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「労務監査」の勧め④ [5-監査事例]

時間管理に関して、もう一つ深刻な問題があります。

これは、事業部門に拘わらず、おそらく全部門で見られる問題でしょう。また、管理部門ほど深刻な問題となっているとも考えられます。

 

それは、「中間管理職種の長時間勤務・サービス残業発生」の問題です。

 

先の、福祉部門の問題にも含まれていますが、宅配事業や店舗事業では、部長職(センター長・支所長・店長)以外は、すべて一般職員とされていました。副センター長・次長・副店長など、現場に最も近い所で管理を主任務としている職種で、職務上、イレギュラー対応(お申し出・トラブル・事故等)の現場責任者となります。もちろん最終責任は、部長職になるわけですが、会議などで部長職は不在がちであり、現場職員にとっては、中間管理職種のトップが拠り所です。現場で急な欠員が出れば補充のために現場に出ることも多く、休日すら満足に取れていないという厳しい状況ではないでしょうか?

 

 

2.中間管理職種の業務改善の進展

 

 人事部データ(打刻データ)の分析の中で、長時間勤務傾向のある職員を定点観測すると、副店長や副センター長・グループマネジャーや部門主任等の中間管理職種の名前が毎月の様に抽出されました。

 また、年間休日取得データでも、有給や指定休日の未取得も同様の傾向が認められました。

 

 全体の時間管理改善の運動が強まるにしたがって、担当者レベルの長時間勤務が減る一方で、中間管理職種の長時間傾向が強まり、36協定違反ぎりぎりの勤務時間になる傾向もみられました。明らかに、時間修正を行っていると判るケースもありました。

 

 現場監査では、事業所全員分の打刻データと時間管理表を突合し、不整合を洗い出すことにしました。その結果、中間管理職種ではかなりの量の打刻修正(残業カット)が行われていることが判りました。現場では、打刻データをもとに時間管理表を作成し、月次で人事部へ提出する手順になっていますが、その作業で、自らの打刻の修正を中間管理職種で行っていたのです。ほとんどのケースは、上長(センター長や店長)からの指示ではなく、自らの意思で行っていたようでしたが、最終点検者であるセンター長や店長も黙認している実態があり、かなり重大な問題だと判断しました。

 

 最初に着手したのは、宅配センターでした。

 センターは、「センター長-副センター長-グループマネジャー(課長職)」がいわゆるセンター運営メンバー(管理者層)となっていて、大規模センターでは総勢100名程度の職員のマネジメントを行うことになります。現在のセンターは、システム化や分業化が進み、多様は雇用形態と職種で構成されています。配達業務だけ見ても、正規職員・パート・委託業者がありますし、出庫物流業務や事務業務などすべてが関連しセンター業務が滞りなく進むようなプロセスとなっています。さらに、配送効率の追求から、シフト配送も広がり、物流の早朝業務(朝6時)から最終終了(午後10時)までの長時間稼働が当たり前となりました。

1日の全ての動きを管理者が把握することは困難な実態となっています。したがって、セクション(グループ)ごとに管理者が置かれ、それらすべてを把握するのは実質的に副センター長という事になります。順調に進んでいれば良いのですが、何かトラブルがあれば、早朝から深夜まで対応を余儀なくされる立場となり、当然、気の休まる日はないというのが実情でしょう。

グループマネジャーは、10名程度の担当者のマネジャーで、課長職が中心です。配送パートの増加に伴い、急な欠勤も多く、グループマネジャーは配送体制の補充に回る事も多く、結果的に、残業が発生しがちです。

このように、センターの中で、副センター長やグループマネジャーは、ルーチンワークよりもイレギュラー対応のために定時で業務を終了する事が難しいポジションにあります。前述のように彼らは時間管理業務も行っており、自らの残業時間を確実に把握できるところにあるため、組織全体で「業務改善・時間短縮」が取り組まれた際に、センター長からの呼びかけに答える形で、不適切な打刻修正を行うようにならざるを得ない状態にあるわけです。(もちろん全てがそうでありませんが、自らの評価を高める意識からそういう風に動きがちでした)

