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アドバイザリー機能について① [3-内部監査参考情報]

これまで、内部監査の使命である「経営のアシュアランス機能」を中心に、監査のガイドラインを示し、具体的な監査手法やテーマを書いてきましたが、ここからは少し、もう一つの役割である「特定の経営諸活動のアドバイザリー機能」について考えてみたいと思います。

 

私が生協時代に実際に行った「アドバイザリー」は、「住宅事業部」と、「くらしのサポート事業部」を対象としたものでした。

 

住宅事業部では、前年度の監査で「事業予算の執行」に関して、大きな乖離が発生しており、その原因追究の中で、事業高の計上及び経費計上に関して、「発生主義」が貫徹しておらず、著しい誤りを産んでいる事が判明しました。結果として、適正な収支報告・決算になっていない為、早急に立て直しが必要とのトップ指示があり、内部監査室として「アドバイザリー機能」を発揮することとなったわけです。

 

具体的な実施では、事業部長と経理担当職員とともに、日常の業務フローの確認から始めることになりました。

かなり時間が掛かることを覚悟しながらも、契約から竣工・完了までの工程で作成される書類と現金、そして経理作業をつけ合わせながら、業務フローの問題点の洗い出しから進めました。こうすることで、部内の理解が進むことと、作業の無理や無駄を発見するという効果も期待しました。

住宅建設・改修にはかなりの工程があり、書類も多く、それぞれのファイリングの仕方を改善の必要がある事がすぐに判りました。また、データ処理の仕組みの構築(工事監理ソフトの導入)の必要性についても確認できました。

 

当時、多くの工程で「紙による管理」が中心にあったことと、一つの工事の工程管理は、いわゆる「工事監理」の考え方で整理されていたものの、お金の動きに関してはほとんど整理されていない状態でした。これを工事の監理工程とお金の動きを整理し、一覧化するところから関わりました。最終的には、工事監理ソフトの導入につながりましたが、基本部分をおさえることで大きく改善できました。

また、お金の動きに関しても、住宅改修工事では、着手金・途中入金・最終支払の3段階の入金が通例でした。事業高計上・経費計上に関する著しい誤りは、この入金ルールに起因することも判りました。結論的には、契約時に事業高計上し、未収金処理した後、着手金や途中入金等を未収金・入金処理する事に変更し、竣工時に「事業高補正(工事結果に基づく追加や値引き発生の調整)」の上で、最終未収金処理を行うようにしました。

住宅改修工事は、大規模なものでは、長期間の工期になることがあります。結果として、決算年度をまたぐケースも多いものです。事業高をどの時点で計上するかが「ぶれる事」は不正確な決算であり、不正や粉飾にもつながる可能性があります。

基本ルールを確認し、ルール通り実施されているかを点検する手順も必要です。

 

この活動を通じて、アドバイザリー機能として、次のような重要な事を学びました。

①現場の詳細な把握の重要性・・・

   実態の把握は、証憑や書類に頼るのではなく、ディスカッションを通じて、文字になっていない部分もしっかり把握する事。

②業務フローとしての有効性の検証

   ここでは、ISO的手法が有効でしょう。PDCAサイクルの確立、特に、プロセスチェックの有効性の視点で、誤謬や不正防止がシステムとして機能できているかが重要。

③改善のための「ヒント」の提供

   改善策は内部監査から直接的に提示せず、呼び水(ヒント)を提示する。具体的にどうするかを考える工程が重要。

 

そして、最も重要なのは、監査初めて「アドバイザリー」であり、それを実施するのは対象部署・部門の職員自身であるという事です。ですから、課題の整理や具体的なルールの策定などは、じっくり部内で話し合い、確定させることが必要です。内部監査はそれを見届けるという役割に徹する事。指示や命令は行わないという姿勢は貫く必要があります。

こうすることで、翌年度には、業務監査を実施し、整理された業務フローに基づき、適切に業務執行されているかを監査できることになります。指示や命令を行っていたり、ルール作成に直接的に関与していると、適切な監査にはなりませんので注意が必要なところでしょう。

 


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アドバイザリー機能について② [3-内部監査参考情報]

くらしのサポート事業へのアドバイザリーも、ほぼ同様でした。

ただし、くらしのサポート事業部に関しては、経理部から未収金(業者入金分)の処理に関する問題がサポート事業部長宛てに提起されており、その改善に関して部長自身、全く対応できないという恥ずかしい状況が生まれていました。当然、内部監査の定期監査でもこの点を追及することになり、トップへの顛末が報告され、トップからの指示で、アドバイザリーとして入ることになったものでした。

 

くらしのサポート事業は、旅行事業・チケット販売事業・通販頒布事業・文化事業・葬祭事業等、多様な事業を実施しており、先の住宅事業とは違った難しさがありました。

例えば、多くの事業が、外部業者との委託関係で成り立っているため、生協内部のルールだけでは成立しません。外部委託先は、月度決算日が月末というところが少なくなく、生協の締め日とのずれによって発生する問題もありました。

