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「組織管理体制」に関する監査 [5-監査事例]

これは、事業所監査の中から、派生した問題を取りまとめて、経営トップへ提案した「内部統制上の不備事項と改善提案」を解説するものです。

 

私のいた生協は、宅配(共同購入)事業・店舗事業・福祉事業・受託共済事業が主要事業と呼ばれ、これにかかわる職員は全職員の8割以上でした。

しかし、「くらしまるごと」を目指し、総合事業の展開を進める中で、移動店舗事業や文化事業、住まいの事業、その他生活サービス事業にも取り組んでいます。もちろん、事業規模はいずれも小さく、中には、職員人件費も賄えないほどの分野もあります。結果として、職員1名とパート・アルバイトといった事業所(職場)がいくつも存在することになりました。

また、管理部門のコスト削減も進められる中で、部の統合や課員減少により、課長1名・パート数名という部署も生まれることになってしまいました。

 

こうした小規模部門が乱立してくることで、想定されるリスクはなんでしょうか?

前述した「福祉部門の専門職業務」の問題と同様に、「マネジメント不全」のリスクが考えられます。

 

業務に関わる様々なプロセスでは、決裁・承認の権限が設定されます。ミスや不正防止の観点から重要な工程ですが、たいていの場合、正規職員あるいは管理職とされます。正規職員が複数以上いる部門では、申請者と決裁者は別となり、相互けん制機能が働きます。しかし、一人の職員しかいないとしたらどうでしょう。パートやアルバイトの申請に対して決裁は出来ますが、自分の申請は出来ないことになります。それでも、部門長となれば「自己決裁」せざるを得ません。

 

実際、業務監査で発見した問題事象として、「勤怠管理に関する決裁」がありました。

以前に、労務管理監査の項目でも述べましたが、宅配センターや福祉事業所など多くの職員やパートが居る事業所であっても、不適切な運用がありました。それが、正規職員一人の職場となるとどうでしょう。自分の勤怠記録を自分で承認せざるを得ない状況に置かれます。この時点で、すでにルール違反なのですが、結果として、残業認定できない状況に置かれ、サービス残業が発生してくるわけです。あるいは、休日出勤しても、タイムカードを切らない等、管理とは程遠い状況に置かれるのです。

 

これは、職員自身の問題ではありません。そうならざるを得ない環境を組織的に生み出しているのです。

部門の細分化を図り、専門性を高める。あるいは、経営改善のために「独立採算・区分管理」などを明確にするため。等のもっともらしい理由をつけて、部門縮小・人員削減を進めることを、もし意図的に行った結果とすれば、これは内部統制上の重大な不備事項に当たると考えます。

マネジメント不全の状況を組織自ら招いてしまい、不正の温床を作ることになってしまうのです。こうした視点で、組織管理体制を検証することが、なかなかできない。これが生協組織の甘さではないかと常々思っています。

 

ちょっと脱線しますが、私のいた生協では、以前・・20年以上前ですが、毎年のように、組織機構体制の変更がされていました。

当時の経営トップの「組織論」へのこだわりが強く、何か計画推進上の不具合があると(年度総括)、機構・体制を変更し、部門の統合や廃止が行われていたのです。それはほぼ毎年の様なペースでした。中期計画のスパンで変更されるのであれば、理解できます。しかし、その理由が明確になっていない。そしてもっと皮肉なことに、「機構体制が変更になっても、仕事(業務)分担が個人に付いて回る」事がほとんどだった事です。人の異動はあるが、仕事はその異動先について行くわけです。だから、極めて歪な組織機構ができてしまうのです。だから、毎年のように訊こうを変えざるを得ないのです。

若い頃(20代の頃)、それをトップに尋ねた事(文句を言ったというべきかも)がありますが、回答は明確でした。

「組織機構体制をどうするかは、経営者の最優先事項であり、組織論に裏打ちされたものだ。担当職員が意見することではない。」というものでした。もちろん、会社組織をどう作るかは経営者の手腕が問われるところでしょうが、それは、全社員、ステークホルダー、顧客にも理解されるような明快さと、効率的で合理的なマネジメントを実現するものであるべきだと思います。意見を排除する理論では成功しません。

 

ちょっとそれてしまいましたが、こうした「マネジメント不全」を改善することの内部監査の重要な役割だと思います。

 

監査報告書には、以下のような記述があります。

 

●内部統制上の不備事項

     管理後方部門や○○事業部門では、人員昨年と昨日の細分化がすすめられ、正規職員1名とパート・アルバイトという少人数部署となっていました。少人数部署では、管理に関わる業務で、不適切な処理や非効率的な作業が発見され、その問題は「監視・点検体制」の甘さにあると考えられました。

     正規職員一人の体制では、業務監視や牽制機能が脆弱になり、不正やミスを産みだしやすいだけでなく、長時間勤務は休日未取得(休日のサービス出勤)を産みだし、不適切な労務管理につながっていました。

改善提案

     少人数部署の統合や、正規職員の複数配置を検討し、業務の合理化・効率化を進めてください。特に、管理職業務の改善につながるよう、運用改善を進めてください。

 

この監査報告書は年度末に組織報告されましたが、上期報告の際にも専務理事へ報告・提案しており、次年度の方針・計画・機構体制の検討に際して、「少人数部署」の問題が検討されました。結果として、事業部門での統合と管理者配置の変更は進められ、現業部門では改善が進みました。

しかし、管理後方部門(人事総務部や経営管理部門など)では、さらに上の経営層(単協・連合のトップ層)の「経営改善」のための方策として、管理部門の統合(事業連合と単協の部門統合)が進められ、人員削減へと舵が切られてしまいました。経営管理部も内部監査部門も統合されてしまったのです。

本来、事業連合と単協との関係はどうあるべきかとも関わる問題です。ですから、正解というはないかもしれませんが、私のいた生協では少なくとも、3つの生協と事業連合は「受託・委託」の関係であり、事業連合は「仕入れ機能」を持つ事で、独立採算となっていました。ということは、単協は事業連合をけん制・監視する立場にあるわけです。しかし、それが統合されるということになると、ガバナンス不全について誰も警鐘を鳴らすことができなくなります。内部統制上の最も重大な問題を抱えてしまうわけです。

 

私が退職した理由の一つは、この問題が目の前にあったからです。何度も、管理後方部門の統合には反対意見を表明してきましたが、理解を得ることができませんでした。残念です。なかなか、難しいですね。


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