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「小口現金管理」に関する監査 [5-監査事例]

もうひとつ、宅配センターの監査事例をご紹介しましょう。

 

皆さんの生協でも、「小口現金」の仕組みがあると思います。

名前の通り、小口で現金支払いが必要なケースへ対応するための仕組みです。

昔、この「小口現金」の管理に関わっては、管理者や事務担当者による不正使用の事件が発生しており、管理ルールは厳しく、取り扱う金額もより少なくしてきました。また、月1回の棚卸の際には、出納記録と現金精査の結果報告が定式化され、四半期に1回は、内部統制委員会による点検も実施されるようになりました。これにより、事件性のある様な不審な事案は防止できているはずです。

 

内部監査でも、内部統制委員会の定期点検が有効なものとなっているかを監査する為、現場監査では、小口現金管理も確認しています。

 

小口現金管理に関する領域は「事務管理業務」という区分にまとめ、主要な項目は以下の通りです。

 

1)

●規程・基準・手順
「経理規則」「小口現金管理規程」「請求書取扱基準」「領収書取扱基準」「自家消費処理手順」等の経理事務に関する規程・基準・手順は正しく理解されているか?

2)

●リスク評価
・経理処理(現金管理)に関する部署のリスクを認識しているか?(不正リスク-他の生協で重大事件発生)

3)

●管理体制と教育・訓練
・出納管理者・出納責任者(実務)は明確になっているか?
・経理事務を担う担当(職員・パート)へ、経理事務の教育訓練は行っているか?

4)

●運用(1)-小口現金管理・出納管理・金庫内管理
・小口現金管理規程に基づき、出納記録や現金精査は適切に行われているか?
・金庫内に、簿外となるような現金や現金同等物はないか?
・組合員への支払現金の受け渡し記録(領収書)は確実か?

5)

●運用(2)-備品購入・申請決裁・経費支払・自家消費
・消耗品や備品購入にあたって、確認・決済は行われているか?
・申請書(交通費も含む)は上長が確実に点検・承認しているか?
・自家消費(生協内購入)はルールに沿って処理しているか?

6)

●運用(3-未収金回収・請求事務・現金入金
・未収金の記録と管理はできているか?(個人記録化)
・出資金や利用料金などの現金入金は確実に管理できているか?
・領収書は「領収書取扱基準」に沿って適切に発行されているか?

7)

●監視・モニタリング
・経理事務が適切に運用されている事を定期的に監視しているか?(点検体制・報告等のルール)

8)

●不適合管理
・経理事務に関するミスや不整合を発見した場合や経理部から指摘があった場合、上長及び経理部長へ速やかに報告しているか?(報告書確認)

9)

●是正・改善:違反・問題発生後の是正・再発防止策の有効性
*報告書記載の「是正・改善」に具体性と有効性があるか?報告書に基づき適切に実施されているか?

10)

IT対応
*「経理DB」の活用はできているか?

 

この監査によって、現場の運用で問題が発見されました。

 

一つは、前述の「商品管理」でも触れたように、金庫内に小口現金とは別の「現金」が発見されたのです。いわゆる「簿外管理」とされている現金です。

 

商品の内販により発生した現金で、それ自体は副センター長が管理していましたが、その額が適切なものか証明する記録はありませんでした。ですから、「ちょっと借用」や「着服」もできます。正しく管理するにはどうすれば良いか、元はと言えば「商品の内販」自体が問題もあるのですが、少なくとも、「商品供給」をした場合は即日入金すべきですし、簿外化することに問題を感じる事が当然だといえるものです。

これはすぐに是正され、経理部からも「金庫内に簿外となる現金の保管を禁止する」という通達もだされました。しかし、残念なのは、内部統制委員会の定期点検で発見されているにも拘らず、点検者(内部統制委員:執行役員)が見逃していることでした。内部統制委員会による点検の有効性が疑われましたので、この点は、内部統制委員会へ報告し、点検項目と基準の再確認を行うよう要請しました。

 

もう一つは、出納記録の不備の発見です。

 

小口現金管理規程では、出納実務は、実務管理者と実務執行者を分けて配置する事とされていますが、あるセンターでは、事務パートの不足から副センター長が実務も点検も一人で行っており、出納事務を週に一度まとめて行うようになっていたのです。支払申請もかなりの数に上り、時間が掛かるようになるため、記録が後回しになり、現金出勤だけが先行するというような悪い習慣を産んだのです。点検者が居ませんから、問題を指摘する人もなく、監査当日には、現金が不整合となってしまいました。また、センター長はこの実態を把握できていませんでした。

管理体制の不備(監視・点検)が生んだ問題です。この問題は、不正発生の一歩手前ともいえるものです。この問題は、経理部へも報告しました。

管理の仕組みとして、小口現金の出納記録は経理部へは月に1回(締め日)提出となっていました。ですから、「面倒だからまとめてやればいい」というような運用が生まれたのだと考えられました。経理部としても、月次の締めで不整合がなければ良いわけですから、問題は表面化しません。

改めて、各事業所の「小口現金管理体制」を確認し、出納管理者と出納実務者の登録確認が行われ、経理部での点検(支払い記録の点検)も強化されました。しかし、膨大な点検作業で人員確保も難しい現実があり、システム導入の検討へと進みました。現在使用している経理管理システムの中で、小口現金管理(事業所による直接入力と経理部による点検)の仕組みを構築し、煩雑な作業の合理化へ進むことになりました。これで問題がすべて解決するわけではありませんが、少なくともヒューマンエラーや不正防止へと一歩進むと思われました。

 

現場では、人員不足が顕著です。ルールはあっても、それを支えるマンパワーが不足すれば、「手抜き」作業が生まれます。事務や経理という部分がそのしわ寄せを受けるケースは多く、結果としてミスが発生し対策でまた業務が増えるという悪循環が発生し、現場は苦しんでいるのです。

 

 だからこそ、内部監査が問題を発見し、その真因に迫り、現場が楽になるよう、経営者・管理部門へより具体的な提案を行う事が必要ではないでしょうか。

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「福祉事業:介護事故」に関する監査① [5-監査事例]

福祉事業の中で、リスクの高い項目として「介護事故」があります。

 

時として人命にかかわる痛ましい事態となり、利用者はもちろん、介護者職員側にも深い傷が残るため、マネジメント上ではもっとも注意しなければならない問題です。介護保険制度においても「介護事故」は行政への報告義務や行政からの指導・再発防止策の徹底等、かなり厳しい内容で規定されています。

 

内部監査としても、この問題(リスク)への対応レベルをしっかり確認する必要があります。

しかし、内部監査は、ケアワーカーとしてのスキルがあるわけではありません。ケアの内容や手順が適切かどうかを判断する事はかなり難しいと言えます。交通事故(安全運転)への対応であれば、自身が運転免許を持ち、日常的に運転もしていれば、事故の要因や問題などへコメントすることはできるでしょう。しかし、介護事故については正しいコメントを出すことは無理です。だからと言って、監査領域から除外する事は出来ません。では、どうするか。

 

解決策の一つは、ピアオーディット(同行監査人)の採用があります。

他の福祉事業所から、管理者の同席を得て、介護現場を視察し、作業マニュアルや実際の介護を検証してもらう方法です。より専門的な視点で検証できるというメリットがありますが、同じ問題を抱えているケースでは有効な解決策を見いだせず、指摘事項も「甘く」なってしまうというデメリットがある事を理解しておく必要があります。

 

ピアオーディットが確保できない場合、通常の業務監査同様に取り組むしかありません。あまり難しく考えず、取り組みましょう。

ちなみに、以下が、私が使っていた福祉事業所の監査ワークシート(介護事故リスクに関わる領域)です。

 

①事故対応
・事故報告と対応記録
・再発防止策の有効性確認

 事故対応マニュアルに基づく「記録・報告」の確認(書面)

・発生経過や原因特定、再発防止策の記載が適切か?

・管理者の把握と対応、上長やトップへの報告は適切か?

②苦情トラブル対応
 ・記録と解決、報告

 苦情対応マニュアル(介護保険制度規程)に基づく記録確認

・記録内容は適切か(受付者・申し出人・日時・内容・事後処理)

・重要な事項は上長・トップへ報告されているか?

③ヒヤリハットの取り組み状況
・業務手順や設備改修などの改善取り組み

 福祉目標「ヒヤリハットによる事故防止運動」の実施状況

・月の記録件数(目標)は達成できているか?

・記載事項から、手順や設備などの改善はできているか?

 

事故は、苦情やヒヤリハット(未然事故事例)の取り組みとセットで捉えます。

これは、安全運転の取り組みと類似していますね。

 

介護の現場では、特に、ヒヤリハットの取り組みが事故防止に有効だという認識があります。(ヘルパー研修などでも繰り返し呼びかけられています)

しかし、ヒヤリハット報告書を見ると、すでに事故が発生している事例が多く見られます。これは、現場にいる介護職員の中に、怪我や破損といった外的ダメージがなければ事故ではないという意識があり、ちょっとしたことは事故じゃないという甘えの構造につながっていると考えられます。しかし、この意識こそがが重大な事故を引き起こすことになるのです。

ですから、監査の際には、「ヒヤリハット報告書」を丁寧に点検します。そして、管理者と、事故に関する認識(視点)を確認していくことが重要です。

 

ある事業所で、「外出支援で転倒事故」が発生しました。比較的、歩行能力は高いと判断された利用者が、近くのお店に買い物に行かれる際の同行援助を行っていました。その方の家は、坂の途中にあり、家から坂道を下っていく途中で、よろけた際、道路わきの側溝に転落し、大腿骨を骨折するという事故でした。同行していたヘルパーは寄り添って歩いていましたが、転倒時に支えきれなかったのです。高齢者にとって、大腿骨骨折は致命傷になりかねません。暫く、入院となり、それを機に一気に身体機能が低下することになります。中にはそのまま寝た切り状態となってしまう方も少なくありません。

この事故は、適切に記録され、行政や組織トップへも報告されていました。同事務所のヘルパーでも共有化され、事故防止のための対策会議も実施されていました。同行援助の際、「利用者の安全確保」の視点が弱かった事が最大の問題であり、道路の危険個所の確認不足が生じていた事から、同様のサービスにおいては、事前にルートの安全確認を行う事と同行の際の転倒不安がある場合、車椅子等の利用を提案する事など、ケアマネジャーとも調整したうえでサービス提供の手順の見直しも進みました。事故を出発点に、ルールや手順の見直しが進んだ事例です。

 

別の事例では、通所サービスにおいて、昼食後に利用者が椅子から立ち上がる際に転倒、翌日になって骨折が判明するという事故がありました。昼食後、やや眠気がある状態で椅子から立ちあがった際にふらつき、そのままお尻から座り込むように倒れたのです。周囲には介護職員が居たわけですが、ふいに立ちあがった際の出来事で間に合わなかったとしていました。ただ、この場合、転倒後に身体異常はないかの確認が十分にされておらず、帰宅後夜間になって痛みを感じ、翌日ご家族が病院に行き骨折が判明し、かなり重大な問題となったわけです。

通所では、こうした転倒事故の発生は珍しくありません。椅子から立ち上がる、トイレから立ち上がる、浴槽から立ち上がるなどの基本動作では、予期せぬところでめまいやふらつきが発生し、掴まる所がなければそのまま転倒・尻もちをつくという事象は避けられません。だからこそ、介護職員はそういう動作にリスクがあるという認識を持ち、利用者の動きに注意を払っておくことが求められます。介護度の低い方ほどこのリスクがある事を認識しなければなりません。

 

この施設は、小規模で職員数に対して利用者も少ないため、目が届きやすいという安心感(気のゆるみ)が生じていたとも言えます。そして、なにより、事故発生後の対応が安易すぎました。転倒・尻もち事故が起きた場合、身体異常が起きていないか、看護師による確認と医療機関受診の判断が必要です。マニュアルではそう記述されていますが、現場では「大丈夫?痛い所はありませんか?」の一言が優先し、利用者から「大丈夫。痛くない。」という返答があれば、問題なしという判断がされていました。結果的に、半日経って重大事故だったと判断され、この件ではご家族から厳しい指摘も受け、医療費用や付き添い費用などの損害賠償請求も発生し、半年近く、管理者や事業本部が対応に追われることになりました。まさに、事業損失に直結した事故となったわけです。

 

他にも、「通所送迎時に車から降りた際に車止めに躓き転倒(手首骨折)」「通所入浴時に脱衣所が濡れていて転倒・介護職員も利用者を支えるため腰椎損傷」等の事故は起きていました。また、直接的な身体被害は無いものの「通所から勝手に帰宅し所在不明(認知症進行・近所で無事発見)」とか「薬の飲み間違い事故」など、通所や訪問介護事業では介護事故は常に発生しています。

 

こんな事故をどう防ぐか。重要なのは、事故リスクの認識を絶えず持っておくことでしょう。そのために、日常的に「ヒヤリハット」の取り組みを強化することと、それぞれの事業で事故を共有化し、自らの事業所の点検を行う事です。

 

内部監査では、先に記述した通り、事故対応、苦情トラブル対応、ヒヤリハットの取り組みの3点を監査項目に設定し、それぞれの記録を点検し、記録と報告、対応と再発防止策の有効性を確認することを通じて、「介護事故リスクへの対応」がどこまで有効かを検証する役割を果たす必要があります。


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「福祉事業:介護事故」に関する監査② [5-監査事例]

福祉事業では、身体に危害を与える「重大な介護事故」だけでなく、もっと頻繁に発生している事故があります。それは、ホームヘルプの際の「物損事故」です。

 

私は当初、この問題をあまり重視していませんでした。

幾度かの現場監査でも、事業に多大な損失を与える様なものではなく、弁済・補償の手続きや記録化も適正にされているという認識でした。

 

しかし、ある事業所で重大な事故が発生し、専務理事から「もっと丁寧に監査するように」との厳しい言葉をいただきました。

事故の内容は、「ホームヘルパーが家事援助で室内の掃除を行った際、飾られていた花瓶を落下させ破損した」というものでした。

事故の事実は、すぐにヘルパーから当該事業所・サービス提供責任者へ報告されていました。また、事故発生時には、利用者(ご高齢の女性)から「古いものでそれほど高価なものじゃないから、(弁済は)良いよ。」との了解を得たとの事でした。

当該事業所のサービス提供責任者は、それを確認し、翌日、謝罪に訪問しました。対応されたのは、利用者の息子さんで、「高価な花瓶だったから、補償してくれ」とのこと。すでに破損品は片付けられてしまっていて、どれほどのものか確認するすべもなく、結局、その息子さんの言い値で弁済せざるを得ないことになってしまいました。(法外な金額要求だった)

結局、その額は、事業所長(課長)が決裁できる金額を大きく超えており、上長(事業部長)決裁となり、事実関係を確認し、最終的に役員に報告されることになったわけで、その段階で初めて、経営トップの知る所となったわけです。既に相手とも物損補償の示談も終了しており、法外な金額を支払うしかない状態でした。

家事援助における物損事故(ミス)が多大なる損失へ繋がったと同時に、利用者(この場合ご家族)の法外な要求を受け入れるという事態につながった事も、組織として承認できるものではありませんでした。

 

なぜこのような事態に陥ったのか。

業務監査で何故こうしたリスクを指摘できなかったのか。

内部統制上の不備として是正・改善提案できなかったのか。

 

そういう視点で経営トップからは指摘されました。

これは明らかに、内部監査の失態です。

こうした事態を招かないよう、より丁寧に監査することを指導されて当然だと思います。(実は、これには伏線があり、この事故が発生する以前にも、いくつか重大な業務上のミスによる損失が続いていて、内部監査への期待が最も高く状況の中で起きたことも厳しい指導となった要因だったのです。)

 

では、こうした事態を招かないために、内部監査はどのような監査に臨む必要があるのでしょうか?

 

先に述べた「介護事故」と同様のロジックで考える必要があります。

事故リスクへの認識はどうか、日常的な監視(モニタリング)はどうか、報告と事後対応のルールはどうか、ヒヤリハットの取り組みは有効か、いわゆる「身体危害を伴う介護事故」だけでなく、「物損事故」も同等のリスク意識をもって臨むことができているか。

こうした項目で監査していれば、これほど深刻な事態を産むことはなかったのではないかと考えます。

 

その後の監査では、訪問介護事業では、ヘルパーの業務報告やヒヤリハット報告を丁寧に読む作業を追加しました。

 

すると、「鍋の取手を壊した」「しゃもじを折った」「お皿を割った」などの家事援助中の物損事故は、かなりの件数発生していることが判り、大半は「利用者が了解してくれた」ことで事なきを得ているように報告されているのです。また、同等のものを購入して補償したという事例もありました。中には、ヘルパーが「自分のミスなので自分のお金で購入して弁済した」というものさえありました。

 

自己管理のプロセスを確認すると、結局、物損事故が起きた場合の対処方法が共有化できていなかったことが判りました。

 

すぐに、福祉事業本部へ、部門監査報告として、事故対応時の対応マニュアル・ルールが未整備である事を指摘事項としました。

福祉事業本部では、当初、介護事故対応マニュアルは整備されており、物損事故も同様に対処されていると認識しており、監査結果に驚き、すぐに「事故対応マニュアル」の検討・整備が進められました。そして、訪問介護部会や通所介護部会などを通じて検討され、運用が始まりました。

 

特に、訪問介護部会では、定例開催のホームヘルパー会議を通じて、物損事故発生時の対応マニュアルの学習会や、ヘルプ手順確認時の事故防止策の徹底等、これまで以上に重視されるようになりました。

最も大きく変わったのは、訪問介護サービス提供前の「アセスメント」(サービス提供責任者が実施)の際に、家事援助サービスでどのような作業に事故リスクがあるかを詳細に点検するようになったことです。

先に書いたように、物損事故は使用する機材(食器類や調理器具)の老朽化や家財道具の劣化等に起因するケースが多いため、作業と機材・家財の関係も詳細に点検することになりました。また、破損が発生した際、現品確保(回収或いは写真撮影)を行い適正な補償額を確認できるようにしておくことも徹底されました。この辺りの考え方は「交通事故」の対応と類似していると思います。

 

リスク認識が生まれたことで、予防措置として何が必要なのか、部会での協議の成果だと思います。

また、最終的に、保険適用(福祉事業保険)も相談窓口を明確にし(事業本部内に担当配置)、事故発生時の手順の確認や必要書類の作成、相手方との交渉などの業務を専門的に行えるようになりました。

 

重大な事故を契機に、内部監査が、重点的に監査することで、各事業所の問題を客観的に整理し、問題の所在を指摘することができれば、かなりハイレベルな改善が進むことがよく解った事例でした。


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「福祉事業未収金」に関する監査 [5-監査事例]

様々な監査手法①「定期監視活動」の中でも少し触れましたが、今後、福祉事業の拡大を目指されている生協では、必ず、問題となってくることに「個人未収金の回収不能」の問題があります。

ここでは少し、実例を挙げて、監査の実際と指摘・改善の提案について述べたいと思います。

 

私のいた生協の福祉事業は、年間20億円ほどの事業規模でした。

2億円にも達していませんが、利用者人数は途轍もない数になります。

一人一人の月利用額は、基本的に保険請求事務によって作成され、請求事務が発生します。数千円の人から数万円と、利用頻度や内容によってばらばらです。そして、利用金額の支払いは「口座振替」を基本としていましたので、請求から1ヶ月以内に、未払い(引落不能)が判明します。ルールとしては、宅配事業と同様に、翌月再請求ののち、さらに引き落とし不能となれば、督促状が発行され、最終現金回収ということになります。

 

定期監視活動では、この個人未収金の動きについて、経理データをもとに点検を掛けていましたが、福祉事業でも、ざっと30人から40人程度が引落不能状態となっていました。事業所単位で見れば、12人程度なので、個別に相談し、滞りなく引落ができるように働きかけをしていました。

 

しかし、私が監査に配属された当初は、こうした未収金の動きが、事業本部でも事業所でも全く把握できていませんでした。経理部だけで未収金が発生している事を認識できている状態で、会計士からも指摘を受けたこともあり、内部監査室と経営管理部・経理部・福祉事業本部で、未収金管理システムの構築を進め、事業所における個人未収金の管理ルール(宅配事業同様の記録管理)が適用されることになりました。大きく前進しました。

 

その後、未収金管理の実態がより明確になっていく中で、深刻な問題が見えてきました。

 

最も重大な問題は、「長期未収金の存在」でした。私が生協をやめる直前の記録では、2名の利用者が長期未払いとなっていて、額も数十万円に達していました。それ以前にも数名の方がいらっしゃいました。

 

高齢者の方の収入は、基本的に年金です。年金は2か月分まとめて入金されるため、引落不能になる可能性の高い月と低い月があります。これは現場でも理解できているため、一旦引落不能となっても翌月支払い可能というのはよくある話です。年金が少ない方は収入がない場合には、生活保護受給となっていて、個人請求はなく全額公費負担のため、未収金にはなりません。そういう点で、福祉事業で個人未収金が膨らむのは余り想定されていないのです。

 

では、長期未払いはどうしてうまれるのでしょうか?

 

最も重大な問題は、「パラサイト世帯の存在」です。高齢者世帯の「老々介護」が社会問題化しつつありますが、同様に、「親の年金を当てにして同居している子」が、結局、収入がなく親の年金を自分の生活費に充ててしまっているのです。未払いが発生した場合、本人への請求はもちろんですが、家族へも支払いを請求します。同居だけでなく別居の親族があれば、相談させていただくことになります。

 

今回、私のいた生協の事例では、同居の子(成人・高齢)が一旦は支払う約束をしながらも結局支払いを渋っている状況でした。行政(社会福祉事務所)へも相談しますが、行政は個人の支払いにまでは口出ししません。そのため、事業所の担当者や管理者が個別に粘り強く対応をすることになります。ただでさえ、長時間勤務の傾向にある福祉事業ですから、こうした事案はさらに業務負担となります。

 

経理部から未収督促・長期未収の発生報告と改善要請が事業所へ届いても、なかなか成果にならない(支払いが完了しない)という実態に突き当たります。

 

実際、この問題が発生している事業所では、この問題について、管理者やサービス責任者とじっくり話し合うことになりました。構造的には前述のとおりですから、現場としては引き続き粘り強く対応するほかないというのが結論です。しかしそのための業務負担は多大なものです。他にも、課題はたくさんあります。そして、該当事業所に留まらず、同様の構図で長期未収金につながりかねない実態はほとんど事業所にある事も判りました。

 

さらに悩ましいのは、宅配事業と違って、未払いが嵩んでいるから「サービス提供を中止する」という判断が難しいという事です。通所や訪問介護のサービスを受けている本人にとって、利用中止は「命に拘わる」事態です。サービス提供側としても「未払いがあるからサービスを中止する」とは言えない心情的な問題もあります。

 

しかし、こうしているうちに未払い額はどんどん膨らんでいくわけです。先ほどの2名のように数十万円ともなれば、月の年金額を遥かに超える額ですし、一気に支払う事などできるはずもなく、分割入金の補法を探る事も必要なのです。未収金問題の解決を迫る事は、まさに、利用者もサービス提供側も苦渋の選択を迫ることになるわけです。

 

内部監査としては、この問題をどう解決すべきか、まずは、福祉事業本部と相談することにしました。その際、宅配事業における長期未収金管理を参考にしました。

 

