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「福祉事業:介護事故」に関する監査① [5-監査事例]

福祉事業の中で、リスクの高い項目として「介護事故」があります。

 

時として人命にかかわる痛ましい事態となり、利用者はもちろん、介護者職員側にも深い傷が残るため、マネジメント上ではもっとも注意しなければならない問題です。介護保険制度においても「介護事故」は行政への報告義務や行政からの指導・再発防止策の徹底等、かなり厳しい内容で規定されています。

 

内部監査としても、この問題(リスク)への対応レベルをしっかり確認する必要があります。

しかし、内部監査は、ケアワーカーとしてのスキルがあるわけではありません。ケアの内容や手順が適切かどうかを判断する事はかなり難しいと言えます。交通事故(安全運転)への対応であれば、自身が運転免許を持ち、日常的に運転もしていれば、事故の要因や問題などへコメントすることはできるでしょう。しかし、介護事故については正しいコメントを出すことは無理です。だからと言って、監査領域から除外する事は出来ません。では、どうするか。

 

解決策の一つは、ピアオーディット(同行監査人)の採用があります。

他の福祉事業所から、管理者の同席を得て、介護現場を視察し、作業マニュアルや実際の介護を検証してもらう方法です。より専門的な視点で検証できるというメリットがありますが、同じ問題を抱えているケースでは有効な解決策を見いだせず、指摘事項も「甘く」なってしまうというデメリットがある事を理解しておく必要があります。

 

ピアオーディットが確保できない場合、通常の業務監査同様に取り組むしかありません。あまり難しく考えず、取り組みましょう。

ちなみに、以下が、私が使っていた福祉事業所の監査ワークシート(介護事故リスクに関わる領域)です。

 

①事故対応
・事故報告と対応記録
・再発防止策の有効性確認

 事故対応マニュアルに基づく「記録・報告」の確認(書面)

・発生経過や原因特定、再発防止策の記載が適切か?

・管理者の把握と対応、上長やトップへの報告は適切か?

②苦情トラブル対応
 ・記録と解決、報告

 苦情対応マニュアル(介護保険制度規程)に基づく記録確認

・記録内容は適切か(受付者・申し出人・日時・内容・事後処理)

・重要な事項は上長・トップへ報告されているか?

③ヒヤリハットの取り組み状況
・業務手順や設備改修などの改善取り組み

 福祉目標「ヒヤリハットによる事故防止運動」の実施状況

・月の記録件数(目標)は達成できているか?

・記載事項から、手順や設備などの改善はできているか?

 

事故は、苦情やヒヤリハット(未然事故事例)の取り組みとセットで捉えます。

これは、安全運転の取り組みと類似していますね。

 

介護の現場では、特に、ヒヤリハットの取り組みが事故防止に有効だという認識があります。(ヘルパー研修などでも繰り返し呼びかけられています)

しかし、ヒヤリハット報告書を見ると、すでに事故が発生している事例が多く見られます。これは、現場にいる介護職員の中に、怪我や破損といった外的ダメージがなければ事故ではないという意識があり、ちょっとしたことは事故じゃないという甘えの構造につながっていると考えられます。しかし、この意識こそがが重大な事故を引き起こすことになるのです。

ですから、監査の際には、「ヒヤリハット報告書」を丁寧に点検します。そして、管理者と、事故に関する認識(視点)を確認していくことが重要です。

 

ある事業所で、「外出支援で転倒事故」が発生しました。比較的、歩行能力は高いと判断された利用者が、近くのお店に買い物に行かれる際の同行援助を行っていました。その方の家は、坂の途中にあり、家から坂道を下っていく途中で、よろけた際、道路わきの側溝に転落し、大腿骨を骨折するという事故でした。同行していたヘルパーは寄り添って歩いていましたが、転倒時に支えきれなかったのです。高齢者にとって、大腿骨骨折は致命傷になりかねません。暫く、入院となり、それを機に一気に身体機能が低下することになります。中にはそのまま寝た切り状態となってしまう方も少なくありません。

この事故は、適切に記録され、行政や組織トップへも報告されていました。同事務所のヘルパーでも共有化され、事故防止のための対策会議も実施されていました。同行援助の際、「利用者の安全確保」の視点が弱かった事が最大の問題であり、道路の危険個所の確認不足が生じていた事から、同様のサービスにおいては、事前にルートの安全確認を行う事と同行の際の転倒不安がある場合、車椅子等の利用を提案する事など、ケアマネジャーとも調整したうえでサービス提供の手順の見直しも進みました。事故を出発点に、ルールや手順の見直しが進んだ事例です。

 

別の事例では、通所サービスにおいて、昼食後に利用者が椅子から立ち上がる際に転倒、翌日になって骨折が判明するという事故がありました。昼食後、やや眠気がある状態で椅子から立ちあがった際にふらつき、そのままお尻から座り込むように倒れたのです。周囲には介護職員が居たわけですが、ふいに立ちあがった際の出来事で間に合わなかったとしていました。ただ、この場合、転倒後に身体異常はないかの確認が十分にされておらず、帰宅後夜間になって痛みを感じ、翌日ご家族が病院に行き骨折が判明し、かなり重大な問題となったわけです。

通所では、こうした転倒事故の発生は珍しくありません。椅子から立ち上がる、トイレから立ち上がる、浴槽から立ち上がるなどの基本動作では、予期せぬところでめまいやふらつきが発生し、掴まる所がなければそのまま転倒・尻もちをつくという事象は避けられません。だからこそ、介護職員はそういう動作にリスクがあるという認識を持ち、利用者の動きに注意を払っておくことが求められます。介護度の低い方ほどこのリスクがある事を認識しなければなりません。

 

この施設は、小規模で職員数に対して利用者も少ないため、目が届きやすいという安心感(気のゆるみ)が生じていたとも言えます。そして、なにより、事故発生後の対応が安易すぎました。転倒・尻もち事故が起きた場合、身体異常が起きていないか、看護師による確認と医療機関受診の判断が必要です。マニュアルではそう記述されていますが、現場では「大丈夫?痛い所はありませんか?」の一言が優先し、利用者から「大丈夫。痛くない。」という返答があれば、問題なしという判断がされていました。結果的に、半日経って重大事故だったと判断され、この件ではご家族から厳しい指摘も受け、医療費用や付き添い費用などの損害賠償請求も発生し、半年近く、管理者や事業本部が対応に追われることになりました。まさに、事業損失に直結した事故となったわけです。

 

他にも、「通所送迎時に車から降りた際に車止めに躓き転倒(手首骨折)」「通所入浴時に脱衣所が濡れていて転倒・介護職員も利用者を支えるため腰椎損傷」等の事故は起きていました。また、直接的な身体被害は無いものの「通所から勝手に帰宅し所在不明(認知症進行・近所で無事発見)」とか「薬の飲み間違い事故」など、通所や訪問介護事業では介護事故は常に発生しています。

 

こんな事故をどう防ぐか。重要なのは、事故リスクの認識を絶えず持っておくことでしょう。そのために、日常的に「ヒヤリハット」の取り組みを強化することと、それぞれの事業で事故を共有化し、自らの事業所の点検を行う事です。

 

内部監査では、先に記述した通り、事故対応、苦情トラブル対応、ヒヤリハットの取り組みの3点を監査項目に設定し、それぞれの記録を点検し、記録と報告、対応と再発防止策の有効性を確認することを通じて、「介護事故リスクへの対応」がどこまで有効かを検証する役割を果たす必要があります。


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