SSブログ

「福祉事業:介護事故」に関する監査② [5-監査事例]

福祉事業では、身体に危害を与える「重大な介護事故」だけでなく、もっと頻繁に発生している事故があります。それは、ホームヘルプの際の「物損事故」です。

 

私は当初、この問題をあまり重視していませんでした。

幾度かの現場監査でも、事業に多大な損失を与える様なものではなく、弁済・補償の手続きや記録化も適正にされているという認識でした。

 

しかし、ある事業所で重大な事故が発生し、専務理事から「もっと丁寧に監査するように」との厳しい言葉をいただきました。

事故の内容は、「ホームヘルパーが家事援助で室内の掃除を行った際、飾られていた花瓶を落下させ破損した」というものでした。

事故の事実は、すぐにヘルパーから当該事業所・サービス提供責任者へ報告されていました。また、事故発生時には、利用者(ご高齢の女性)から「古いものでそれほど高価なものじゃないから、(弁済は)良いよ。」との了解を得たとの事でした。

当該事業所のサービス提供責任者は、それを確認し、翌日、謝罪に訪問しました。対応されたのは、利用者の息子さんで、「高価な花瓶だったから、補償してくれ」とのこと。すでに破損品は片付けられてしまっていて、どれほどのものか確認するすべもなく、結局、その息子さんの言い値で弁済せざるを得ないことになってしまいました。(法外な金額要求だった)

結局、その額は、事業所長(課長)が決裁できる金額を大きく超えており、上長(事業部長)決裁となり、事実関係を確認し、最終的に役員に報告されることになったわけで、その段階で初めて、経営トップの知る所となったわけです。既に相手とも物損補償の示談も終了しており、法外な金額を支払うしかない状態でした。

家事援助における物損事故(ミス)が多大なる損失へ繋がったと同時に、利用者(この場合ご家族)の法外な要求を受け入れるという事態につながった事も、組織として承認できるものではありませんでした。

 

なぜこのような事態に陥ったのか。

業務監査で何故こうしたリスクを指摘できなかったのか。

内部統制上の不備として是正・改善提案できなかったのか。

 

そういう視点で経営トップからは指摘されました。

これは明らかに、内部監査の失態です。

こうした事態を招かないよう、より丁寧に監査することを指導されて当然だと思います。(実は、これには伏線があり、この事故が発生する以前にも、いくつか重大な業務上のミスによる損失が続いていて、内部監査への期待が最も高く状況の中で起きたことも厳しい指導となった要因だったのです。)

 

では、こうした事態を招かないために、内部監査はどのような監査に臨む必要があるのでしょうか?

 

先に述べた「介護事故」と同様のロジックで考える必要があります。

事故リスクへの認識はどうか、日常的な監視(モニタリング)はどうか、報告と事後対応のルールはどうか、ヒヤリハットの取り組みは有効か、いわゆる「身体危害を伴う介護事故」だけでなく、「物損事故」も同等のリスク意識をもって臨むことができているか。

こうした項目で監査していれば、これほど深刻な事態を産むことはなかったのではないかと考えます。

 

その後の監査では、訪問介護事業では、ヘルパーの業務報告やヒヤリハット報告を丁寧に読む作業を追加しました。

 

すると、「鍋の取手を壊した」「しゃもじを折った」「お皿を割った」などの家事援助中の物損事故は、かなりの件数発生していることが判り、大半は「利用者が了解してくれた」ことで事なきを得ているように報告されているのです。また、同等のものを購入して補償したという事例もありました。中には、ヘルパーが「自分のミスなので自分のお金で購入して弁済した」というものさえありました。

 

自己管理のプロセスを確認すると、結局、物損事故が起きた場合の対処方法が共有化できていなかったことが判りました。

 

すぐに、福祉事業本部へ、部門監査報告として、事故対応時の対応マニュアル・ルールが未整備である事を指摘事項としました。

福祉事業本部では、当初、介護事故対応マニュアルは整備されており、物損事故も同様に対処されていると認識しており、監査結果に驚き、すぐに「事故対応マニュアル」の検討・整備が進められました。そして、訪問介護部会や通所介護部会などを通じて検討され、運用が始まりました。

 

特に、訪問介護部会では、定例開催のホームヘルパー会議を通じて、物損事故発生時の対応マニュアルの学習会や、ヘルプ手順確認時の事故防止策の徹底等、これまで以上に重視されるようになりました。

最も大きく変わったのは、訪問介護サービス提供前の「アセスメント」(サービス提供責任者が実施)の際に、家事援助サービスでどのような作業に事故リスクがあるかを詳細に点検するようになったことです。

先に書いたように、物損事故は使用する機材(食器類や調理器具)の老朽化や家財道具の劣化等に起因するケースが多いため、作業と機材・家財の関係も詳細に点検することになりました。また、破損が発生した際、現品確保(回収或いは写真撮影)を行い適正な補償額を確認できるようにしておくことも徹底されました。この辺りの考え方は「交通事故」の対応と類似していると思います。

 

リスク認識が生まれたことで、予防措置として何が必要なのか、部会での協議の成果だと思います。

また、最終的に、保険適用(福祉事業保険)も相談窓口を明確にし(事業本部内に担当配置)、事故発生時の手順の確認や必要書類の作成、相手方との交渉などの業務を専門的に行えるようになりました。

 

重大な事故を契機に、内部監査が、重点的に監査することで、各事業所の問題を客観的に整理し、問題の所在を指摘することができれば、かなりハイレベルな改善が進むことがよく解った事例でした。


nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント