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「大規模災害(危機管理)態勢」に関する監査② [5-監査事例]

次に、管理本部を対象とする「テーマ監査」について述べます。

 

事業所監査の結果をもとに、危機管理システムの有効性評価が主要な監査目標となります。

 

ワークシートは以下のようになっています。

H 防火・防災態勢

1.防犯・防火対策

1.防火管理体制の明確化

組織全体の防火管理体制(防火管理規程に基づく)を管理部門が確認しているか?

2.防火管理規程に基づく教育実施

ハンドブックによる教育(標準教育)は全ての部署で実施されている事を確認しているか?

3.防火訓練(消防・避難)

消防法に基づく法定訓練(事業所規模・事業別要件)の実施を確認しているか

4.消火設備の適正配置

管財部による施設点検、外部業者による保守点検の実施状況を把握しているか

5.施設周辺の安全措置

安全衛生委員会の巡回点検で施設周辺の安全管理を確認しているか

2.危機管理・大規模災害時の対応マニュアルの周知と訓練

1.「災害対策マニュアル」に基づく教育実施

ハンドブックによる教育(標準教育)は全ての部署で実施されている事を確認しているか?

2.「事業別・職場別マニュアル」策定

規程に基づく「事業別・職場別マニュアル」は年次策定・更新されているか?

3.災害発生時の対応の訓練と教育

災害訓練は全職場で実施されている事を確認しているか?

4.大規模災害時の対応

災害時に適切な対応ができるよう「図上訓練」「本部設置訓練」等、年次計画に基づき、実施されているか

5.防災用品の保管管理

マニュアルに基づき、必要な防災備品の確保及び配置ができているか?一覧表による管理がされているか?

 

私のいた生協では、危機管理・大規模災害対策の本部事務局は、人事総務部となっており、監査については、人事総務部長と担当部長(途中で交代・課長職へ)へのヒアリングを実施することになっています。

 

事業所監査の結果から、これらの項目いずれも不十分な運用実態にある事は明白ですから、ヒアリングは、「なぜ進まないのか」に集中することになります。

 

理由はいろいろありますが、最大の問題は、危機意識(リスク認識)の欠如でした。

東日本大震災の翌年には、プロジェクトを設置し、災害対策マニュアルやPCB等、全部門代表による協議・検討が旺盛に行われ、立派なものが整備されました。

しかし、時間が経過するにしたがって、リスク認識は低下し、人事総務部の内部でも、災害対策担当部長へ丸投げ状態となり、部分的に修正や補強がされた「大規模災害対策マニュアル」がデータベース上に掲示されているにすぎない状態でした。

 

内部監査が監査する事は、まさに「寝た子を起こす」行為とも受け取られるような状態だったわけです。

初年度は、ほとんどの項目が不十分でしたから、可能なところから、一つ一つ是正・改善に取り組むしかありませんでした。

防災備品・用品の保管管理は、比較的早く着手されました。

標準用品を設定し、人数に合わせて増減、事業所へは年1回点検した結果を報告させ、補充する仕組みは容易に構築できます。それをイントラネット上のDBで掲示することで、集中管理も容易く出来ます。また、補充計画も策定し、年次予算化もできるようになりました。

ただ、「標準用品」は適用範囲が職員対象であったため、事業特性に合わせた補強が次の課題になりました。端的な例は、福祉事業所(通所・短期入所)での備品です。職員だけでなく、利用者も対象とした場合、品目数や必要数が極端に多くなります。保管場所の確保も必要です。何より、必要な物品は現場でしかわからないため、管理本部での一括管理になじまないこともわかりました。業務監査の中で、ある通所事業所では、市内の防災マップから事業所周辺に有効な避難所がない事を知り、地域の自治会とも連携し、一時避難所の機能を果たせるよう、防災倉庫を設置し、自治会の協力も得て、毛布や飲料水などの確保を独自に実施している事例がありました。これをベースに、他の事業所への普及と福祉事業における防災備品の検討を、福祉事業本部の課題とする事にしました。

 

また、都市部では「帰宅困難者対応」も社会的役割として求められ、いくつかの施設では、備品の追加、受け入れルールの整備、行政への届け出なども行う必要がありました。これは、地域の組合員の意見・要望がベースでしたが、同様の施設(組合員施設・会館)の機能の見直しと必要備品の検討が、組合員活動支援部を中心に始まりました。

 

宅配事業では「配達時の災害発生対応マニュアル」が策定され、トラックへ常備し、年1回の模擬訓練がスタートしました。福祉事業でも、前述のとおり、マニュアルが整備されました。店舗については、すでに、水害発生による緊急対応を経験済みの店長を中心に、災害発生時の開店マニュアルが策定され、順次普及が進んでいます。

その後も、順次、課題を提示し、改善方向を示しながら、監査を継続しました。

 

ただ、最も是正・改善に手間取った課題があります。

 

それは、大規模災害対策本部の設置と運用に関する訓練の実施です。

大規模災害対策の監査の初めは、現場の是正・改善について、事業本部を絡めて具体化することで、前進は生まれます。しかし、経営トップ(常務理事会)を本部長とする「災害対策本部」の訓練は、なかなか具体化できません。理由は、本部事務局の力量不足に他なりませんでした。組織全体の訓練には、シミュレーション(シナリオ)作成が必要ですが、経験がなく、他の訓練へ参加することもなく、意識はあるものの着手できない状態だったのです。それでも、事務局としては年次訓練計画を作成し、9月には全体の模擬訓練を位置づけながら、未実施という状態が続いていました。事務局へのヒアリングでも、未実施の状態について悩んでいました。私は、この問題は直接、経営トップ(専務理事)へ提起させてもらいました。コミットしていながら、必要な人・モノ・金が用意できていない事。やる以上、成果の上がる内容とする事。そのために、事務局(担当課長)への研修指示を出してもらうよう要請したのです。この問題は、その後の展開は確認できていません。

 

このように、現場の実態をベースに、管理部局へ課題提示する事で、有効な改善へ動くことができます。もちろん、こうした動きは内部監査ではなく、管理部局が主体的に取り組むべきものでしょうが、組織全体の危機意識が低下してしまうと、一部局の発案では前進しがたいのも事実です。

そういう点で、内部監査は、システムの綻びをいち早く発見し、経営トップへ報告し、大きな穴になる前に是正・改善提案を行う事が期待される役割ではないでしょうか?

大規模災害は、他人事ではありません。そして、命を守る砦として、生協は地域から強く期待されているはずです。


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