 

また、チケット販売事業では、買取チケットと置きチケット・利用実績(優待)チケット等、個別に扱い実績の違いがあり、計上方法が細かすぎて管理不能という状況でもありました。現在取り扱っているチケット類を一覧化し、区分(買取・置き・優待)分けするとともに、月次計上のルールも整理。一部では在庫棚卸の実施要領も確定させるところまでアドバイスすることになりました。

 

通販頒布事業では、途中キャンセルの処理方法が曖昧で、一旦事業高計上したものが後日取り消されることもままあり、結果的に事業高計上に誤りが生じている事も判りました。そこには、未収金という考え方がなく、結果(通販頒布実績)を追う事で返品に対するルールができていない点を指摘し、未収金計上ルールを適用することをアドバイスしました。

 

葬祭事業では、葬儀実施期日で、事業高計上を行うことにしていましたが、実施業者(葬儀社)が1社は施主支払い後の社内計上後の計上という実態にあり、月ずれが頻繁に起きている事も判りました。墓石斡旋においては、2年がかりというものもあり、計上されているかどうかさえあやふやな状態になっていました。

これらの問題一つ一つを解しながら、計上ルールの確認と手順整備を行いましたが、根本的な問題として、こうした、個別事業の独自のルールを包括して認識している担当が居ないということがありました。

当時、くらしのサポート事業部は、部長1名、担当2名、パート4名という体制でした。部長は、こうした、事業内部の処理ルールは理解しておらず、担当者が提出する月次報告(事業高計上)を、予算に照らしてどうかという判定だけして、押印し経理部へ送付するというお粗末な状況でしたので、提出された数値が正しいかどうかは担当丸投げという状況でした。結果的に、事業高計上後の未収金処理(外部業者からの入金点検)で、大きく誤差が生じ、回収不能な未収金が長年発生していたわけです。

経理部でも、未収金と入金の照合プロセスはありましたが、良く調べてみると、未収金計上された業者名と入金業者名が異なる事例が幾つか発見され、あろうことか「金額を頼りに」未収金処理(取り消し)を行うという粗末な状態でもありました。これでは、何が正確な数値なのか判りません。この問題にぶち当たった時、私は経理部課長と一緒に、過去2年くらいの数値を追い続け、結果的に回収不能金の存在を特定するに至りました。(この件は、ちょっと厄介なのでこれくらいで・・経理部長の責任問題にもなりますし、現在もその方はいらっしゃいますので)

 

いずれにしても、事業部門(現業)では、時として、「イケイケどんどん」の体質が強く、経理処理・決算処理に関して、スキルも経験も低い職員が管理者(課長や部長)になるようなところがあり、細かい点まで「正確性」を求めることは予想以上に難しい事なのかもしれません。だからこそ、内部監査部門が、アドバイザリー機能を発揮して、不十分な点を明確にして、必要な措置を講じるまで見届ける事が必要なのだと思います。

そして、こうした内部監査によるアドバイザリーによって、次期管理者の育成も目指していくことが重要なのではないかと考えます。丁寧に業務を把握し、適切なルールや手順を検討し、ヒントを与え考えさせることは、マネジメントの基本と通じるとこがあります。だからこそ、次期管理者層とがっちり組んで、部の立て直しを図る事ができればそれだけで十分組織貢献になるのではないかと思います。

 

対象となる事業や業務に精通していなくても、いや、精通していないからこそ、目の前で行われている業務が、上から下へ水が流れる如く、さらさらと流れるようなフローになっているか、そして、その流れの途中に、監視・点検するところがあるか、そういう視点で俯瞰して見る事。そして、流れがよどんでいたり渦を巻いていたりするところを見つけた時、どうすればすんなり流れていくかを一緒に考える事が、内部監査人に必要な資質だと思います。

業務監査では、その視点の中で「問題点」を指摘し、改善指摘を行う事になりますし、アドバイザリーでは、ともに考え解決策へ当事者を導くことが役割なのだと思います。

そうすれば、内部監査は、働く職員にとっては大きな味方になりますし、経営者にとっては経営を支える重要なポジションであることを理解いただけるはずです。

 

今、とあるNPO(特定非営利団体)のお手伝いをさせていただいております。NPOとしては、割りの大きな所帯で、介護保険事業やたすけあい、子育て支援、若者の縁結び等、地域の協同を構築するためにできることを手広く展開しています。しかし、運営面では、まだまだ未整理部分が多く、ボランティア精神(自主的自覚的な心意気)に支えられています。個人技の上に成り立っているところも多く、今後、活動をさらに広げていくためには、マネジメントの強化が必須になっていると考えています。これまでの経験を生かし、高いボランティア精神を如何なく発揮し、より合理的で有効な活動を構築できるよう、自らも学びながら取り組んでいきたいと考えているところです。


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