宅配事業の長期未収の大半は、「意図的未払い」です。センターからの働きかけと未収金対策課(事業本部内)からの働きかけ(未収金督促)の2段階と、最終、債権回収会社への委託という形をとっています。それでも、年次で数百万円の欠損(除名処分と出資金回収、特別損失計上)が発生しています。500億規模の宅配事業ですから、収益上の影響は比較的小さいという組織的判断に基づいて実施されているわけです。

 

では、福祉事業はどうか。

これまで、未払い金に関して特別損失などの計上ルールはありませんでした。結果として、何年もにわたる長期未収金が存在していましたし、対応も長期化しているわけです。まずはここを改善できないか。支払い不能であると組織として認定し、欠損処理のルール(申請と組織承認)を整備することにしたのです。当然、この判断の前提としてサービス提供の中止も盛り込まれますし、行政への報告も付随することになります。また、そこに至るまでに、事業所としてやるべきことも明確にしました。利用者本人の支払い意思の確認や、親族・家族による支払い能力・意思の確認、分割入金の約束状の作成等、未収金管理ルールを整備することになりました。

 

これにより現場の対応は変わりました。欠損金処理ルールが整備されたことで、事業所として、そこへの移行を前提に利用者対応を強める事が出来たのです。組織ルールを提示し、利用者とより丁寧に対応すること、そして一定の期間の対応で結論を出す事が目標化されたわけです。

述のように、長期未収金は現状2名に留まり、その2名についても、分割入金の約束が取れています。(実際の入金は滞りがちなのが次の課題ですが)

 

問題点を発見し、指摘し是正・改善要求を行うだけで、内部監査の業務は終了しません。もちろん、内部監査基準では、指摘事項への是正・改善は、監査対象の判断に委ねられることとなっていますが、経営に資する監査を目指す以上、アシュアランス機能だけでなく、アドバイザリー機能を発揮し、問題解決のためにできることに尽力することも、内部監査の重要な役割だと考えます。

 


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「大規模災害(危機管理)態勢」に関する監査① [5-監査事例]

活発な梅雨前線による記録的豪雨で、西日本から東海の広い範囲で、水害や土砂災害が発生し、多くの方が命を落とされました。ご冥福をお祈りするとともに、被害に遭われた方に対してお見舞い申し上げます。

 

私の住んでいる滋賀県でも、琵琶湖の水位が上昇し、自宅前の白砂青松の「萩の浜」は水没し、あと僅かのところで氾濫という状態でした。市の防災ラジオからは、臨時放送が流れ続けており、避難指示にまでは至りませんでしたが、行政としてかなり神経を使っている事は実感しました。なにしろ、数年前には、市内を流れる鴨川の決壊で、広域に水害に見舞われた地域だっただけに、今回もかなり心配しておりました。

 

「天災は忘れた頃にやってくる」

とにかく、日ごろからの備えが重要と言われていても、これがなかなか難しいものです。

西日本や東海エリアの生協の皆さまは、いかがでしょうか?

 

今回は、少し掲載順を変更して、「大規模災害」に関するテーマ監査を取り上げることにしました。

 

こういう時だからこそ、自組織の備えはどうなのか、内部監査の立場として検証する事が重要だと思います。

 

内部統制における「リスク・マネジメント」では、リスクアセスメント(評価)をスタートにしています。私のいた生協でも、内部統制事務局から、部門長(管掌役員・統括部長)に対して、自部門のアセスメントを要請し、集約し、重点リスクを抽出する作業を毎年行っていました。

 

アセスメントの基本は、「事業への影響度[×]発生頻度」で点数化され、上位のリスクが重点と定められていました。(この方法にはある問題点があり、内部監査として改善提案をしてきましたので、別の機会で詳しく述べたいと思います。)

この方法では、頻度の高い交通事故や違反といったリスクや、発生影響度(社会的信用の失墜による事業影響)から「役職員の不正」「商品供給事故」等が入るわけです。

それと同様に、東日本大震災や熊本地震等により「大規模災害」リスクは、甚大な被害・事業継続の危機という意識から、必ず上位となっており、大規模災害に対して「危機管理規程」「大規模災害マニュアル」「BCP(事業継続計画)」といったものが整備され、定期訓練や災害備品の充実といった取り組みも年々強められています。

したがって、内部統制の有効性評価(独立的モニタリング)のためには、この「大規模災害リスク」に対する対策・統制システムの構築評価も、当然、内部監査の対象領域となってきます。

では、どのような監査を展開すればよいのでしょうか。

大規模災害対策は、ほとんどの場合、組織全体に関わる問題として、発生した場合、統括部署(危機管理本部)が設置されて、事業継続計画(BCP)に基づき、2次災害防止や復旧のプロセスが示された規程が定められていると思います。したがって、大規模災害対策に関する監査では、本部系(管理系)の部署監査が主体になると考えられます。

 

私も当初は、そのようにイメージし、経営管理部や人事総務部を対象とした監査を実施していましたが、余りにも「概念的」な監査になりがちで、大規模災害の想定被害やその場合の対応という、いわば机上の空論ともいえるような領域の検証になってしまい、監査の有効性に疑問を感じていました。

 

そこで、事業所監査の中で、大規模災害対策の有効性評価ができないかと考えました。(環境ISOを主としている生協では、規格要求事項の中に「緊急時の対応」が重視されていて、その範疇で大規模災害に関しての備えも検証されていると思いますが)

 

事業所監査で「大規模災害対策」に関わる領域は以下のようなワークシートを使用しました。

なお、その際、領域設定は、「防犯・防火・災害対策」を一括りにしていました。(環境ISO:緊急時の対応をベースにしたため)

1)

●規程・基準・手順
・危機管理に関する諸規程(リスク管理規程、危機管理規程、災害対策規程、防火管理規程、ハラスメント防止規程、災害対策マニュアル、緊急時対応マニュアル等)は理解しているか?

2)

●リスク評価
・自部署として、自然災害・火災・その他事業継続に重大な影響を及ぼすリスクを認識しているか?

3)

●管理体制(法令基準・防火管理・防災体制)
・消防法に基づく防火管理者の届け出・管理体制・消防計画の提出はできているか?

4)

●運用(1)防火管理体制
・防火体制は、年次体制にあわせて更新し、明示しているか?
・消防設備は、適切に使用できるよう点検・管理しているか?
・消防訓練は、法令に従い実施され、報告しているか?

5)

●運用(2)大規模災害対策
・事業別災害対策マニュアルは策定され、周知しているか?
・防災備品は、定期的に点検し不足のない事を確認しているか?
・防災訓練は、年次防災訓練計画に沿って実施しているか?(避難訓練・安否確認・無線通信訓練等)

6)

●運用(3)その他の危機管理
・「緊急事態発生時の対応マニュアル」の記載内容を理解し、管理者としての責務を理解しているか?
・火災・自然災害・重大な交通事故を除く緊急事態とは何かを理解しているか?

7)

●監視・モニタリング
・緊急事態発生に関する日常的な報連相は行っているか?

8)

●不適合管理
・各規程・手順・マニュアルとの不整合や、消防署などの点検での指摘があった場合、速やかに報告し是正しているか?

9)

●是正・改善:違反・問題発生後の是正・再発防止策の有効性
*報告書記載の「是正・改善」に具体性と有効性があるか?
*報告書に基づき適切に実施されているか?

10)

IT対応
*規程集DB(危機管理カテゴリー)、防災DBは活用しているか?

 

監査の結果は、事業所単位で「是正・改善」が必要な事項は指摘事項としましたが、それとは別に、事業部門単位で整理し、事業別の課題にまとめることにしました。その結果、重大な問題が見つかりました。

 

宅配事業では、「配送中の対応」に関するルールが未整備だったことが判りました。実際、過去には、「ゲリラ豪雨による道路冠水が各地で発生、生協車両が水没する」という事故が発生しましたし、「大雪による高速道路通行止めに伴う物流センターからのセンター納品不能」も発生していました。こうした災害発生時の配達ルールはある程度は作られているのですが、全県エリアでは、局地災害への対応が不十分だということが判り、事業共通ルールに基づく事業所ごとの運用ルールと訓練が重要だということが判りました。

 

店舗事業では、「災害による長時間停電」への対応の不十分さが判りましたし、店舗共通ルールとしては、災害発生時の対応者は定められていて、安全を確保したうえで「できるだけ早く開店する」とされているのですが、実際、POSレジは稼働できず、レジ機能が確保できない限り供給はままならない事も経験済みでした。それへの対応・対策は進んでいませんでした。

 

福祉事業では、通所においては「豪雨や積雪・台風などでのサービス休止」は事業所長判断することが定められていましたが、訪問介護事業では「可能な限りサービスを提供する」ことになっていて、実際、ゲリラ豪雨発生の際、ヘルパーが帰着できない事態も発生していました。また、サービス提供中に「大規模災害(大地震)」が発生した場合に、利用者の安全確保や避難誘導をどうするかは決められていませんでした。

 

組織全体の「災害対策マニュアル」や「BCP」が立派に整備されていても、日常業務の現場では、未整備な部分がかなりあり、それらは、全体のマニュアル・規程では対応できるものではない事も判りました。

結果として、事業別災害対策マニュアル・事業所別マニュアルの整備と教育訓練が重要であることは明白でした。この点は、事業部門別監査報告の中にしっかりと書き込み、事業本部への改善提案としました。

 

特に、近年では、広域の大規模災害だけでなく、ゲリラ豪雨の様な局地型災害が頻発しており、事業の中枢を担う物流センターや電算センターが被害に遭うと、事業全体が停まってしまう事態も想定されます。また、宅配事業では大規模センター化が進んでおり、配達エリアが広く、センター周辺では全く問題はなくとも、配達先が大変な状態というのも珍しくありません。こういう細かい部分にまで神経を使って、対策・対応を作っていくことがますます重要になってきていると思います。


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「大規模災害(危機管理)態勢」に関する監査② [5-監査事例]

次に、管理本部を対象とする「テーマ監査」について述べます。

 

事業所監査の結果をもとに、危機管理システムの有効性評価が主要な監査目標となります。

 

ワークシートは以下のようになっています。

H 防火・防災態勢

1.防犯・防火対策

1.防火管理体制の明確化

組織全体の防火管理体制(防火管理規程に基づく)を管理部門が確認しているか?

2.防火管理規程に基づく教育実施

ハンドブックによる教育(標準教育)は全ての部署で実施されている事を確認しているか?

3.防火訓練(消防・避難)

消防法に基づく法定訓練(事業所規模・事業別要件)の実施を確認しているか

4.消火設備の適正配置

管財部による施設点検、外部業者による保守点検の実施状況を把握しているか

5.施設周辺の安全措置

安全衛生委員会の巡回点検で施設周辺の安全管理を確認しているか

2.危機管理・大規模災害時の対応マニュアルの周知と訓練

1.「災害対策マニュアル」に基づく教育実施

ハンドブックによる教育(標準教育)は全ての部署で実施されている事を確認しているか?

2.「事業別・職場別マニュアル」策定

規程に基づく「事業別・職場別マニュアル」は年次策定・更新されているか?

3.災害発生時の対応の訓練と教育

災害訓練は全職場で実施されている事を確認しているか?

4.大規模災害時の対応

災害時に適切な対応ができるよう「図上訓練」「本部設置訓練」等、年次計画に基づき、実施されているか

5.防災用品の保管管理

マニュアルに基づき、必要な防災備品の確保及び配置ができているか?一覧表による管理がされているか?

