SSブログ

「福祉事業未収金」に関する監査 [5-監査事例]

様々な監査手法①「定期監視活動」の中でも少し触れましたが、今後、福祉事業の拡大を目指されている生協では、必ず、問題となってくることに「個人未収金の回収不能」の問題があります。

ここでは少し、実例を挙げて、監査の実際と指摘・改善の提案について述べたいと思います。

 

私のいた生協の福祉事業は、年間20億円ほどの事業規模でした。

2億円にも達していませんが、利用者人数は途轍もない数になります。

一人一人の月利用額は、基本的に保険請求事務によって作成され、請求事務が発生します。数千円の人から数万円と、利用頻度や内容によってばらばらです。そして、利用金額の支払いは「口座振替」を基本としていましたので、請求から1ヶ月以内に、未払い(引落不能)が判明します。ルールとしては、宅配事業と同様に、翌月再請求ののち、さらに引き落とし不能となれば、督促状が発行され、最終現金回収ということになります。

 

定期監視活動では、この個人未収金の動きについて、経理データをもとに点検を掛けていましたが、福祉事業でも、ざっと30人から40人程度が引落不能状態となっていました。事業所単位で見れば、12人程度なので、個別に相談し、滞りなく引落ができるように働きかけをしていました。

 

しかし、私が監査に配属された当初は、こうした未収金の動きが、事業本部でも事業所でも全く把握できていませんでした。経理部だけで未収金が発生している事を認識できている状態で、会計士からも指摘を受けたこともあり、内部監査室と経営管理部・経理部・福祉事業本部で、未収金管理システムの構築を進め、事業所における個人未収金の管理ルール(宅配事業同様の記録管理)が適用されることになりました。大きく前進しました。

 

その後、未収金管理の実態がより明確になっていく中で、深刻な問題が見えてきました。

 

最も重大な問題は、「長期未収金の存在」でした。私が生協をやめる直前の記録では、2名の利用者が長期未払いとなっていて、額も数十万円に達していました。それ以前にも数名の方がいらっしゃいました。

 

高齢者の方の収入は、基本的に年金です。年金は2か月分まとめて入金されるため、引落不能になる可能性の高い月と低い月があります。これは現場でも理解できているため、一旦引落不能となっても翌月支払い可能というのはよくある話です。年金が少ない方は収入がない場合には、生活保護受給となっていて、個人請求はなく全額公費負担のため、未収金にはなりません。そういう点で、福祉事業で個人未収金が膨らむのは余り想定されていないのです。

 

では、長期未払いはどうしてうまれるのでしょうか?

 

最も重大な問題は、「パラサイト世帯の存在」です。高齢者世帯の「老々介護」が社会問題化しつつありますが、同様に、「親の年金を当てにして同居している子」が、結局、収入がなく親の年金を自分の生活費に充ててしまっているのです。未払いが発生した場合、本人への請求はもちろんですが、家族へも支払いを請求します。同居だけでなく別居の親族があれば、相談させていただくことになります。

 

今回、私のいた生協の事例では、同居の子(成人・高齢)が一旦は支払う約束をしながらも結局支払いを渋っている状況でした。行政(社会福祉事務所)へも相談しますが、行政は個人の支払いにまでは口出ししません。そのため、事業所の担当者や管理者が個別に粘り強く対応をすることになります。ただでさえ、長時間勤務の傾向にある福祉事業ですから、こうした事案はさらに業務負担となります。

 

経理部から未収督促・長期未収の発生報告と改善要請が事業所へ届いても、なかなか成果にならない(支払いが完了しない)という実態に突き当たります。

 

実際、この問題が発生している事業所では、この問題について、管理者やサービス責任者とじっくり話し合うことになりました。構造的には前述のとおりですから、現場としては引き続き粘り強く対応するほかないというのが結論です。しかしそのための業務負担は多大なものです。他にも、課題はたくさんあります。そして、該当事業所に留まらず、同様の構図で長期未収金につながりかねない実態はほとんど事業所にある事も判りました。

 

さらに悩ましいのは、宅配事業と違って、未払いが嵩んでいるから「サービス提供を中止する」という判断が難しいという事です。通所や訪問介護のサービスを受けている本人にとって、利用中止は「命に拘わる」事態です。サービス提供側としても「未払いがあるからサービスを中止する」とは言えない心情的な問題もあります。

 

しかし、こうしているうちに未払い額はどんどん膨らんでいくわけです。先ほどの2名のように数十万円ともなれば、月の年金額を遥かに超える額ですし、一気に支払う事などできるはずもなく、分割入金の補法を探る事も必要なのです。未収金問題の解決を迫る事は、まさに、利用者もサービス提供側も苦渋の選択を迫ることになるわけです。

 

内部監査としては、この問題をどう解決すべきか、まずは、福祉事業本部と相談することにしました。その際、宅配事業における長期未収金管理を参考にしました。

 

宅配事業の長期未収の大半は、「意図的未払い」です。センターからの働きかけと未収金対策課(事業本部内)からの働きかけ(未収金督促)の2段階と、最終、債権回収会社への委託という形をとっています。それでも、年次で数百万円の欠損(除名処分と出資金回収、特別損失計上)が発生しています。500億規模の宅配事業ですから、収益上の影響は比較的小さいという組織的判断に基づいて実施されているわけです。

 

では、福祉事業はどうか。

これまで、未払い金に関して特別損失などの計上ルールはありませんでした。結果として、何年もにわたる長期未収金が存在していましたし、対応も長期化しているわけです。まずはここを改善できないか。支払い不能であると組織として認定し、欠損処理のルール(申請と組織承認)を整備することにしたのです。当然、この判断の前提としてサービス提供の中止も盛り込まれますし、行政への報告も付随することになります。また、そこに至るまでに、事業所としてやるべきことも明確にしました。利用者本人の支払い意思の確認や、親族・家族による支払い能力・意思の確認、分割入金の約束状の作成等、未収金管理ルールを整備することになりました。

 

これにより現場の対応は変わりました。欠損金処理ルールが整備されたことで、事業所として、そこへの移行を前提に利用者対応を強める事が出来たのです。組織ルールを提示し、利用者とより丁寧に対応すること、そして一定の期間の対応で結論を出す事が目標化されたわけです。

述のように、長期未収金は現状2名に留まり、その2名についても、分割入金の約束が取れています。(実際の入金は滞りがちなのが次の課題ですが)

 

問題点を発見し、指摘し是正・改善要求を行うだけで、内部監査の業務は終了しません。もちろん、内部監査基準では、指摘事項への是正・改善は、監査対象の判断に委ねられることとなっていますが、経営に資する監査を目指す以上、アシュアランス機能だけでなく、アドバイザリー機能を発揮し、問題解決のためにできることに尽力することも、内部監査の重要な役割だと考えます。

 


nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント