様々な監査手法③内部統制自己評価を用いた監査(20180503) [5-監査事例]
「内部統制自己評価を用いた監査」は、特殊な事情で実施したものですが、アドバイザリー機能の一つとしてみた場合、ある程度有効だと思っておりますので、紹介しましょう。
大規模宅配センターが新設され、2つのセンターが統合され、新体制で運営が始まった段階で、トップから、新センターのマネジメント強化に関するアドバイザリーの指示がありました。
当該センターの定期業務監査は、半年後の予定でしたので、何か別の方法でと考えてみました。
まず、2つのセンターが統合されることで、どのような問題が発生するかを考えました。
当然、二人いたセンター長のうち、どちらかが長に残ります。副長も4人から二人へ減員されます。マネジメントラインが大きく変わることは明白です。マネジメントラインの変更は、運営手法やルールも含め、相容れない要素を多分に含むことになります。混乱や不満は当然高まるはずです。これは、不正の動機に繋がり、不正リスクが高まることが予測されます。
業務プロセスでは、それぞれのセンターの規模の違いで、職務分担の違いがあるために、統合により、抜け落ちや重複が発生することも予測されます。事故やミスの発生リスクは高まります。
また、配属される職員数も、センター全体では、100人を超え、委託配送業者を含めるとさらに大人数のセンターとなるために、日常コミュニケーションの欠如やハラスメントのリスクも高まることが予測されます。
何より重要なのは、センター長・副長・グループ長等の運営管理メンバーが、何処までリスク認識を持ってマネジメントに臨もうとしているかだと考えました。
そのための手法として、「CSA(コントロール・セルフ・アセスメント)」はどうかと考えました。
いきなり、小難しい内容ではなく、運営管理メンバーが自らの問題と捉えて参加できるよう、できるだけ平易な内容にすべきだと考えました。
以下が「進め方」として提示したものです。
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1. 監査主旨説明(目的・進行・結果対応) 10分
① 「専務懸念事項」であること。-運営上の問題が起きていないか(可能性も含め)。旧センターの運営ルールとの違いから、「不平不満」が発生していないか。
② 「不正のトライアングル」
l 動機(不平不満・自己利益・劣悪な労働環境・人間関係)
l 機会(管理不備・統制不備・監視不備・マネジメント不在)
l 正当化(自分だけじゃない・他にもやっている人がいる・上司が悪い)
③ ハラスメント問題(パワハラ・セクハラ・いじめ等)
④ 業務の効率性・有効性-業務課題の適正分担・能力発揮・目的の明確化等が管理者によって為されているか(経営者のコミットメント)
■ 今回の監査では、「適正なセンター運営」が出来ているかどうか、アシュアランス(保証)とアドバイザリー(助言)を行うのが目的。
■ 不正摘発とか管理者評価を行うのが目的ではありません。‐専務懸念の払拭‐
2. 直感テスト実施 5分
* 30問の直感テストを各自記入-一旦回収して、初期値として反映する。
* 結果の公表-直感レベルでのセンターの運営課題の整理<重点リスク評価>
3. 監査:実査 80分
* 直感テスト項目(30問)に沿って実査
4. まとめ 15分
* 監査結論を導き出すための振り返り・話し合い
5. 監査所見と手続確認 10分
* 本日の監査結果を「所見」として整理。指摘事項について是正・改善報告書の提出を求めます。尚、監査結果は、月次の監査報告会で、専務へ報告し、必要に応じて事業部門統括へも報告します。
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肝になっているのは「30問の直感テスト」です。
≪実際のテスト≫
区分 |
項目 |
設問 |
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1 |
目標管理 |
方針・計画 |
全体方針は周知されていますか? |
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予算 |
予算達成に向けた実行計画は策定されていますか? |
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個別目標 |
チーム(エリア)ごとの目標や課題は明確に示されていますか? |
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個人目標 |
個人ごとの業務目標は示されていますか?(面談実施評価) |
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月・週単位 |
週次・月次の具体的な目標は示されていますか? |
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2 |
マネジメント |
運営ルール |
センターの運営に関して、明示されたルールがありますか? |
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職場会議 |
職場会議は定期開催され、積極的な参加で運営されていますか? |
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日報・週報 |
日次や週次の業務報告は、丁寧に作成され、上長に提出されていますか? |
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コミュニケーション |
部下からの相談は積極的に受けていますか? |
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ケア |
上長は部下に有効な指導・支援をしていますか? |
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3 |
管理業務 |
商品管理 |
お誘いサンプル・誤欠配品・追加発注品の管理は適切にできていますか? |
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現金管理 |
小口現金はルール通り管理・運用されていますか。(出納責任者と管理者の二重チェック) |
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鍵管理 |