 

私のいた生協では、危機管理・大規模災害対策の本部事務局は、人事総務部となっており、監査については、人事総務部長と担当部長(途中で交代・課長職へ)へのヒアリングを実施することになっています。

 

事業所監査の結果から、これらの項目いずれも不十分な運用実態にある事は明白ですから、ヒアリングは、「なぜ進まないのか」に集中することになります。

 

理由はいろいろありますが、最大の問題は、危機意識(リスク認識)の欠如でした。

東日本大震災の翌年には、プロジェクトを設置し、災害対策マニュアルやPCB等、全部門代表による協議・検討が旺盛に行われ、立派なものが整備されました。

しかし、時間が経過するにしたがって、リスク認識は低下し、人事総務部の内部でも、災害対策担当部長へ丸投げ状態となり、部分的に修正や補強がされた「大規模災害対策マニュアル」がデータベース上に掲示されているにすぎない状態でした。

 

内部監査が監査する事は、まさに「寝た子を起こす」行為とも受け取られるような状態だったわけです。

初年度は、ほとんどの項目が不十分でしたから、可能なところから、一つ一つ是正・改善に取り組むしかありませんでした。

防災備品・用品の保管管理は、比較的早く着手されました。

標準用品を設定し、人数に合わせて増減、事業所へは年1回点検した結果を報告させ、補充する仕組みは容易に構築できます。それをイントラネット上のDBで掲示することで、集中管理も容易く出来ます。また、補充計画も策定し、年次予算化もできるようになりました。

ただ、「標準用品」は適用範囲が職員対象であったため、事業特性に合わせた補強が次の課題になりました。端的な例は、福祉事業所(通所・短期入所)での備品です。職員だけでなく、利用者も対象とした場合、品目数や必要数が極端に多くなります。保管場所の確保も必要です。何より、必要な物品は現場でしかわからないため、管理本部での一括管理になじまないこともわかりました。業務監査の中で、ある通所事業所では、市内の防災マップから事業所周辺に有効な避難所がない事を知り、地域の自治会とも連携し、一時避難所の機能を果たせるよう、防災倉庫を設置し、自治会の協力も得て、毛布や飲料水などの確保を独自に実施している事例がありました。これをベースに、他の事業所への普及と福祉事業における防災備品の検討を、福祉事業本部の課題とする事にしました。

 

また、都市部では「帰宅困難者対応」も社会的役割として求められ、いくつかの施設では、備品の追加、受け入れルールの整備、行政への届け出なども行う必要がありました。これは、地域の組合員の意見・要望がベースでしたが、同様の施設(組合員施設・会館)の機能の見直しと必要備品の検討が、組合員活動支援部を中心に始まりました。

 

宅配事業では「配達時の災害発生対応マニュアル」が策定され、トラックへ常備し、年1回の模擬訓練がスタートしました。福祉事業でも、前述のとおり、マニュアルが整備されました。店舗については、すでに、水害発生による緊急対応を経験済みの店長を中心に、災害発生時の開店マニュアルが策定され、順次普及が進んでいます。

その後も、順次、課題を提示し、改善方向を示しながら、監査を継続しました。

 

ただ、最も是正・改善に手間取った課題があります。

 

それは、大規模災害対策本部の設置と運用に関する訓練の実施です。

大規模災害対策の監査の初めは、現場の是正・改善について、事業本部を絡めて具体化することで、前進は生まれます。しかし、経営トップ(常務理事会)を本部長とする「災害対策本部」の訓練は、なかなか具体化できません。理由は、本部事務局の力量不足に他なりませんでした。組織全体の訓練には、シミュレーション(シナリオ)作成が必要ですが、経験がなく、他の訓練へ参加することもなく、意識はあるものの着手できない状態だったのです。それでも、事務局としては年次訓練計画を作成し、9月には全体の模擬訓練を位置づけながら、未実施という状態が続いていました。事務局へのヒアリングでも、未実施の状態について悩んでいました。私は、この問題は直接、経営トップ(専務理事)へ提起させてもらいました。コミットしていながら、必要な人・モノ・金が用意できていない事。やる以上、成果の上がる内容とする事。そのために、事務局(担当課長)への研修指示を出してもらうよう要請したのです。この問題は、その後の展開は確認できていません。

 

このように、現場の実態をベースに、管理部局へ課題提示する事で、有効な改善へ動くことができます。もちろん、こうした動きは内部監査ではなく、管理部局が主体的に取り組むべきものでしょうが、組織全体の危機意識が低下してしまうと、一部局の発案では前進しがたいのも事実です。

そういう点で、内部監査は、システムの綻びをいち早く発見し、経営トップへ報告し、大きな穴になる前に是正・改善提案を行う事が期待される役割ではないでしょうか?

大規模災害は、他人事ではありません。そして、命を守る砦として、生協は地域から強く期待されているはずです。


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「安全運転管理」に関する監査① [5-監査事例]

安全運転に関しては、長年の取り組みにも拘らず、事故や違反は絶えず発生しており、特に、近年は、パート配送比率が増加し事故発生が増加しています。交通違反も増加しています。交通事情は、昔の様に「路上駐車」が許されなくなってきましたし、サービス過剰で狭い路地まで入り込むような危険運転も一向に減らない現状があります。また、最近の新規採用者の中には、日常的に運転はほとんどしたことがないというケースも多く、予想外のトラブルが増えています。

 

こうした現実の前で、安全運転に関する教育訓練は、これまで以上に重要になっていますが、効果的なものとなっているか、はなはだ疑問です。

 

「安全運転管理プロセス」は、監査対象領域としてしっかり監査する必要があります。

 

監査手続きは、事業所監査(業務監査)と管理部門(人事部・安全運転管理担当)の監査を実施しました。

 

1.事業所監査での監査

事業所監査は、内部統制の標準項目として、以下の様にワークシートに盛り込みました。

1)

●規程・基準・手順
*管理者は、「道路交通法」の遵守姿勢を持って、「生協車両運転規則」は理解し、適切な業務を行っているか?

2)

●リスク評価
・自部署の「車両事故・違反」のリスクを認識しているか?

3)

●管理体制
・安全運転(運行)管理者の資格取得と届け出はされているか?
・安全運転トレーナー制度に基づくトレーナー任命はされているか?

4)

●教育・訓練
・職員ハンドブックに基づく一般教育は実施しているか?
KYTは定期的に実施しているか?他部署事故の共有化はできているか?

5)

●運用(1
・生協内免許の認定更新は計画通り実施しているか?
・認定更新後にトレーナーからの報告を受けているか?

6)

●運用(2
・日常業務における安全運転点検(免許証携帯や健康状態チェック等)は確実に実施できているか?
・車両の日常整備点検やクリーンネス・傷点検・出発前点検は実施されているか?

7)

●監視・モニタリング
・安全運転の実施状況について日常的に監視する仕組み(報告等)はあるか?-日報の運用

8)

●不適合管理
・交通事故・違反発生時に、速報作成と期限内に「事故検討会」を開催し、記録されているか?

9)

●是正・改善:違反・問題発生後の是正・再発防止策の有効性
*報告書記載の「是正・改善」に具体性と有効性があるか?
*報告書に基づき適切に実施されているか?

10)

IT対応
*「安全運転の広場」DBや「安全運転推進交流」DBは定期的に閲覧し、必要な情報を活用されているか?

 

この監査項目は、全体の一部分に過ぎませんから、時間はあまり割けません。

 

したがって、リスクベースの視点で、日常的に車両を使用する部門である、宅配事業(センター)と福祉事業(通所介護・ヘルパー・ケアマネ)はより丁寧に実施しました。特に、前年度の事故や違反の発生状況(全体の安全運転報告からデータ入手)をもとに、事故や違反の増加、重大な事故発生等の状況に照らして、重点事業所を抽出しておきます。そこでは、できるだけ時間を割いて、ヒアリングできるようにしました。また、宅配センターでは、出発時の立会い確認も可能な限り実施しました。

 

ワークシートにあるように、基本は「安全運転管理プロセスのPDCAサイクルの有効性評価」です。

 

監査を始めた初期の頃には、安全運転管理者の届け出といったコンプライアンス上の問題が浮かんできました。特に、大規模センターでは台数に応じて副管理者の配置が必要であるにも拘わらず、理解不十分で、選任できていない実態すら発見されました。管理体制の不備であり、コンプライアンスに関わる問題であったため、すぐに是正改善の指摘事項となりました。

 

私のいた生協では「生協車両運転規則」が定められていて、道交法や運送法の順守や、職員教育、事故発生時の対応と事故検討会開催等、細かい定めがあります。しかし、現場の理解は不十分なものでした。もちろん、通年での「安全運転教育」は展開されていましたが、長年にわたり繰り返しの内容で教育がなされているため、現場ではマンネリ化も進んでいました。特に、現場の教育訓練の主体が主任クラスの「安全運転トレーナー」に頼っているために、指導力や徹底力、日常マネジメントの連動などが上手くいっていない為、事業所によっては機能していない実態さえも見られました。安全運転管理者が、法令順守のための「名前だけ登録」に終わっていて、極めて形式的な運用に留まっていたわけです。運用に関する不備も次々に発見されました。

 

さらに、事故発生時の対応に関して、現場対応は比較的スムーズにできているのは確認できましたが、事故報告と事故検討会の開催は不十分な状態でした。重大な事故は確実に報告されていましたが、軽微な事故(物損)や違反(速度超過や駐車違反等)の報告と内部検討はほとんどできていませんでした。

「生協運転規則」では、軽微な事故も検討会を開催し再発防止策を確認することとなっていましたが、まともに行われているのは一部の事業所でした。

 

全体として、安全運転管理プロセスの現場での運用管理は不十分だと言わざるを得ない実態が浮き彫りになりました。

 

さらに、ヒアリングを通じて、宅配センター長(安全運転管理者)の悩みも判りました。

パート配送者の増加と新人の運転未経験者の増加という実態の中で、従来の安全運転教育や運転訓練では対応できないレベルになっている事でした。免許証は持っているが、運転実技が伴わない正規職員・パートが増え、なぜ事故が起きたかという問いに、まともに答えられない状況がある事。なぜ、ここでそういう運転(ハンドル操作)をしたのかと訊いても「わからない」という回答。試採用期間中の運転訓練で、課題がクリアできず、退職を希望する職員・パートが発生している現状があるのです。「人並みの運転ができない」状況への対応策を持ち得ていないわけです。

 

この監査の結果は、事業部門単位の監査報告書にまとめました。そして、宅配事業では、事業本部が中心になって、従来進めてきた「安全運転トレーナー制度」の運用改善と、安全運転教育の見直しに取り組むことになりました。

 

事業本部は、「モデルセンター」に設定し、安全運転トレーナー会議もモデルセンターで開催し、実践報告をもとに標準化(水平展開)する継続的な取り組みが始まりました。大きく変わったのは、車両清掃と出発時監視(場外出入口での上長による監視)の標準化、そして、KYT(危険予知トレーニング)の手法の改善でした。

お恥ずかしい話、KYTは、安全運転センター(別会社)が主体で組み立て、30年来変わらず「紙ベース」のトレーニングを継続しています。臨場感・緊張感のないやり方が継続され、マンネリ化しています。これに対して、現場では「実際の事故映像をもとにKYTを実施する」手法を取り入れ始めていました。より臨場感と緊張感をもって、瞬時に判断する能力を高める必要を感じていたからでしょう。この取り組みも、水平展開され始めています。


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「安全運転管理」に関する監査② [5-監査事例]

事業所監査の結果をもとに、組織全体の管理についてはテーマ監査として実施します。

 

前述したように、私のいた生協では、「生協車両運転規則」が定められていて、事業所ごとの安全運転管理者・安全運転トレーナーが配置されていると同時に、それを総括するのは、人事部内に専任担当が置かれ、それをバックアップする形で「安全運転センター」への業務委託がされていました。

したがって、安全運転管理プロセス全体のテーマ監査では主管部署(人事部)が対象となりました。

 

2.安全運転管理部署への監査(テーマ監査)

安全運転管理システムの概要は以下の通りです。

 

統制環境

法令

道路交通法・車両運送法等

環境整備

「倫理方針・行動規範」の周知

リスク管理

アセスメント実施

交通事故リスク(保険によるリスク転嫁を除く)-信用リスク

統制活動

内部規程類

生協車両運転規則(東海)

主管部署

人事総務部

機関会議等

安全衛生委員会(規則への記載はない)

機関会議等

安全運転トレーナー会議の開催

教育訓練

安全運転管理者・車両運行管理者の教育

教育訓練

安全運転トレーナーの育成・教育

アウトソース

安全運転センター

運用

安全運転管理者の専任・資格取得・届出(道交法74条)

運用

事故違反報告・事故検討会(規則14条~17条)

運用

生協内運転免許認定制度(規則3条・23条~35条)

運用

安全運転トレーナー制度(規則18条~22条)

運用

交通安全フェスティバル実施

運用

日常教育(KYT・トレーナーによる教育指導)

運用

始業時点検の運用

情報
コミュニケーション

報告

主管部署からの「安全衛生委員会・内部統制委員会」への報告

伝達

安全衛生委員会(常務理事会)での決定事項

コミュニケーション

安全運転センターとの情報共有化(DB・会議等)・外部情報受入

モニタリング

日常監視

安全運転の日常監視

モニタリング

月次報告(部署ごと、人事総務部集約)

モニタリング

SDカード(事故違反記録照合)発行実施

監査

内部監査(経営監査)

是正・改善

モニタリング結果からの是正・改善の実施

レビュー

代表理事による年2回のレビュー(12条)からのアウトプット

IT活用

DB活用

安全運転DB(事故報告含む)

 

安全運転管理システムの監査では、上記のシステム概要をベースに一つ一つの整備・構築・運用実態を確認することになりますが、現場監査で発見した不備事項から、日常教育・始業時点検、日常監視、月次報告の在り方についてを重点に監査しました。

ヒアリングしたのは、人事部長と安全運転管理責任者(人事課長)ですが、ここでかなり深刻な問題が発見されました。

「生協車両運転規則」により詳細に管理体制や手順は定められているものの、事業連合全体で承認された「規則」であり、20年以上前から、見直しがされていなかったのです。運用に当たっては、法改正に照らして問題のないようにしているのですが、「規則」が現実と乖離している事を人事部課長も認識しているのです。しかし、従来から「安全運転センター」に依拠して取り組んできたために、単協の内実は空っぽに近い状態でもあったわけです。

正直なところ、安全運転センターにはかなり高額な業務委託料が支払われているのですが、コストパフォーマンスについては検証できていない、検証する対象となっていないのです。

 

安全運転は極めて重要な課題であり、トップも重点リスクとして統制強化を指示していながら、実態は安全運転センターに丸投げ(極論ですが)という状態ともいえるものです。むしろ、現場・事業所はそういう遅れた実態を自らの意思で克服する努力をしているわけで、統制不備は明らかだと言えます。

 

まずは、この問題を最重点に指摘事項としました。「生協車両運転規則の検証と有効性向上」「安全運転センターの業務委託内容の見直しと有効性評価」という指摘です。

 

しかし、人事部長はこの指摘に難色を示しました。(安全運転センターは役員が社長兼務、顧問契約先は役員の要請・指示による)・・・残念ながら生協でも、いわゆる「忖度」が働き、「触れられない領域(聖域)」という認識が組織内で定着している・・これは、内部監査としては踏ん張りどころです。

こうした悪しき認識をどう是正するか。やはり、監査報告(エグゼクティブサマリー)の中で、明確に問題を指摘する以外ないと判断しました。

 

経営トップは極めて渋い表情を浮かべていました。

監査報告は、同時に監事へも報告しますので、監事会でもこの問題は重視され、監事による経営監査のテーマにもなるわけです。必ず、監事監査で適切な回答をしなければなりませんので、内部監査の指摘事項を無視することはできないのです。(「法定監査との連携」の意味がここで発揮されます)

 

少し、話が「安全運転管理」から離れてしまいましたので、戻します。

 

テーマ監査では、根本的なシステムの問題の指摘と同時に、現場の取り組み(事業所・事業部門)も報告し、全体システム管理の立場から、支援・指導するよう要請しました。その中で、全体で行っている「安全運転トレーナー会議」の運用改善(宅配センター主体の運用から、事業部門別の運用改善)、KYTのレベルアップ(動画活用・単協独自の教育訓練の運用)、事故検討会の内容検証や事故発生者への個別指導の定式化、新人職員・パートの運転訓練強化(自動車学校など新たな教育制度の検討)等、単協独自に強化できる項目を整理し、是正・改善を進めることで合意したのです。

 

まだまだ成果が見える段階ではありませんが、内部監査が一石を投じる事で、マンネリ化・硬直化して、有効性を失っているシステムを改善する事へ繋がると信じています。


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「店舗事業の供給管理」に関する監査 [5-監査事例]

店舗の規模の大小にかかわらず、「売り場」は、店舗職員の業務が直接反映する場所であり、商品管理・品質管理・衛生管理・表示管理等行き届いているか点検する重要な場所です。

店舗の業務監査では、売場の点検は必須です。業務監査の日程・時間が十分に確保できる状況ならば、帳票点検やヒアリングと一つのセットにして取り組むと、良いでしょう。(以前に、店舗点検活動というタイトルでご紹介した内容と重複している部分もありますのでご容赦ください)

 

私の場合、一人監査の限界があり、売り場点検は、別日程で組みました。いわゆる「予備調査」の一つとして組み込んだわけです。当初は、年末供給前に実施していましたが、店舗側にとって、点検結果を有効に活用する為、春(梅雨時期)と秋(年末供給前)の2回、全店舗の売り場点検を行っていました。

これは、隣のG生協の内部監査担当の方が、「品質管理担当」業務として実施していたことを交流会で報告いただき、詳細を教わり、少しアレンジした形で実施しました。

 

具体的には、すべての売り場の温度管理・衛生管理・表示・期限管理などを丁寧に点検します。

棚は必ず全アイテム2品抜き出し、日付と表示を目視し、プライスカードと照合します。特に、日付(期限)については、まさかこんなものが期限切れになどと驚くことがありました。また、一定の売り場範囲で、表示や期限の管理がおろそかになっている事もわかり、結局、人の力に頼って、任せっきりというパターンも多い事もわかりました。一つ一つ不備を発見し是正・補正するのは容易ではありませんが、組合員(来店者)のサービス向上に重要なポイントだと思います。

 

商品分野によっても重点を変化させます。

青果分野では、鮮度維持の視点や産地表示等を徹底的にチェックします。鮮度管理では、温度はもちろん、湿度(水分)保持も重要です。意外に、菌茸類の管理(温度管理)が杜撰でした。また、産地表示では、混在している例もたくさんありました。それと、日付管理。青果部門は「鮮度感」を重視していて、葉物野菜や果菜類、果物という順位でチェックの差があります。見落としがちなのが、「水煮野菜類」でした。長期保存可能という安心感からかチェックが甘く、期限切れも発見されています。

 

水産分野では、温度管理が第一でした。鮮魚類は冷蔵ショーケースで管理できていましたが、塩干類は不適切な温度帯(常温や冷凍)も少なくありませんでした。また、品名表示も独特で、売り場担当者の知識の範囲で名称が付けられていたり、生食・加熱の区分も不明瞭なところがあったり、考えられない事がいくつも発見されました。また、フローズンチルド商品の日付管理・温度帯変更表示なども不備が見られました。また、テナントによる鮮魚コーナー運営のパターンでは、生協内の基準・ルールが理解されておらず、温度記録や表示・陳列はかなり乱暴なところもあり、店長からの指導(要請)への対応姿勢も問題がある事もわかりました。

 

精肉分野では、関連陳列品(タレ・調味料類)の管理が盲点となっているケースが見られました。精肉パック商品は、ほぼ毎日入荷のため、値引き対応など日付管理は否応なしに確実に実施されます。しかし、関連陳列品は、ワンシーズン以上の陳列も少なくなく、結果的に期限切れもありました。

 

畜産加工分野では、表示問題が顕著でした。ハム・ソーセージメーカーは、頻繁に規格や価格変更を行います。外見はほとんど変わらないのに、グラム数が1割少なくなっているとか、肉の産地が変更されているとか、とにかく、プライスカードと現品の不一致が顕著なのです。見方を変えると、消費者を欺くようなパッケージが当たり前という業界なのかと疑いたくなります。そして、その変更が売場まで反映できていないという状態にありました。

 

ドライ商品分野では、回転の悪い商品の期限切れが発見されました。棚の最上段と最下段、調味料類の特殊な商品、飲料(豆乳や産直飲料等)、そして、ビール類の中でも「地ビール系」、製菓材料等はしっかり点検しておく必要があります。また、飲料でも冷蔵ショーケース内の点検も重要です。店舗規模が大きい所では、ショーケースも大型化していて、入れ替え作業で奥まで手が届かない等という実態もありました。菓子類でも「駄菓子コーナー」は要注意です。

 

きりがないので、ここらにしておきますが、こんなふうに、分野特性を理解して売り場を点検する事で、それぞれの分野担当が緊張感をもって業務を遂行しているかを把握することができるわけです。

 

点検の結果は、全て写真に撮り、異常品は現品を撤去して、可能な限り、その場で是正できるようにしました。当初は、担当者からは怪訝な表情で見られていました。しかし、確たる証拠を突きつけていますので、反論の余地はありません。そして、なぜこのようなミスが起きるのかをヒアリングするようにします。

 

こうした結果を、「店舗点検報告書」にまとめ、翌日には店長宛てに報告を送付し、是正改善を要請しました。また、全店実施後には、「店舗点検結果報告書」として冊子化し、店舗事業部長と管掌役員へ送付しました。初めて実施した際には、店舗管掌役員から理不尽なお叱りを受ける事(役員の了解のない点検活動は認められない:暗に内部監査への介入ですが)もありましたが、専務理事報告後には、店舗管掌役員が、店舗事業部長に対して、点検結果をもとにシステム・プロセス改善するようにとの指示を出していました。

 

それ以降、年2回の点検は、店長や売り場担当者にとって、日ごろの業務の評価と是正改善のチャンスという受け止めが広がり、かなり好意的に受け入れていただけるようになりました。

 

ただ、よく考えてみると、「内部監査の点検結果を業務改善に活かす」というのはかなりレベルが低いのではないかと思います。わざわざ内部監査が出向いて点検しなくても、お客様(組合員)の目こそ、最も厳しいはずです。日常的に、お客様の購買状況やご意見をしっかり把握し、常に最善の売り場作りを目指し、日々、是正・改善を進める事こそ、店舗職員のあるべき姿だと思います。店舗によっては、店舗委員会(組合員組織)で、定期的に売場チェック(モニター)しているところもあるはずです。生協ならではの組合員組織との協同によって、売り場をさらに良くする事は出来るはずです。そういう視点こそ、生協らしいと思います。

 

もう一つ、店舗点検を始めてから、生まれた成果があります。

 

私のいた生協もご多聞に漏れず、店舗事業は赤字でした。そのため、リニューアルは計画通りには進んで居らず、冷蔵・冷凍設備やバックヤード・加工場の老朽化が著しい所も見られました。店長としては、売り場・設備の更新リニューアルに取り組み、来店者の増加・供給高増加を進めたいところなのですが、修繕費用が捻出できない、赤字拡大になってしまうために、じっと我慢しているという実態がありました。

 

売場点検を行うと、例えば、冷蔵ショーケースの温度記録を点検すると「異常値」が発見されます。原因を確認すると、外気温が上昇するとパワー不足になるとか、出入口付近の風防室の建付けが悪く外気が吹き込んで温度が上昇するとか、いくつか設備の欠陥に行きつくわけです。

