ではないでしょうか。

私も着任当時には、組合員活動の分野は、内部監査の対象領域外という認識でした。理由は、組合員の活動や、平和や環境などの地域の運動(古い言葉で言えば、大衆運動)の領域は、内部統制システムの外にあり、監査の基準や規程というものが馴染まないと考えていたからです。

特に、私のいた生協は、組織合併に伴い、組合員活動の考え方や歴史的経過の違いを埋めるために、組合員活動のルール・政策整備に向けた話し合いが進められ、難航していて、なかなか考え方やルールの統一が進まない状況にあったのです。

紆余曲折を経て、ようやく、組合員活動の考え方やルールが纏まり、組合員活動領域に対する監査について検討を始めた頃に、別の監査を通じて、問題事象が発見されました。

それは、予算管理に関する監査(経理部・経営管理部対象)のなかで、決算書点検作業中に、「組合員活動費の処理ミス」が発見されたものでした。端的に言えば、年度末決算に際して本来320日で全ての費用を締め、年度支出額を確定するべきところが、組合員活動に関する費用計上が提出期限を過ぎても未提出だったり、計上ミスがあったりして不正確な状態にもかかわらず、判明している範囲で経理部へ報告され、経理処理され決算計上されていたものでした。

原因調査を進めるため、組合員活動支援部における組合員活動費の処理プロセスの点検を、特別監査として実施しました。

その結果、組合員活動を支える事務局では、年度末処理という認識が甘く、組合員から提出されてきた書類(活動報告と費用計算書)を点検しているものの、担当者一人で実施し、集計表を作り、支援部長による提出書類の点検もなく、経理部へ提出するというお粗末な手順で処理していたことが判りました。そのために、未提出があったり計算間違いがあったりしても発見されず、受け取った経理部も点検すべき書類がなく、一覧表の数値を鵜呑みにして計上していたのです。

 

組合員活動そのものは自主的な活動であり、組合員自身が自由な発想で取り組むべきものであり、事務局(職員)による指導や統制を行うものではありません。しかし、そこには法令順守や不正な使用を防止するような一定のルールが存在しており、それをもとに事務局は、監視・点検する必要があります。言い換えれば、事務局機能は内部統制システムの枠の中で、マネジメントされるものだという事です。

そう考えると、組合員活動領域に関しても、事務局を対象とした内部監査が必要といえるわけです。したがって、宅配事業や店舗事業と同様の切り口で、PDCAサイクルの有効性評価を行う事、内部統制構成要素に照らして監査項目を立て、実査を行う事ができると考えました。

 監査項目は大きく分けると以下の通りです。

1.組合員活動(支援部)の計画・方針の確認

2.年度実績(委員会・サークルの登録数や予算申請)

3.事務局における業務分掌、

4.各プロセスの手順と運用の確認

5.業務の監視(モニタリング)状況

6.問題事象の報告と是正・改善状況

 

 第1回目の業務監査(定期監査)を終えた率直な感想として、組合員活動に関わる事務局は、事業分野と比べ、かなり大雑把であるということでした。内部統制システムの認識・考え方が理解されていないのに等しい状況にあるという事でした。

組合員活動に関しては、明確なルールが示されているにも関わらず、当の事務局は、担当者の「勝手な判断」でルールが蔑ろにされているのです。おそらく、これは、事務局(職員)だけの問題ではなく、組合員からの無理難題にも応えざるを得ない関係(露骨に言えば、委員会やサークルの代表に元理事の関与が多く、有無を言わせぬような場面がある)が生まれてきている事にも要因があると考えられます。もちろん、官公庁のような「杓子定規な対応」が良いという事ではありませんが、ルール違反に対してストップをかけるのも事務局の役割であるはずで、その姿勢が貫かれていないわけです。

 この問題について、支援部長とはかなり話し込みました。その上で、改めて、「組合員活動ルールの周知の仕方の見直しと、事務局の役割・あるべき姿の再確認」を重点に改善を図るよう指摘しました。

それまで、「組合員活動の手引き(ルールブック)」を発行し、活動に参加する組合員や総代・地域委員などへ配布していましたが、その取扱いは充分とは言えない実態でした。「配布したので読んで下さい」程度だったわけです。これを改めることが必要でした。改善策として、年度初めに、説明会を地域ごとに開催し、年度初めや期中や期末に提出する書類も明確にし、未提出や記載事項に不備があれば差し戻すようなルールの厳密化を図りました。当然、これまで活動されてきた組合員の方にとっては、抵抗感もあったわけですから、何度も相談せざるを得ないケースもありました。こうしたことを通じて、事務局の役割も強めることに取り組みました。この点に関しては、フォロー監査も実施し、翌年1月段階で次年度の説明会の開催に向けた準備状況や配布する帳票類も点検し、不十分な点を補強するよう改善要請を行いました。結局、支援部内でのPDCAはまだまだ不十分な状態でした。

 

 また、活動費に関する処理の問題を皮切りに、事務局(職員)には、予算管理や会計処理に関する知識が極めて乏しい事も判りました。先の「決算計上ミスの問題」のように、組合員活動支援部には、月次や年度の決算という認識がありません。春に組合員からの登録・予算申請を受けた後は、年度末の報告まで余り関与していない事も判りました。さらに、経理部や経営管理部も、組合員活動分野に関して余り立ち入らない姿勢も見られました。

こうした実態から、内部監査としては、組合員活動費の経理処理や予算管理に関して、経理部・経営管理部・組合員活動支援部の協議の場を持つ事、定期的な報告(月次報告)を行うプロセスを確立することを申し入れました。

私のいた生協は、管理部門と組織運営部門は同じ建屋(本部棟)にいます。日常的に、顔を合わせる環境にあるはずですが、それぞれ、自分たちの業務に追われ、部門間で話し合いを持つ事など皆無に等しい状態でした。特に、管掌役員が違うと、部門を超えた調整会議というのは持ちにくいようです。そこには、内部監査部門が仲介役となって、「風通しを良くする」こともできるのではないかと思います。そのことで、双方の業務が改善され、プロセスが正常化するのであれば、かなりの組織貢献になるのではないでしょうか。


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