施設・金庫・トラックの鍵類は毎日点検していますか?〈預かりの鍵も含めて) |
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施設管理 |
防犯防火対策はできていますか?(施設点検表による点検運用はどうか) |
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申請決済 |
ルールに沿って、申請・決済(押印)はされていますか? |
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4 |
労務管理 |
契約書類 |
定時職員全員の労働契約は期限内に結びましたか?(更新内容の適切さ) |
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タイムカード |
出退勤時のカード運用は適切に行われていますか?(片打刻の有無) |
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残業時間 |
残業時間は申請と認定ルール、およびタイムカード打刻に即して運用していますか? |
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安全衛生 |
労働安全衛生委員会は定期開催し、施設・業務の改善策が取られていますか? |
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業務改善 |
時間短縮のための業務改善は取り組んでいますか?(成果もふくめ) |
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5 |
トラブルミス(不適合)発生改善 |
交通事故 |
事故発生時の処理と検討会、再発防止のための指導は適切にできていますか? |
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交通違反 |
交通違反撲滅のために安全運転教育をしっかり行っていますか? |
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業務ミス |
業務上のミスは適切に報告され、処置と再発防止が取られていますか? |
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ハラスメント |
セクハラ・パワハラ・いじめはありませんか? |
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労働災害 |
労災は適切に報告され、再発防止策は取られていますか? |
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6 |
センター固有の課題・項目 |
委託先 |
委託先との定期的な協議を実施し、目標達成のために共同体制はできていますか? |
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スタッフ |
組合員活動や共済推進等、今年度新たに配属されたスタッフとの関係は良好ですか? |
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近隣 |
近隣住民からの苦情や申し出には適切に対処していますか? |
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他事業連携 |
店舗・福祉事業との連携は進んでいますか? |
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後方・連合 |
連合や事業本部・管理部門とは、必要な支援や情報提供が取れる関係にありますか? |
8名の運営管理メンバーそれぞれに、0-3点満点の評価を入れてもらい、合計して平均値を算出して、点数の低い項目を重点にディスカッションを通じて、原因(真因)へ迫りました。そして、対策について議論し深め合いました。
実際の取り組みでは、予算管理と実行計画の問題、業務会議の開催内容の問題、労務管理の問題の3点が課題であると認識され、それぞれについて、改善方向を深めることができました。
監査終了後には、所見書と指摘事項を提示し、センター長から「是正・改善計画」も提出いただきました。是正改善計画はすぐに実行され、職場運営の改善が進んだと考えています。
監査評価(センター長からの評価)でも、「監査は心地よいものではありませんが、自センターの弱みや強みが改めて確認でき有意義なものでした。強みは伸ばし、弱みは改善し、適正なセンター運営に努力します。」との感想も出されました。
なにより、この取り組みを通じ、グループリーダー(主任級)が運営に関して積極的に発言し、問題提起しており、いわゆるボトムアップ型のセンター運営を体感できたことは大きな成果だったと思います。当年度の予算は見事に超過達成し、労働時間短縮も進んでおり、運営改善・経営改善に一定寄与できたものと自負しております。
■「CSA」とは
CSA(Control Self Assessment):統制自己評価とは、業務スタッフを監査手続に巻き込む手法。「効率のよい内部監査を行う」ことが可能となる。業務管理者と業務担当者に「ファシリテーション」を通じて特定の問題や業務プロセスについて議論し自己評価してもらう。
1995年にIIA(Institute of Internal Auditor:内部監査人協会) によって、「正式に文書化されたプロセスでビジネス機能に直接関与する経営者やワークチームが、稼働しているプロセスの有効性を判断し、そして、いくつかの(または全ての)ビジネス目的達成のチャンスがそれなりに保証されているかどうかを決定する。」というCSAの定義が与えられている。
■CSAの実施
CSAのファシリテーションは、議論のテーマと成果物を設定し、参加者の意見交換を成果物という目標に向かってまとめあげていく作業と言える。その、議論を目的の成果物へと集約させるまとめ役を「ファシリテータ」と言い、ファシリテータは、ファシリテーションを成功させる重要な役割を担ってる。
CSAでは、このファシリテーション以外にも業務担当者に幅広く自己評価の意見を聴取するチェックリスト(アンケート)もよく使用される。
(Deloitte/デロイトトーマツHPより一部引用)
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