 

もちろん、食品衛生法の観点から適温管理が求められるわけで、こういう事態を点検結果で厳しく指摘したため、店舗事業本部と管財部が動いて、設備点検が大々的に実施され、年次計画化(予算化)まで進みました。こうなると、次は、計画に基づき修繕が予定通り行われているかを監査すれば良く、「設備・施設管理プロセス」のテーマ監査への連動させることができるのです。

 

現場で起きている事が必ずしも経営層(役員)まで届いているとは限りません。むしろ、マイナスな情報はなかなか届かないのが実態ではないでしょうか?それで、現場は苦労しているわけです。

 

内部監査は、経営に資することが最終目標ですが、現場で起きている問題がどうしたら是正改善できるかを、監査対象に指摘事項として提示するだけでなく、事業本部や経営層に報告し、組織的に解決する道筋を見つける事も重要だと考えます。そして、現場の職員にとって、内部監査は「味方」であるべきだと、私は考え、取り組んできました。


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「福祉専門職の業務」に関する監査 [5-監査事例]

福祉事業所の業務監査の中でも「専門職種の業務」については、独特な監査視点が必要でしたので、少し解説をしておきます。

 

私のいた生協では、福祉事業部門としては、いわゆる「介護事業」が主体で、居宅介護支援事業(ケアマネジャーによるケアプラン作成・サービス管理)と訪問介護事業(ホームヘルプ事業)、通所介護事業(デイサービス)、福祉用具貸与・販売事業、地域包括支援事業などを展開しておりました。

 

いずれの事業も、介護保険制度上の「認可事業」であり、法令要件を満たしておくことは大前提です。そして、それぞれの業務者には、有資格者が当たることになります。

 

訪問介護事業や通所介護事業、用具貸与事業など、いわゆるサービス提供側の事業所では、チーム運営・マネジメントが重要であり、専門職種(ヘルパーや介護福祉士・看護師・社会福祉士などの有資格者の集団的サービス提供体制が取られます。その意味で、業務監査の一つの視点としては、チームとしてのマネジメント(QMS:サービス品質)が適正か、有効かをしっかり見ることになります。

一方で、居宅介護支援事業(ケアプラン作成・サービス管理)では、事業所全体のマネジメント(個々のケアマネジャーの業務管理)は存在するものの、極めて脆弱な状況にあります。それは、ケアマネジャーの役割が、利用者個別の相談・プラン作成・サービス調整などを行う、いわゆるマネジャー(マネジメント)であるためです。事業所管理者が、個々の利用者のプランやサービス調整の状況を把握し、承認する権限を有しないため、個々のケアマネジャーの「単独業務」・・セルフマネジメントに委ねられる構造になっているためです。もちろん、加算要件(特定事業所加算など)を取得するには、ケアマネ会議の定期開催や主任家マネの配置などと言った細かい要件をクリアすることになり、ある程度、管理者の関与は発生しますが、小規模事業所の場合、「ケアマネ(=個人事業主」の集まり」に過ぎないのです。

 

実際、業務監査の際、ケママネジャーの業務実施状況を確認する為、成果物である「ケアプランなどの個人カルテ(記録)」を点検すると、ファイリング方法はまちまちですし、必要書類の不備(保管ミスや作成名地陽の不備)が多数発見されます。近年になり、電子カルテ化されていても、作成途中だったり、重要な情報が誤っていたり、サービス管理上の不具合が放置されていたりと、あきれてしまうような実態を目にすることになります。

なぜこのような事が起きるかは明白です。ここのケアマネ業務に対して、他者による点検の仕組みがないためです。法的にも必要としていていない(行政による実地指導で発見され是正指摘を受ける以外は)ためなのです。

このような実態は、利用者へのサービス低下やサービス提供側のミスを招く要因になりますし、保険請求時のサービス管理ミス・誤請求を誘発し、ともすれば、損失につながりかねません。結果的に、事業所管理者の管理責任が問われるのは明白なのです。

私は、業務監査の度に、「ケアマネ業務のマネジメント強化」について指摘していました。はじめのうちは、管理者もさほど危機感を持って受け止めてもらえず、中には、「ケアマネは個人事業主だから」と開き直る様な管理者さえいました。

 

しかし、事件が起こりました。

あるケアマネが必要な手続きを怠っていた状態で、3ヶ月経過し、行政(保険者)から該当期間分のサービス提供(保険請求)を認めないという決定を受けてしまったのです。当然、サービスは提供されているわけですから、3ヶ月分のサービス料全額をサービス提供側へ補てんする責任が生じます。その結果、大きい欠損金を産んでしまいました。当該のケアマネは、日ごろから独善的な業務姿勢が強かった事もあり、最初の行政からの通知を無視してしまった事が後々厳しい処分となってしまいました。

 

この事件をきっかけに、業務監査における指摘事項に対する管理者の受け止めは大きく変わり、問題の本質追及と是正・改善策について、具体的に相談されるようになりました。

居宅介護支援事業所の管理者はほとんどが、ケアマネ有資格者が担っていました。ですから、ケアマネ業務の手順やルールには明るいはずですが、実は、他者の業務内容を見る事はほとんどないに等しいのです。もちろん、ケアマネの研修(認定・更新)ではグループワークによる研修が実施されるため、共同作業の経験は持っているわけですが、実際の業務となると、結果的に「自己流」が通用してしまうのです。そのために、何が正しいのかという事になると、意外とあいまいな部分が多いのです。

 

事件の後の監査から、この問題について、少しずつ解しながら改善を働きかけてきました。

初めに着手したのは、ケアマネの業務日報の運用でした。ほとんどの事業所では、予定表(訪問先や業務予定)は作成していましたが、結果の確認ができていませんでした。そこで、業務日報の作成を要請しました。まずは、報連相の「報」の強化です。ここのケアマネが毎日どのような業務を行っているかを管理者が把握できる仕組みを作る事です。すると、個々のケアマネで、例えば「利用者との相談時間」の長さが極端に違っている事が判りましたし、プラン作成の実務にかける時間も、サービス調整にかかる時間も、かなり差がある事が判りました。能力の差だけでなく、仕事のスタイルの差が著しいのです。当然、受け持ちプラン数が同じなら、残業発生の状況に大きく差が生じてくるわけです。ここから、改善していく課題が発見されました。

 

次に、作成書類の統一化・インデックス作成を提案しました。利用者カルテの点検を通じ、ファイリング方法がバラバラで点検しづらかった事から、まず、ファイリング方法を統一し、インデックスを作成すると、未作成のままでいた書類や不足している書類がすぐに発見できるようになりましたし、利用者の引継ぎに際してトラブルも減少させることにもつながりました。また、統一化を進めるにあたって、個々のケアマネの仕事ぶりも把握できるようになりました。もちろん抵抗がなかったわけではありませんが、ある事業所でこの提案を実践した直後に、行政による実地指導を受け、ファイリング方法に関して高い評価を得たのです。これは事業所会議で報告され、部会でも書式統一・ファイリング統一の機運が高まり、一気に広がっていきました。

 

この2点の取り組みだけでも、個々のケアマネの業務管理・マネジメントが改善され、特に、若手のケアマネ(経験年数の短いケアマネ)にとっては、「報連相」のしっかりした事業所で働けることでの満足度が高まったと思います。(実際、監査の休憩時間などで、雑談しているとケアマネからそういう声をいただくことが多くなりました)・・若手のと書いたのは、やはり、長年「自己流」で縛られずにやってきた熟練ケアマネにしてみれば、余計なお世話という感覚が消えなかったようで、「仕事が増えた」という愚痴は聞きましたが、実は、そういう方こそ、ミスが多く重大な事案につながるリスクが高いのです。先に記した事件も、実は、事業所管理者と創業以来のケアマネ2名の独断による重大なミスだったわけです。

 

訪問介護事業や通所介護事業、用具貸与事業でも、小規模になると固有の業務分担(生活相談員やサービス提供責任者など)で、他者の目が届かない(監視されない)業務にある場合、同様のリスクがあると認識すべきだと思います。(用具貸与では、先の事案と同様の手続きミスによる欠損金発生事件があった)

 

基本は、「報連相」と業務プログラム(手順)の統一化と明確化にあると思います。この点は、ISO9001(品質)規格の中でかなり細かく、要求事項とされており、内部監査による適正性と有効性チェックが行き届いていれば、すでに着手されているかと思いますが・・・。内部統制システム上でも、モニタリングの重要性は言われていますし、手順・プロセス管理の重要性も言われています。いずれにしても、マネジメントの改善に内部監査が最も力を発揮することができる領域だと思います。


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「組織管理体制」に関する監査 [5-監査事例]

これは、事業所監査の中から、派生した問題を取りまとめて、経営トップへ提案した「内部統制上の不備事項と改善提案」を解説するものです。

 

私のいた生協は、宅配(共同購入)事業・店舗事業・福祉事業・受託共済事業が主要事業と呼ばれ、これにかかわる職員は全職員の8割以上でした。

しかし、「くらしまるごと」を目指し、総合事業の展開を進める中で、移動店舗事業や文化事業、住まいの事業、その他生活サービス事業にも取り組んでいます。もちろん、事業規模はいずれも小さく、中には、職員人件費も賄えないほどの分野もあります。結果として、職員1名とパート・アルバイトといった事業所(職場)がいくつも存在することになりました。

また、管理部門のコスト削減も進められる中で、部の統合や課員減少により、課長1名・パート数名という部署も生まれることになってしまいました。

 

こうした小規模部門が乱立してくることで、想定されるリスクはなんでしょうか?

前述した「福祉部門の専門職業務」の問題と同様に、「マネジメント不全」のリスクが考えられます。

 

業務に関わる様々なプロセスでは、決裁・承認の権限が設定されます。ミスや不正防止の観点から重要な工程ですが、たいていの場合、正規職員あるいは管理職とされます。正規職員が複数以上いる部門では、申請者と決裁者は別となり、相互けん制機能が働きます。しかし、一人の職員しかいないとしたらどうでしょう。パートやアルバイトの申請に対して決裁は出来ますが、自分の申請は出来ないことになります。それでも、部門長となれば「自己決裁」せざるを得ません。

 

実際、業務監査で発見した問題事象として、「勤怠管理に関する決裁」がありました。

以前に、労務管理監査の項目でも述べましたが、宅配センターや福祉事業所など多くの職員やパートが居る事業所であっても、不適切な運用がありました。それが、正規職員一人の職場となるとどうでしょう。自分の勤怠記録を自分で承認せざるを得ない状況に置かれます。この時点で、すでにルール違反なのですが、結果として、残業認定できない状況に置かれ、サービス残業が発生してくるわけです。あるいは、休日出勤しても、タイムカードを切らない等、管理とは程遠い状況に置かれるのです。

 

これは、職員自身の問題ではありません。そうならざるを得ない環境を組織的に生み出しているのです。

部門の細分化を図り、専門性を高める。あるいは、経営改善のために「独立採算・区分管理」などを明確にするため。等のもっともらしい理由をつけて、部門縮小・人員削減を進めることを、もし意図的に行った結果とすれば、これは内部統制上の重大な不備事項に当たると考えます。

マネジメント不全の状況を組織自ら招いてしまい、不正の温床を作ることになってしまうのです。こうした視点で、組織管理体制を検証することが、なかなかできない。これが生協組織の甘さではないかと常々思っています。

 

