「安全運転管理」に関する監査① [5-監査事例]
安全運転に関しては、長年の取り組みにも拘らず、事故や違反は絶えず発生しており、特に、近年は、パート配送比率が増加し事故発生が増加しています。交通違反も増加しています。交通事情は、昔の様に「路上駐車」が許されなくなってきましたし、サービス過剰で狭い路地まで入り込むような危険運転も一向に減らない現状があります。また、最近の新規採用者の中には、日常的に運転はほとんどしたことがないというケースも多く、予想外のトラブルが増えています。
こうした現実の前で、安全運転に関する教育訓練は、これまで以上に重要になっていますが、効果的なものとなっているか、はなはだ疑問です。
「安全運転管理プロセス」は、監査対象領域としてしっかり監査する必要があります。
監査手続きは、事業所監査(業務監査)と管理部門(人事部・安全運転管理担当)の監査を実施しました。
1.事業所監査での監査
事業所監査は、内部統制の標準項目として、以下の様にワークシートに盛り込みました。
1) |
●規程・基準・手順 |
2) |
●リスク評価 |
3) |
●管理体制 |
4) |
●教育・訓練 |
5) |
●運用(1) |
6) |
●運用(2) |
7) |
●監視・モニタリング |
8) |
●不適合管理 |
9) |
●是正・改善:違反・問題発生後の是正・再発防止策の有効性 |
10) |
●IT対応 |
この監査項目は、全体の一部分に過ぎませんから、時間はあまり割けません。
したがって、リスクベースの視点で、日常的に車両を使用する部門である、宅配事業(センター)と福祉事業(通所介護・ヘルパー・ケアマネ)はより丁寧に実施しました。特に、前年度の事故や違反の発生状況(全体の安全運転報告からデータ入手)をもとに、事故や違反の増加、重大な事故発生等の状況に照らして、重点事業所を抽出しておきます。そこでは、できるだけ時間を割いて、ヒアリングできるようにしました。また、宅配センターでは、出発時の立会い確認も可能な限り実施しました。
ワークシートにあるように、基本は「安全運転管理プロセスのPDCAサイクルの有効性評価」です。
監査を始めた初期の頃には、安全運転管理者の届け出といったコンプライアンス上の問題が浮かんできました。特に、大規模センターでは台数に応じて副管理者の配置が必要であるにも拘わらず、理解不十分で、選任できていない実態すら発見されました。管理体制の不備であり、コンプライアンスに関わる問題であったため、すぐに是正改善の指摘事項となりました。
私のいた生協では「生協車両運転規則」が定められていて、道交法や運送法の順守や、職員教育、事故発生時の対応と事故検討会開催等、細かい定めがあります。しかし、現場の理解は不十分なものでした。もちろん、通年での「安全運転教育」は展開されていましたが、長年にわたり繰り返しの内容で教育がなされているため、現場ではマンネリ化も進んでいました。特に、現場の教育訓練の主体が主任クラスの「安全運転トレーナー」に頼っているために、指導力や徹底力、日常マネジメントの連動などが上手くいっていない為、事業所によっては機能していない実態さえも見られました。安全運転管理者が、法令順守のための「名前だけ登録」に終わっていて、極めて形式的な運用に留まっていたわけです。運用に関する不備も次々に発見されました。
さらに、事故発生時の対応に関して、現場対応は比較的スムーズにできているのは確認できましたが、事故報告と事故検討会の開催は不十分な状態でした。重大な事故は確実に報告されていましたが、軽微な事故(物損)や違反(速度超過や駐車違反等)の報告と内部検討はほとんどできていませんでした。
「生協運転規則」では、軽微な事故も検討会を開催し再発防止策を確認することとなっていましたが、まともに行われているのは一部の事業所でした。
全体として、安全運転管理プロセスの現場での運用管理は不十分だと言わざるを得ない実態が浮き彫りになりました。
さらに、ヒアリングを通じて、宅配センター長(安全運転管理者)の悩みも判りました。
パート配送者の増加と新人の運転未経験者の増加という実態の中で、従来の安全運転教育や運転訓練では対応できないレベルになっている事でした。免許証は持っているが、運転実技が伴わない正規職員・パートが増え、なぜ事故が起きたかという問いに、まともに答えられない状況がある事。なぜ、ここでそういう運転(ハンドル操作)をしたのかと訊いても「わからない」という回答。試採用期間中の運転訓練で、課題がクリアできず、退職を希望する職員・パートが発生している現状があるのです。「人並みの運転ができない」状況への対応策を持ち得ていないわけです。
この監査の結果は、事業部門単位の監査報告書にまとめました。そして、宅配事業では、事業本部が中心になって、従来進めてきた「安全運転トレーナー制度」の運用改善と、安全運転教育の見直しに取り組むことになりました。
事業本部は、「モデルセンター」に設定し、安全運転トレーナー会議もモデルセンターで開催し、実践報告をもとに標準化(水平展開)する継続的な取り組みが始まりました。大きく変わったのは、車両清掃と出発時監視(場外出入口での上長による監視)の標準化、そして、KYT(危険予知トレーニング)の手法の改善でした。
お恥ずかしい話、KYTは、安全運転センター(別会社)が主体で組み立て、30年来変わらず「紙ベース」のトレーニングを継続しています。臨場感・緊張感のないやり方が継続され、マンネリ化しています。これに対して、現場では「実際の事故映像をもとにKYTを実施する」手法を取り入れ始めていました。より臨場感と緊張感をもって、瞬時に判断する能力を高める必要を感じていたからでしょう。この取り組みも、水平展開され始めています。
コメント 0