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福祉現場の「虐待事案」をマネジメント視点で考える① [7-マネジメント]

先日、職場で「虐待に関する研修」がありました。

法人の虐待防止委員会で作成した「虐待場面シナリオ」をみんなで演じてみて、感想や気づいたことを出し合いました。

教義的ではなく、「気づき」を基本にし共有化するという手法は、なかなか興味深いものでした。それなりに演技力のある職員も多く、リアルでかなりのものでした。


ざっくり説明すると、こんなシナリオでした。

通所作業所での一場面。

登場人物は、4人。

新人の職員Aとある程度経験を積んだ職員Bのふたり。

そして、自閉症の利用者Cさん(強いこだわりがあり、いつもと違ったことがあると動けなくなる)と、感覚過敏の利用者Dさん(音や声に恐怖を感じパニックを起こす)。


経験のある職員はその場で全体を管理するポジションにあり、ある利用者が予定通りに動いてくれなくて、全体のスケジュールに影響が出そうになって、苛立ちが募り、強い口調で指示し、さらに、利用者に向かってひどい言葉を発するというシナリオ。


利用者に対して、厳しい言葉を投げつける「虐待」。そしてそれが周囲へ影響して他の利用者も傷つけるという構図。

現場経験者からは「あるある」だという感想も出ていました。

私も、演じながら徐々に苛立ちが高まっていって、場面の最後には思わず手を上げそうなところまで気持ちが高揚していました。

もちろん、「強い言葉=虐待」であり、決して許されることではなく、経験を積んだ職員の猛省を促すべきだと思います。

研修参加者からは、「焦らず落ち着いて、セルフコントロールすべきだった」とか「新人職員でもそういう行為を止めるべきだった」とかの感想が出されていました。

同感です。

「こういう行為は行なってはいけない」という認識を共有することが通常の「虐待防止研修」です。十分に研修の目的は達成されたと思います。

各自、それをきちんと理解し、虐待はしないという考えを身に着ける。重要なことです。


でも、それで、虐待がなくなるでしょうか?「やってはいけない」と理解していても「やってしまう」、だから虐待はなくならないのではないでしょうか?。


これをマネジメント理論で考えていくと、より実効性のある研修になります。

1つ目は、「マネジメントにおけるプロセス管理」からこの問題事象を捉えてみるということです。


仕事(業務)は、一つ一つの小さな作業プロセスが連続し積み重なって進んでいき、目標に達するものです。

問題が起きたとき、そのプロセスごとに点検し、問題を発見することで再発防止策が有効になっていきます。


今回の事例は、虐待に至るプロセスは3段階ありました。

①初めは全員に対して落ち着いて「作業へ移行する指示」をしました。

②予定通り動き始めたとき、ある利用者が突然動けなくなる。その時、そばにいた新人職員が「〇〇さんが動きません」と発言するのです。

③次は、その職員に向かって「代わって!」と指示し、「虐待」とされる、大きな声で「否定的な言葉」を投げつける。

③が虐待発生の場面です。

 

マネジメントのプロセス管理では、事故トラブル発生のプロセス全体を見て、特に、問題のプロセスの一つ前のプロセスに着目して、問題を分析します。


今回は②の「新人職員」の対応プロセス。

「○○さんが動きません!」と先輩職員に言葉を投げるプロセスです。

実は、これが、虐待のトリガーになりました。

経験ある職員から見れば、「利用者が動けない」というような事態は予測できたはずですし、そのときの対処も知っているのです。

しかし、新人は、目の前の「不都合な現象」を、単に報告するだけで何の対策もできない状態にあった。

「見ればわかる。だから、そんなときはどうするか考えろよ!」と思わず言いたくなる場面です。

この段階で、経験ある職員には、利用者に対する「苛立ち」ではなく、「新人職員への苛立ち」が生まれたはずです。そして、それが、次のプロセスで利用者へ向かってしまった。


虐待場面で起こる現象には、利用者本人への苛立ちやストレスだけではなく、別の苛立ちやストレスを利用者へ向けてしまうということも多いのです。

入所施設で起こる虐待事件で、「ストレスがたまっていた」という常套句で報道させるのがそれです。

「不満のはけ口を弱者に向ける」そして、知らず知らずのうちに他の人がそのトリガーを引いているということもあります。


今回のケースでは、着目すべきは、虐待発生の一つ前のプロセス、「新人職員がトリガーを引いた場面」。

新人職員はなぜ「動きません」という報告で終わってしまったのかということです。

想像できることは職場内に「新人は経験者の指示に従って動けばいい」という風土があったのではないかということです。

暗黙の了解として、「自分で判断せずに先輩に訊くこと」を訓練されていたのではないか。もし、新人に対して「自分で考えて動く事」を訓練していたら、新人職員は「動きません」とだけ報告することはなかったはずです。

ここが虐待のトリガーになっていると捉えると、虐待防止対策は、大きく変わってきます。

そういう視点で虐待事案を検証してみてください。

経験のある職員に対して「虐待」をしないように注意するだけでなく、そこへつながった新人職員の対応を見直し、どうすればよかったのかを考えることになります。

同様のことは、現場の様々な場面にあるのではないでしょうか?

福祉の現場では、パート職員が多く、正規職員が少ない傾向があります。また、新規採用された正規職員よりもはるかに経験豊富なパート職員が、実のところ、現場を回している。そういう実態をよく聞きます。

チームケアの理念で、皆が協働できているのならうまく回っているでしょうが、正規職員とパート職員の待遇差とか、責任とか、様々な条件が重なると、かなり歪な職場環境が生まれやすくなります。

表面的には、正規職員が管理しているように見えて、実は、経験豊富なパート職員がボスのごとく振る舞っていて、若い正規職員が無用なストレスを抱えてしまうなんてこともあるようです。

こうした職場では、ストレスをため込んで、何かのきっかけに「虐待」が生まれるということが十分に予想されます。

「虐待かな?」と感じたとき、じっくり職場環境を見てください。歪がどこかにあるはずです。そしてそれを管理職だけでなく、職場全体で解決すること。そういう風土を維持するマネジメントを作り上げていくことが、虐待の根本解決になると思います。

蛇足になりますが・・・ストレスが、他者へ向かうと「虐待」。中に抱え込んでしまうと「心の病気」に。自己防衛のために「休職」「離職」。深刻な事態になれば「自死」へとつながるでしょう。いずれにしても、個人の責任ではなく、不正常なマネジメントの結果と考えるべきです。

 

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