ちょっと脱線しますが、私のいた生協では、以前・・20年以上前ですが、毎年のように、組織機構体制の変更がされていました。

当時の経営トップの「組織論」へのこだわりが強く、何か計画推進上の不具合があると(年度総括)、機構・体制を変更し、部門の統合や廃止が行われていたのです。それはほぼ毎年の様なペースでした。中期計画のスパンで変更されるのであれば、理解できます。しかし、その理由が明確になっていない。そしてもっと皮肉なことに、「機構体制が変更になっても、仕事(業務)分担が個人に付いて回る」事がほとんどだった事です。人の異動はあるが、仕事はその異動先について行くわけです。だから、極めて歪な組織機構ができてしまうのです。だから、毎年のように訊こうを変えざるを得ないのです。

若い頃(20代の頃)、それをトップに尋ねた事(文句を言ったというべきかも)がありますが、回答は明確でした。

「組織機構体制をどうするかは、経営者の最優先事項であり、組織論に裏打ちされたものだ。担当職員が意見することではない。」というものでした。もちろん、会社組織をどう作るかは経営者の手腕が問われるところでしょうが、それは、全社員、ステークホルダー、顧客にも理解されるような明快さと、効率的で合理的なマネジメントを実現するものであるべきだと思います。意見を排除する理論では成功しません。

 

ちょっとそれてしまいましたが、こうした「マネジメント不全」を改善することの内部監査の重要な役割だと思います。

 

監査報告書には、以下のような記述があります。

 

●内部統制上の不備事項

     管理後方部門や○○事業部門では、人員昨年と昨日の細分化がすすめられ、正規職員1名とパート・アルバイトという少人数部署となっていました。少人数部署では、管理に関わる業務で、不適切な処理や非効率的な作業が発見され、その問題は「監視・点検体制」の甘さにあると考えられました。

     正規職員一人の体制では、業務監視や牽制機能が脆弱になり、不正やミスを産みだしやすいだけでなく、長時間勤務は休日未取得(休日のサービス出勤)を産みだし、不適切な労務管理につながっていました。

改善提案

     少人数部署の統合や、正規職員の複数配置を検討し、業務の合理化・効率化を進めてください。特に、管理職業務の改善につながるよう、運用改善を進めてください。

 

この監査報告書は年度末に組織報告されましたが、上期報告の際にも専務理事へ報告・提案しており、次年度の方針・計画・機構体制の検討に際して、「少人数部署」の問題が検討されました。結果として、事業部門での統合と管理者配置の変更は進められ、現業部門では改善が進みました。

しかし、管理後方部門(人事総務部や経営管理部門など)では、さらに上の経営層(単協・連合のトップ層)の「経営改善」のための方策として、管理部門の統合(事業連合と単協の部門統合)が進められ、人員削減へと舵が切られてしまいました。経営管理部も内部監査部門も統合されてしまったのです。

本来、事業連合と単協との関係はどうあるべきかとも関わる問題です。ですから、正解というはないかもしれませんが、私のいた生協では少なくとも、3つの生協と事業連合は「受託・委託」の関係であり、事業連合は「仕入れ機能」を持つ事で、独立採算となっていました。ということは、単協は事業連合をけん制・監視する立場にあるわけです。しかし、それが統合されるということになると、ガバナンス不全について誰も警鐘を鳴らすことができなくなります。内部統制上の最も重大な問題を抱えてしまうわけです。

 

私が退職した理由の一つは、この問題が目の前にあったからです。何度も、管理後方部門の統合には反対意見を表明してきましたが、理解を得ることができませんでした。残念です。なかなか、難しいですね。


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「組合員活動領域」に関する監査① [5-監査事例]

組合員活動の領域について、皆さんのところではどのような監査がなされているでしょうか?

事業分野の監査はかなり丁寧に行われているにも拘らず、組合員活動や運動分野に関する監査はなかなか難しいというのが実感ではないでしょうか。

私も着任当時には、組合員活動の分野は、内部監査の対象領域外という認識でした。理由は、組合員の活動や、平和や環境などの地域の運動(古い言葉で言えば、大衆運動)の領域は、内部統制システムの外にあり、監査の基準や規程というものが馴染まないと考えていたからです。

特に、私のいた生協は、組織合併に伴い、組合員活動の考え方や歴史的経過の違いを埋めるために、組合員活動のルール・政策整備に向けた話し合いが進められ、難航していて、なかなか考え方やルールの統一が進まない状況にあったのです。

紆余曲折を経て、ようやく、組合員活動の考え方やルールが纏まり、組合員活動領域に対する監査について検討を始めた頃に、別の監査を通じて、問題事象が発見されました。

それは、予算管理に関する監査(経理部・経営管理部対象)のなかで、決算書点検作業中に、「組合員活動費の処理ミス」が発見されたものでした。端的に言えば、年度末決算に際して本来320日で全ての費用を締め、年度支出額を確定するべきところが、組合員活動に関する費用計上が提出期限を過ぎても未提出だったり、計上ミスがあったりして不正確な状態にもかかわらず、判明している範囲で経理部へ報告され、経理処理され決算計上されていたものでした。

原因調査を進めるため、組合員活動支援部における組合員活動費の処理プロセスの点検を、特別監査として実施しました。

その結果、組合員活動を支える事務局では、年度末処理という認識が甘く、組合員から提出されてきた書類(活動報告と費用計算書)を点検しているものの、担当者一人で実施し、集計表を作り、支援部長による提出書類の点検もなく、経理部へ提出するというお粗末な手順で処理していたことが判りました。そのために、未提出があったり計算間違いがあったりしても発見されず、受け取った経理部も点検すべき書類がなく、一覧表の数値を鵜呑みにして計上していたのです。

 

組合員活動そのものは自主的な活動であり、組合員自身が自由な発想で取り組むべきものであり、事務局(職員)による指導や統制を行うものではありません。しかし、そこには法令順守や不正な使用を防止するような一定のルールが存在しており、それをもとに事務局は、監視・点検する必要があります。言い換えれば、事務局機能は内部統制システムの枠の中で、マネジメントされるものだという事です。

そう考えると、組合員活動領域に関しても、事務局を対象とした内部監査が必要といえるわけです。したがって、宅配事業や店舗事業と同様の切り口で、PDCAサイクルの有効性評価を行う事、内部統制構成要素に照らして監査項目を立て、実査を行う事ができると考えました。

 監査項目は大きく分けると以下の通りです。

1.組合員活動(支援部)の計画・方針の確認

2.年度実績(委員会・サークルの登録数や予算申請)

3.事務局における業務分掌、

4.各プロセスの手順と運用の確認

5.業務の監視(モニタリング)状況

6.問題事象の報告と是正・改善状況

 

 第1回目の業務監査(定期監査)を終えた率直な感想として、組合員活動に関わる事務局は、事業分野と比べ、かなり大雑把であるということでした。内部統制システムの認識・考え方が理解されていないのに等しい状況にあるという事でした。

組合員活動に関しては、明確なルールが示されているにも関わらず、当の事務局は、担当者の「勝手な判断」でルールが蔑ろにされているのです。おそらく、これは、事務局(職員)だけの問題ではなく、組合員からの無理難題にも応えざるを得ない関係(露骨に言えば、委員会やサークルの代表に元理事の関与が多く、有無を言わせぬような場面がある)が生まれてきている事にも要因があると考えられます。もちろん、官公庁のような「杓子定規な対応」が良いという事ではありませんが、ルール違反に対してストップをかけるのも事務局の役割であるはずで、その姿勢が貫かれていないわけです。

 この問題について、支援部長とはかなり話し込みました。その上で、改めて、「組合員活動ルールの周知の仕方の見直しと、事務局の役割・あるべき姿の再確認」を重点に改善を図るよう指摘しました。

それまで、「組合員活動の手引き(ルールブック)」を発行し、活動に参加する組合員や総代・地域委員などへ配布していましたが、その取扱いは充分とは言えない実態でした。「配布したので読んで下さい」程度だったわけです。これを改めることが必要でした。改善策として、年度初めに、説明会を地域ごとに開催し、年度初めや期中や期末に提出する書類も明確にし、未提出や記載事項に不備があれば差し戻すようなルールの厳密化を図りました。当然、これまで活動されてきた組合員の方にとっては、抵抗感もあったわけですから、何度も相談せざるを得ないケースもありました。こうしたことを通じて、事務局の役割も強めることに取り組みました。この点に関しては、フォロー監査も実施し、翌年1月段階で次年度の説明会の開催に向けた準備状況や配布する帳票類も点検し、不十分な点を補強するよう改善要請を行いました。結局、支援部内でのPDCAはまだまだ不十分な状態でした。

 

 また、活動費に関する処理の問題を皮切りに、事務局(職員)には、予算管理や会計処理に関する知識が極めて乏しい事も判りました。先の「決算計上ミスの問題」のように、組合員活動支援部には、月次や年度の決算という認識がありません。春に組合員からの登録・予算申請を受けた後は、年度末の報告まで余り関与していない事も判りました。さらに、経理部や経営管理部も、組合員活動分野に関して余り立ち入らない姿勢も見られました。

こうした実態から、内部監査としては、組合員活動費の経理処理や予算管理に関して、経理部・経営管理部・組合員活動支援部の協議の場を持つ事、定期的な報告(月次報告)を行うプロセスを確立することを申し入れました。

私のいた生協は、管理部門と組織運営部門は同じ建屋(本部棟)にいます。日常的に、顔を合わせる環境にあるはずですが、それぞれ、自分たちの業務に追われ、部門間で話し合いを持つ事など皆無に等しい状態でした。特に、管掌役員が違うと、部門を超えた調整会議というのは持ちにくいようです。そこには、内部監査部門が仲介役となって、「風通しを良くする」こともできるのではないかと思います。そのことで、双方の業務が改善され、プロセスが正常化するのであれば、かなりの組織貢献になるのではないでしょうか。


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「組合員活動領域」に関する監査② [5-監査事例]

組合員活動に関する監査事例の続きです。

 

2年目の監査では、また、新たな問題が発見されました。

一つは、サークル活動の中で講師を招いて学習会を開催した際、「講師料の支払い」に関して不適切な処理がされていたものです。講師料に関しては、所得税法上「源泉処理(支払い側の納税処理)」が必要です。生協内部で行う講演会などの講師の場合は、機関運営部から経理部を介して、源泉処理が行われていましたが、組合員活動(今回はサークル活動の中)では、そうしたルールは理解されておらず、未処理のままだったのです。組合員活動といえども、経理上は生協からの支出には変わりありません。法令違反の状態にあると言ってもいいものでした。

この問題の本質は、こうした「講師を招く」活動は、広く組合員活動・サークル活動では見られるにもかかわらず、講師料の取り扱いに関して、組合員活動支援部に知識がなく、組合員活動のルールブックに適切な記載がなかったことでした。改めて、講師料の取り扱いに関して、ルールと書式を定める様、是正指摘を行いました。申請の仕方も含めて、翌年度にはかなり改善が見られました。

 

もう一つは、生協施設(組合員ホール)を使用した「講演会」の開催で、有料(チケット販売)とし、さらに、芸能プロモーターを介して「芸人」の手配などを行っているものでした。これは、組合員活動といっても立派な「興行」とみなされるものでした。さらに、その「芸人」への出演料支払いも、簡易的な「領収書」1枚だけというお粗末極まりないものだったのです。

さらに、この取り組みに関して、生協主催という表記がポスターやチラシにも記載されているのです。もちろん、理事会主催ではありませんし、承認も受けていませんでした。地域の組合員委員会の主催なのですが、こうした取り組みに関して、事務局側も関知しておらず、結果報告で初めて判ったというお粗末なものでした。危惧したのは、こうした事例はこれだけではないのではないかという事でした。過去にも行っているはずですし、年度の活動計画(組合員の委員会やサークルから提出)にその記載はあるはずですので、しっかりと計画書に目を通しておけば、事前に相談・調整できたはずです。

