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テーマ監査②業務監査結果からの設定事例(20180417) [5-監査事例]

業務監査の結果から、テーマ監査の事例として、「勤務時間管理」をピックアップした例を紹介しましょう。

 

①監査目的

   業務監査を通じ、複数の店舗で、勤務時間の未打刻・時間修正(残業未認定と推察)が特定の職層(副店長・主任)に集中していた。また、配送センターでも、同様の事象が確認された。当該事項は、重点リスクとされ、統制強化に取り組んでいるものの、根本的な改善にいたっていないと判断されるため、監査する。

 

②実施要領

   業務監査未実施の事業所へ帳票点検(勤務時間記録)を実施し、全事業所の打刻・残業認定の実態を集約。人事部データの突合・分析。

   人事部ヒアリングを実施し、時間管理の強化策の進捗状況及び問題発生時の指導内容を検証し、原因特定と有効な改善策を検討する。

 

③監査結果

A)データ突合結果

   全事業所の1か月間の勤務時間記録からの特徴点として、退勤時の打刻修正が、宅配センターでは管理職層(副長・グループリーダー等)の45人中、半数近い21人、店舗は副店長と主任(40)はほぼ全員、福祉事業所では管理者の半数の13人に及んでいる事が判った。そのうち、90%以上で、週次・月次の残業累積時間の上限(36協定)を超えていないものの、ぎりぎりの状態である事もわかった。担当レベルでは同様の修正はなかった。

   打刻修正申告書は、主任やグループリーダーは作成していたが、副長や副店長、福祉管理者は、自ら打刻修正作業を行う権限があり、書面で作成していない実態もわかった。

   人事部記録も、タイムカードシステムのデータを勤務実態と認定し、事業所記録との不整合はなかった。システムデータ上、修正後打刻時間を記録しており、修正実態までは把握できないことが判った。

 

B)人事部ヒアリング

   人事部長へのヒアリングで、上記のような実態についてコメントを求めたところ、「様々な要因で打刻できないケースがある。最終的には、本人申請に基づく修正時間を採用しており、適正に残業認定されているとの認識であり、36協定違反とならない限り、指導対象とはしていない。」との回答を得た。

   業務監査の中で、複数の店舗で「36協定違反にならないよう、副店長や主任が、基準時間を超過しないよう自ら調整している事は暗黙の了解になっている」との回答があり、その事実について人事部長に質問したところ、「そういう実態があるなら、該当管理者へ適正な残業認定を行うよう指導する。」との回答を得た。

 

④監査結果から導き出せる事(所見)

   労働基準法及び「労働時間適正把握のためのガイドライン」に照らすと、直ちに法令違反とは言えないものの、同ガイドライン(3)労働時間の考え方、オの項にある「使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと」と推察される状況が生まれている事は重要な問題と言える。

   今回の問題事象は、時間管理(残業認定)権限のある、管理者が自らの労働時間を調整しており、自己決済による誤運用が原因にあり、特に長時間勤務になりがちな職位者では36協定違反を逃れるために意図的に調整を行っている事は明白である。

   管理部門(人事部)では、労働時間把握に関して、電子データに依存し、現場の誤った運用実態を把握できておらず、現状では監視(モニタリング)が不十分と言わざるを得ない。

 

⑤指摘事項

   「労働時間の適正把握のガイドライン」内容を人事部で再検証し、打刻修正による労働時間の意図的な調整を防止するための改善策を実施する事。

   一つには、労働時間の自己決済は、部長以上とし、副長や副店長・グループ長・主任・福祉事業所管理者等の時間修正は必ず、申請書により上位者(上長)が行うよう徹底する事。また、時間修正が実施された場合、申告書が適切かをチェックするよう、人事部の点検手順に加える事。

   根本的な問題として、副長や副店長・グループ長・主任・福祉事業所管理者の過重労働があり、業務改善・時間短縮を進める様、組織的な取り組みを具体化するよう、内部統制委員会への提案を行う事。

 

⑥トップへの報告(提言)として

   いわゆる「サービス残業(賃金不払い残業)」を産みだす、労働時間管理システムの欠陥が発見されており、現状では、労働基準法違反のリスクが高いと考えます。労働基準法遵守の意識向上のため、「時間短縮・打刻徹底・残業時間の適正認定」を指示していただきたいと考えます。

   特に、各事業所管理者(センター長・店長・福祉事業部門長)への指導を強化してください。

   人事部による労働時間の監視体制も不十分であり、人事部の権限強化・体制強化が必要と考えます。

 

〇労働時間に関する問題は、単純ではありません。今回事例として取り上げてみましたが、なかなか難しい問題でした。20年、30年前には、「早出や長時間のサービス残業は当たり前。休日も返上して仕事をする。」という風潮もあり、そういう中で働いてきた40代・50代以上の管理職にとって、労働基準法や労働時間の適正把握ガイドラインに示されているような内容は、なかなか受け入れがたいのが本音ではないでしょうか。

 

〇実際、私も監査の中で、ある管理者から「配属されたばかりは、毎日が勉強。仕事にならないのだから残業とは認めない。」という発言を聞いたことがあります。しかし、これが助長し、常態化すれば、明らかに「ブラック企業」です。過労死も他人事ではありません。

 

〇政府の示す「働き方改革」とは違いますが、やはり、効率的で合理的な働き方を求め、日々改善を進める事は重要です。その結果、適正な就業時間で成果を上げる事に尽きるでしょう。そう言っても、今、労働力不足が顕著になってきています。生協への就職を躊躇う若者も多いと聞きます。将来にわたって事業を継続・拡大するには、労働力の確保は極めて重要な問題です。そのためにも、労働条件の改善は重要です。労働時間・休日取得等の基本的条件の改善を進められるよう、内部監査もしっかり指摘し改善提案できるようにしたいものです。


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