「安全運転管理」に関する監査② [5-監査事例]
事業所監査の結果をもとに、組織全体の管理についてはテーマ監査として実施します。
前述したように、私のいた生協では、「生協車両運転規則」が定められていて、事業所ごとの安全運転管理者・安全運転トレーナーが配置されていると同時に、それを総括するのは、人事部内に専任担当が置かれ、それをバックアップする形で「安全運転センター」への業務委託がされていました。
したがって、安全運転管理プロセス全体のテーマ監査では主管部署(人事部)が対象となりました。
2.安全運転管理部署への監査(テーマ監査)
安全運転管理システムの概要は以下の通りです。
統制環境 |
法令 |
道路交通法・車両運送法等 |
環境整備 |
「倫理方針・行動規範」の周知 |
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リスク管理 |
アセスメント実施 |
交通事故リスク(保険によるリスク転嫁を除く)-信用リスク |
統制活動 |
内部規程類 |
生協車両運転規則(東海) |
主管部署 |
人事総務部 |
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機関会議等 |
安全衛生委員会(規則への記載はない) |
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機関会議等 |
安全運転トレーナー会議の開催 |
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教育訓練 |
安全運転管理者・車両運行管理者の教育 |
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教育訓練 |
安全運転トレーナーの育成・教育 |
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アウトソース |
安全運転センター |
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運用 |
安全運転管理者の専任・資格取得・届出(道交法74条) |
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運用 |
事故違反報告・事故検討会(規則14条~17条) |
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運用 |
生協内運転免許認定制度(規則3条・23条~35条) |
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運用 |
安全運転トレーナー制度(規則18条~22条) |
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運用 |
交通安全フェスティバル実施 |
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運用 |
日常教育(KYT・トレーナーによる教育指導) |
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運用 |
始業時点検の運用 |
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情報 |
報告 |
主管部署からの「安全衛生委員会・内部統制委員会」への報告 |
伝達 |
安全衛生委員会(常務理事会)での決定事項 |
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コミュニケーション |
安全運転センターとの情報共有化(DB・会議等)・外部情報受入 |
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モニタリング |
日常監視 |
安全運転の日常監視 |
モニタリング |
月次報告(部署ごと、人事総務部集約) |
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モニタリング |
SDカード(事故違反記録照合)発行実施 |
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監査 |
内部監査(経営監査) |
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是正・改善 |
モニタリング結果からの是正・改善の実施 |
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レビュー |
代表理事による年2回のレビュー(12条)からのアウトプット |
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IT活用 |
DB活用 |
安全運転DB(事故報告含む) |
安全運転管理システムの監査では、上記のシステム概要をベースに一つ一つの整備・構築・運用実態を確認することになりますが、現場監査で発見した不備事項から、日常教育・始業時点検、日常監視、月次報告の在り方についてを重点に監査しました。
ヒアリングしたのは、人事部長と安全運転管理責任者(人事課長)ですが、ここでかなり深刻な問題が発見されました。
「生協車両運転規則」により詳細に管理体制や手順は定められているものの、事業連合全体で承認された「規則」であり、20年以上前から、見直しがされていなかったのです。運用に当たっては、法改正に照らして問題のないようにしているのですが、「規則」が現実と乖離している事を人事部課長も認識しているのです。しかし、従来から「安全運転センター」に依拠して取り組んできたために、単協の内実は空っぽに近い状態でもあったわけです。
正直なところ、安全運転センターにはかなり高額な業務委託料が支払われているのですが、コストパフォーマンスについては検証できていない、検証する対象となっていないのです。
安全運転は極めて重要な課題であり、トップも重点リスクとして統制強化を指示していながら、実態は安全運転センターに丸投げ(極論ですが)という状態ともいえるものです。むしろ、現場・事業所はそういう遅れた実態を自らの意思で克服する努力をしているわけで、統制不備は明らかだと言えます。
まずは、この問題を最重点に指摘事項としました。「生協車両運転規則の検証と有効性向上」「安全運転センターの業務委託内容の見直しと有効性評価」という指摘です。
しかし、人事部長はこの指摘に難色を示しました。(安全運転センターは役員が社長兼務、顧問契約先は役員の要請・指示による)・・・残念ながら生協でも、いわゆる「忖度」が働き、「触れられない領域(聖域)」という認識が組織内で定着している・・これは、内部監査としては踏ん張りどころです。
こうした悪しき認識をどう是正するか。やはり、監査報告(エグゼクティブサマリー)の中で、明確に問題を指摘する以外ないと判断しました。
経営トップは極めて渋い表情を浮かべていました。
監査報告は、同時に監事へも報告しますので、監事会でもこの問題は重視され、監事による経営監査のテーマにもなるわけです。必ず、監事監査で適切な回答をしなければなりませんので、内部監査の指摘事項を無視することはできないのです。(「法定監査との連携」の意味がここで発揮されます)
少し、話が「安全運転管理」から離れてしまいましたので、戻します。
テーマ監査では、根本的なシステムの問題の指摘と同時に、現場の取り組み(事業所・事業部門)も報告し、全体システム管理の立場から、支援・指導するよう要請しました。その中で、全体で行っている「安全運転トレーナー会議」の運用改善(宅配センター主体の運用から、事業部門別の運用改善)、KYTのレベルアップ(動画活用・単協独自の教育訓練の運用)、事故検討会の内容検証や事故発生者への個別指導の定式化、新人職員・パートの運転訓練強化(自動車学校など新たな教育制度の検討)等、単協独自に強化できる項目を整理し、是正・改善を進めることで合意したのです。
まだまだ成果が見える段階ではありませんが、内部監査が一石を投じる事で、マンネリ化・硬直化して、有効性を失っているシステムを改善する事へ繋がると信じています。
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