組合員の自主的な活動を事務局が誘導したり統制したりすることは、間違っていると思いますが、法令順守(この場合、興行としての手続きの瑕疵や所得税法・源泉処理への対応)のチェックや、ポスター・チラシなどの事前点検(誤謬防止・名称などの不正使用防止など)、そして、収益事業そのものが組合員活動のルールでは認められていないという事の認識作りといった、活動・運動の在り方については事務局からの支援・点検が入るべきだと思います。

そのために、年次で活動計画書や予算書を組合員から提出いただいているはずですし、不備があれば確認する事は事務局として当然の作業だと思います。

 

こうした問題が発生する真因として、事務局の育成が脆弱になっているという点を加えておきたいと思います。

私のいた生協は、合併により「県行政区全域」が活動エリアになりました。数十万人の組合員組織が県内の広いエリアで活動を展開します。20年位前までは、一つの配送センターや店舗が地域の拠点(組合員の集う場所)になっていて、センター長や店長、地域担当が組合員と一体となって活動を進めていました。この段階では、事務局(センター長や店長・地域担当)が組合員活動を把握でき、ちょっとした相談事もリアルタイムで行い、組合員との距離感も近かったため、大きな問題に発展することも少なかったはずです。(もちろん、この頃は、今と違って、配達が終わってから夜の時間で組合員へ訪問して相談したり、休日も活動参加と称して動いていたわけですから、労務管理面ではかなり問題もありましたが・・。)

しかし、今の時点では、分業化が進み、宅配センターや店舗は事業活動に特化し、組合員活動に関与する職員はかなり限定的になっています。私のいた生協で言えば、組合員活動支援部とブロック運営部(県内をいくつかのブロックに分割して運営する仕組み)の職員が主になっていて、若い担当者は日常的には余り組合員活動には接することがなくなっています。

こうなると、組合員活動や地域の活動に対する見識や経験を持つ職員は育ちにくくなります。支援部に配属されて初めて、組合員活動の支援業務を行うことになり、長年活動をしている組合員から見れば「頼りない事務局」という事になるわけです。だからといって、事務局になった職員が、特別な教育訓練を受ける機会はどうでしょうか?少なくとも、私のいた生協では、そうした事務局としての教育訓練制度や仕組みはありませんでした。先に述べたような、問題が発生しても、何が問題なのかすら判らないというレベルにとどまっているわけです。

ちょっと古臭いかもしれませんが、生協は「事業と運動の両輪」で発展すべきものだと若い頃に教えられてきました。また、当時の事業も、単なく供給事業(販売事業)ではなく、生活物資の共同購入運動だとも言われていた時代もあったわけです。若い世代の職員に、こうした生協運動論が通じるのかどうか、少し不安なところはありますが、だからこそ、将来に向けて、必要な知識と経験を積むことを組織として制度化・整備していくことが重要だと思います。

 

ちょっと脇道にそれたようですが、組合員活動領域における監査では、組合員活動を支える事務局業務の監査が対象領域であると考え、PDCAサイクルを持ったマネジメントがされているかを中心に監査をする事は有効だと考えます。

そして、組合員活動領域だからこそ、「法令順守」「経理処理」「内部規程に沿った処理」など、事業と同じレベルで事務局機能がなされているかを厳しく見る事が重要です。事務局が誤った判断をし、トラブルや不備を起こした場合、直接的な迷惑をこうむるのは組合員です。そしてそれは、当然、生協職員・組織への不信へと発展しかねません。

組合員に信頼される組織であることは、「経営に資する」ための最も重要はファクターです。という事は、組合員活動領域の監査は、事業部門監査以上に、重要なものであるといえるわけです。


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お礼のご挨拶 [0-御挨拶]

221日にこのブログを立ち上げ、これまでの経験から、内部監査ガイドラインや監査事例などを掲載してきました。途中1ヶ月ほどのお休みをいただきましたが、かなりの量の情報提供をさせていただきました。

 

少しは皆さんのお役に立てたのでしょうか?

 

先進的な監査を既に進めておられる生協の方々には、あまり為になるようなことはなかったかもしれません。しかし、見方を変えれば、私の様に、発展途上の内部監査では、様々な発想で、時には監査の基本からは少し離れてしまっても、「経営に資する」ために為すべきことがあると考え、取り組むことの重要性は御理解いただけたのではないでしょうか。

皮肉になりますが、先進的に監査を展開されているところでは、監査スタイルが硬直化してしまい、本来、組織の変化にフレキシブルに対応すべき内部監査部門が、古典的な手法を頑固として守っているようなことになっていないかと危惧されます。

マネジメントのPDCAサイクルで重要なのは、C-A(チェックと改善)です。中期監査計画単位で大きく監査スタイルも見直す事こそ重要なのではないかと思います。

 

そして、これから監査部門を強化すべきだとお考えの生協では、私の経験したことが少しでもヒントになって、壁を越えられたと感じていただけていれば幸いです。内部監査部門が独立していないところもまだまだ多いと思います。だからこそ、このブログから、ヒントを得て、客観性や公平性を保てるような監査を目指していただくことを望んでおります。

 

生協を退職してはや5ヶ月が経ちました。

そもそも、私が生協を辞めたのは、体調の問題が第一でした。ただ、それでも無理をしてやれないことはなかったと思っています。

それ以上に大きかったのが、内部監査の立ち位置に関わる問題でした。正常なガバナンスの下で、内部統制システムが有効に機能し、法令順守、業務の有効性・合理性の確保、資産保全、経営の透明性が確保され、永続可能な事業経営を実現するために、内部監査は力を発揮するものです。しかし、それが蹂躙される事態が目前にあり、警鐘を鳴らした事で「存在を否定される」ような状況に置かれた時、内部監査人の取るべき対応は、その職を掛けて訴える事です。もちろん、監事への報告も行ったものの、解決されることは期待できませんでした。なにより、役員改選により、執行体制が大きく変わってしまうからです。

今でも、自ら取った「退職」の道がどうだったのかは判りません。少なくとも、生協側には何のトラブルも変化もなく、危惧した方向へ向かっているのではないかと思います。

組織とは何なのか、生活協同組合とは何なのか、35年前に生協に就職した頃、夜遅くまでセンターで作業をしながら、熱く語りあったものでした。社会的認知度が低い時代だったからこそ、そこで働く意義を互いに確認するような、そんな議論があったのです。

 

皆さんはどうでしょうか?

 

先日、ネット上で「厚生労働省の生協組織への指導に関する文書」がありました。既にご存知の方も多いでしょうが、一部転載します。

第4 消費生活協同組合の指導・監督について

1 生協行政の基本的考え方について【資料 P127参照】

消費生活協同組合(以下「生協」という。)は、 組合員が出資をし、組合員が組合員の生活の文化的経済的改善向上のための事業や助け合い活動を行い、組合員が利用する、一定の地域又は職域での人と人とのつながりによる非営利の協同組織である(参考)。

生協は互助の組織として、以下のような組合員のくらしを支える事業や組合員による助け合い活動(以下「組合員活動」という。)等を行っており、こうした取組を通じて地域のコミュニティづくりに寄与してきたところである。

具体的には、 ① 購買事業(店舗・宅配による食品等の供給、移動販売車による買い物弱者支援 や個配又は配食時の高齢者見守りなど)   ② 医療福祉事業(病院・診療所、介護事業所、生活困窮者自立支援関係事業所、 保育所、サービス付き高齢者向け住宅・介護事業所・サロン・ レストランなどの複合施設など) ③  共済事業(火災共済、自然災害共済など)      といった事業のほか、さらに、社会的、公共的役割として、    ④ 組合員等の支援(家事援助、移動支援、子育て支援活動、配食ボランティア、 食事会による交流など) ⑤ 被災者の支援(救援物資の供給、支援人材の派遣、支援募金など) ⑥ 助成活動(先進的な福祉的活動を行う社会福祉法人や NPO 法人などを対象) ⑦  障害者の雇用(店舗・配送センターなど) といった取組を行っているところである。

まずは、生協の基本的性格及び事業や組合員活動の状況等、生協についての理解を十分に深めた上で、生協の指導・監督にあたることが肝要である。

各都道府県におかれては、所管する生協の運営状況を十分に把握していただき、消費者行政といった観点に止まることなく運営実態に即した助言・指導をお願いする。

 

 適正な運営管理及び事業の健全な運営について

(1)生協の適正な運営管理及び事業の健全な運営を図るためには、生協のステークホルダーである組合員のニーズを的確に踏まえた上で理事会に諮り、運営方針を決定することや、総(代)会において議案を適切な手続を踏んで諮ること、また、監事が会計監査のみならず的確に業務監査を実施し、理事会において適切に意見を述べるなど組合自治(ガバナンス)を確立、強化していくことが重要である。

また、共済事業を実施する生協については、契約者保護及び財務健全性の確保を運営方針及び事業計画の重点事項として位置づけつつ、人口減少、少子高齢化の中で、共済生協の組合員の減、高齢化に伴う共済金の高騰といった共済事業のリスクを念頭にした運営の重要性を認識する必要がある。

一方で、運営上問題のある生協については、

① 理事会が適正に機能しておらず、専務理事と事務局職員といった一部の者が実質的な運営を行っている

② 事務局の事務処理態勢が脆弱なため生協法令に則った適正な事務が行われていない

内部監査が行われていないことに加え、監事監査が形式的なものとなっているため、運営の適正化など牽制機能が働いていない

  といった状況にある場合が多い。

生協は、その行う事業によって、組合員に最大の奉仕をすることを目的とすることから、一部の者により運営が行われている状況は極めて不適切である。理事会は、組合員の生活の文化的経済的改善向上を図るため、業務の執行を決する権限を有していることから、検査の際などにおいて理事会の運営状況や執行役員等からの理事会への報告状況などを確認し、必要な助言・指導をお願いする。

また、法令に則った事務が行われていない生協に対しては事務局体制の改善に加え、適正な事務についても丁寧な助言・指導をお願いする。

さらに、監事監査については、会計知識のある監事による会計監査のみならず業務監査を実施するとともに、監事の理事会への出席による助言等を通じ、健全性の担保をお願いする。このため、検査において、監事の監査計画及び監査方法並びに監査報告といった監査実施状況を把握するとともに、理事会への出席及び発言の状況を議事録で確認し、適切にその役割が果たされるよう助言・指導されたい。

 

厚生労働省がどうかという事ではなく、こうした文書の中に、「内部監査の実施」が出てくること、そして、生協の組織運営の健全化に関して詳細な記述が出ているという事は、ガバナンス不全に陥っている生協が明らかに存在することを物語っていると言えます。

特に、組織トップによる独善的な運営とそれを容認している理事会と職員体制の記述には驚きました。理事長や専務理事という役職者は、決して私利私欲に走っているわけではなく、経営強化・組合員への利益優先姿勢など、内部的には高い評価を受ける姿勢を持っているはずです。しかし、それが、ともすれば、理事会の形骸化やイエスマンの配置による体制安泰へと突き進んでしまい、民主的運営・ガバナンス不全を産みだすわけです。そうしたことを問題として、経営者に提起することは容易な事ではなく、職を掛ける覚悟さえ必要になると思います。

どうか、最終的な状況に至らないよう、「経営に資する監査」に邁進していただきたいと思います。

 

おそらく、この間も生協を取り巻く社会情勢も大きく変わってきている事でしょう。監査に必要な知識やスキルもどんどん進化しているに違いありません。私の中にも、生協の経験や記憶も徐々に薄れつつあり、自ら、時代遅れになっているのだろうと覚悟しているところもあります。

ホームページも立ち上げ、皆様のお役に立てるような仕事をしたいと準備をしてきましたが、これまでに問い合わせもご相談も何もなく、どうやら、私からの一方的な思いだったと思い至りました。

既に、皆さまは私がご紹介してきた事などとっくに通り越して、もっとハイレベルな内部監査を実施されているのだろうとも思うようになりました。

 

これまでお読みいただき、誠にありがとうございました。



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