 ここまで見ていくと、これは、構造的で根深い問題がある事は明白です。いくら、内部監査で「36協定違反や労基法に抵触する事態であり、速やかな是正が必要」と指摘したところで、簡単には解決できるものではありません。幾つかの問題事象を取り上げ、一つ一つ、もつれた糸を解すような改善が必要でしょう。

 

一つ、特質的に取り組んだ事例があります。

 

以前にもブログ記事に掲載していますが、センター運営メンバー全員を対象にした「CSA監査」です。自らの事業所の課題について、運営メンバー全員で抽出し、解決への道筋を自ら探して行く手法です。実際には、二つのセンターの統合という機会に、運営ルールの改善(統一化における課題改善)をベースに、各管理者の業務整理(重複業務の整理や廃止)を進めることで業務改善と時間短縮を進めるものでした。CSAを実施する中で判ったことは、それぞれの管理者がお互いの業務内容について余り理解していない事でした。おそらく、業務プロセス全体を把握しているのは副センター長だけかもしれませんでした。したがって、個々の抱える業務には、重複も多く、集約的に実施すればかなり時間短縮につながる事も発見されました。また、インフラの整備やPCデータの活用などを進めることでさらに改善できる可能性も発見されました。CSAを通じて、長時間勤務の問題を共有できたことで、以降は、合理的な業務プロセスを求める気風や思考が強まりました。端的に言えば「長時間勤務する事は業務改善できていない証拠」という認識が高まり、この意識がセンター全体へ広がったという事が最も大きな成果だったと思います。

 

 二つ目に取り組んだことは、センター監査の結果を部門監査報告にまとめ、事業本部(宅配事業本部)監査で、本部長ヒアリングを通じて、部門課題として共有し、改善に向けた対策を要請した事です。本部長として、センターの時間管理問題はある程度認識していましたが、実態を知る事で深刻さを共有でき、具体的には、モデルセンターを設定し、人事部門と事業本部による「業務改善プロジェクト」を発足させ、日常業務を洗い出し、一つ一つの作業時間の目標設定や不合理な作業の変更を1年間かけて取り組んで、残業ゼロを目指すことになりました。これはかなり高い成果になりました。一番大きな成果は、それまで定着しづらかった配送パートの定着率が向上し、日常の体制安定が図られたことです。結果として、副センター長やグルプマネジャの残業は大幅に減少しました。そして、この結果をもとに水平展開へと動くことになり、部門全体で「長時間勤務の削減」が当然という認識作りにつながりました。

 

 まだまだ、改善の余地はありますが、あきらめムードだったところに一筋の光が差したようで、おそらく、今後も業務改善の取り組みは継続していくと思います。これこそ最も大きな成果ではないでしょうか?

 

 経営トップは、コンプライアンス・経営改善等を重視し、労働時間の削減(時間短縮・サービス残業撲滅等)を宣言する事はあっても、現場の受け止めは、かなり冷ややかになりがちです。トップが言ったところで、現場はそんなに簡単には動きません。特に、管理者層は、計画達成のためには時間外労働はやむを得ないという意識は根強いものです。彼らの意識をどう変えていくか、自らの問題であり、取り組めば成果につながるという実感を得ない限り前進はありません。そのために、内部監査は「アドバイザリー機能」を発揮していくことが重要だと考えます。

 ただ、残念な事もあります。私のいた生協は、店舗事業は大きな赤字を抱えて苦しんでいました。店舗事業トップは総代会で「赤字半減を目標に取り組む」と宣言し、「売り上げ拡大と現場の人員削減」の大号令をかけ、現場への圧力を強めました。結果として、正規職員へのしわ寄せが強まり、開店から閉店後までの勤務を強いられるような状況も見られました。内部監査で問題を指摘しても、部門トップが「積極的に黙認」している実態では、現場は変わらないのです。・・・これ以上は止めておきましょう。組織問題になりかねませんね。

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