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テーマ監査①重点リスクからの設定事例(20180416) [5-監査事例]

内部統制によるリスク・マネジメントの結果をもとにした「テーマ監査」の事例として、「大規模災害リスク」を紹介しましょう。

①監査目的
・東日本大震災以降、「大規模災害リスク」は重点リスクに毎年掲げられ、対策の強化が進められてきた。
・危機管理規程・大規模災害対策マニュアル・BCP 等で管理基準や規程整備を進めてきたが、現場の運用実態との乖離や対応不備が起きていないか危惧されるため、監査する。

②実施要領
センター・店舗・福祉事業所をサンプリングし、マニュアル教育や防災訓練、防災備品の備蓄状況を調査。
危機管理部門(管理センター)の管理情報(現場の実践状況の管理情報)との突合、不備事項の洗い出しを行い、リスク対応を評価する。

③監査結果
A)事業所30カ所をサンプリング調査した結果は以下の通り。
・防災マニュアルの基礎教育は、月次テストを活用して実施しており、未実施の事業所は無かった。
・大規模災害マニュアルで定められている「年1回の防災訓練(消防訓練とは区分して)」は15カ所で未実施だった。未実施のうち、過去3年では3か所あった。未実施の事業所管理者からのコメントで「消防訓練を実施しているので防災訓練は不要と考えている」というものが10カ所に上った。残り5カ所は、実施義務がある事を知らなかった。
・防災備品の備蓄は、全部署で年次点検は実施されていたが、大規模災害マニュアルに定められている「備品数量」の不一致は全ての事業所で発見された。事業所管理者からのコメントで「人員変更があったり、事業所で検討し不要なものをリストから外したりした結果、マニュアルの数量・品目との差が生まれている。」というものが半数程度あった。

B)危機管理部門(管理センター)情報との突合
・危機管理部門では、マニュアル教育・防災訓練・防災備品点検結果について、事業所からの報告を取りまとめており、そのデータ(集約一覧表)とサンプリング結果を突合させところ、防災訓練の実施に関しては消防訓練実施で防災訓練を実施したことになっている事、防災備品は点検を実施したかどうかの報告の実を記録している事が判り、実態を正確に反映しているとは判断できなかった。作成担当者に確認したところ、前任者からの引継ぎによるもので、特に問題を感じていなかった。
・危機管理部門長(管理センター長)へのヒアリングで、調査結果を報告したところ、「大規模災害マニュアル策定以降、細部に関しては見直しをしておらず、実態とのずれが生じている。」との返答があった。
・また、現在の運用状況に関しては、「東日本大震災ほどの大規模災害だけでなく、局地的災害も頻発しており、昨年には豪雨による浸水や配達不能等のトラブルが発生した事もあり、マニュアルの見直しをしなければならないと考えている。」との返答だった。
・具体的な取り組みや計画については、「現在のところ、特段の計画・予定はない。」との事だった。
・「現場の実践状況の管理に問題があるのでは」との質問に対しては、「現場からの報告待ちになっており、不正確な情報が含まれている事は問題だが、全ての事業所の実施状況を正確に把握するのは実務上難しい。また、危機管理部門として現場を指導する関係にない。」との回答があった。

④監査結果から導き出せる事(所見)
・内部統制リスク・マネジメントで重点リスクとされ、対策の強化に取り組んできたにも拘らず、運用実態は極めて不十分であり、大規模災害対策(危機管理システム)は機能しないことが危惧される。
・危機管理規程・大規模災害対策マニュアル・BCPが作成以降、見直しがされておらず、現場の実態を反映できていない事から、早急に見直しを行う必要がある。-P(計画)の問題
・現場(事業所)においては、日常の備えとして、教育訓練と災害備品管理が重要にも拘らず、半数近く防災訓練を実施しておらず、備品管理も組織全体の管理との齟齬があり、万一の際の対応に混乱が生じる恐れがある。-D(運用)の問題
・運用状況に関して危機管理部門での点検・監視する仕組みも担当者任せになっており、不完全なものだった。―C(監視)の問題
・したがって、システム全体の問題点を認識できておらず、是正・改善が進んでいない。-A(改善)

⑤指摘事項
・危機管理規程・大規模災害対策マニュアル・BCPの見直し作業を早急に行い、定期的な見直しの仕組みを確立する事。
・大規模災害対策マニュアルで定められた「防災訓練」を全事業所で確実に実施できるよう、危機管理部門から指導を行う事。
・防災備品は、年次体制に照らして、必要品目と数量を一覧表にまとめ、期日を決めて補充・入れ替えを行うとともに、実施記録を取る事。
・基礎教育・防災訓練・防災備品点検等の監視項目と監視方法を改定し、危機管理部門での監視体制及び内部統制委員会への報告を確実に行うよう、ルール化する事。

⑥トップへ報告(提言)として
・最大の問題は、危機管理部門が、組織全体を把握し、運用強化に向けた指導力を持っていない事にあると思われます。
・また、内部統制委員会機能である「リスク評価と対策強化(リスク・マネジメント)」についても、的確に行われているとはいいがたい状況にあります。
・内部統制委員会並びに危機管理部門に対して、大規模災害対策の抜本的見直しを行い、指導力を発揮して現場の運用レベルの向上を図るよう指示いただきたい。


〇実際の監査では、膨大なサンプリング結果や管理部門データを整理し、一覧表に落とし込むことが必要でしょう。また、監査調書には、もっと多くのヒアリング記録ができるはずです。ここで示したものは、特徴的な部分に絞っておりますのでやや言葉足らずになっていることはご容赦ください。

〇テーマ監査では、組織横断的な監査が一つの特徴ですが、その手続き(やり方)として、直接現場の監査を行うだけでなく、質問票や資料入手という手続きも組み合わせると合理的にできると思います。

トップへの提言は、「内部統制上の不備事項」として監査報告書に記載されるものです。今回のケースでは、危機管理部門の長が、権限を持って、システム改善に取り組むため、トップによる指示(バックアップ)を取りつけることで、改善への後押しの役割も果たせることになります。(危機管理部門の長が動きやすくすること) 監査の結果から、問題点を指摘するだけでなく、組織が改善に向けて動きやすくなるための提言ができることは、内部監査の成果物として最も大事なものだと思っています。

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