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「ストレス」について考える② [7-マネジメント]

「ストレスケア」のための「ストレスチェック」は、現在、広く普及しているようです。


厚労省から、「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」が示され、「職業性ストレス簡易調査票」まで例示され、その活用方法にまで細かく言及されています。これを基に、高ストレス者を抽出し、面接指導によって改善を図ることなど細かく示されています。

ここまで細かく決められると、そのまま受け入れて実施しているところも少なくなく、もはや「ストレスチェック」が一つの業務プロセスになっていて、毎年同じ設問のチェックに取り組んでいるところも多いと思います。

専門家が知恵を出して作ったものなのでしょうが、どうにも納得できないことが多いと思うのは私だけでしょうか?


何が納得できないかというと、労働者のストレス状況を「自記式」チェックを基に数値化して「高ストレス者」を抽出し対処するということだけが先行しているということです。


これって、「健康診断」と似ていませんか?

定期健診で異常がなければ「健康」、何か異常があれば、再検査を受けることになる。そこで、重大な病気が発見されれば、自己責任で治療を行う。例えば、劣悪な労働環境にあって健康被害がある時、健康診断で同じ職場で同様の疾患が多数見つかれば問題になるでしょうが、そうでなければ、企業責任はなかなか追及できない。そういう訴訟は後を絶ちません。

「ストレスチェック」も同様ではないかと思うのです。


今、障がい者相談支援センターにいて、日々の相談の半数近くは精神障害です。うつ病を発症し仕事ができなくなって引きこもり、収入が途絶えて、生活再建の相談というケースがかなりあります。うつ病発症の原因は様々ですが、若い相談者の多くは、仕事が原因というケースが多いように思います。中には、この「ストレスチェック」で、高ストレス者となり、産業医の面談で「勤務停止」と言われ、それがショックでうつ病になってしまったという事も聞きます。(家族からの話なので真偽を確かめたわけではありませんが)


何のための「ストレスチェック制度」なのか。

制度設計の根拠となっている「労働安全衛生法」の第1条(目的)には以下のように示されています。

「労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。」


さらに、「ストレスチェック制度」マニュアルには、「労働者のストレスの程度を把握し、労働者自身のストレスへの気付きを促すとともに、職場改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることによって、労働者がメンタルヘルス不調となることを未然に防止すること(一次予防)を主な目的とした」と記載されています。


残念ながら、その後に続く「基本的な考え方」では、ニュアンスが変わってきて、メンタルヘルスケアを「労働者自身のストレスへの気付き及び対処の支援並びに職場環境の改善を通じて、メンタルヘルス不調となることを未然に防止する「一次予防」、メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な対応を行う「二次予防」及びメンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援する「三次予防」に区分したうえで、「第1次予防」(労働者自身の気付きと対処支援)の強化のために、ストレスチェック制度を導入するとなってしまっています。そして、事業者(経営者)には、「メンタルヘルスケアの方針・計画・取り組み・評価・改善(PDCA)を進めることが望ましい」という表記で、経営者への義務化はあいまいにされているのです。


理論的に考えても、やはりこれは「健康診断」と同じです。

「ストレスチェック制度」を運用し、高ストレス者を発見し、産業医などの面接を通じ、「治療」や「勤務停止」という判断をあおぐところで、経営者の責任は免れてしまっているようです。「会社は守られても労働者は守られない」という構図になっているわけです。


これでは、根本的な問題解決にはつながらないでしょう。

利口な経営者であれば、コストを最小限に抑えることができる方法として、こぞってストレスチェック制度を導入するに違いありません。すでに、簡易チェックシートも示されているわけですから、人事部に指示して、マニュアルに沿って、年次でチェックを実施し、その結果を報告させることで経営責任を免れたつもりでいるに違いありません。


賢明な経営者は、この制度を活用し、その結果を「企業評価」「事業評価」と受け止め、ストレス低減のため、職場環境の改善や業務改善の方策を事業所ごとに指示し、その結果を報告させ、内部監査にチェックさせるという指示をするはずです。


話が少しずれてしまいましたので、戻します。

ストレスチェック制度では「職業性ストレス簡易調査票」が大きな役割を担っています。

57項目にわたって、自分に当てはまるものを記入するものです。

設問を一度は見た方、毎年見ているという方もいると思いますが、例えば、A-1)非常にたくさんの仕事をしなければならない。とか、A-6)勤務中はいつも仕事のことを考えていなければいけない とか、B-1)活気が沸いてくる B-4)怒りを感じる B-18)悲しいと感じる などかなり観念的な質問が多くなっています。

以前勤めていた生協でも同じようなシートチェックがありました。

どういう結果が出るのかと思いながら、ひどい評価になるにはどうしたらよいかなどと思いながら書いてみました。

内部監査室は私一人の部署でしたから、組織的にはたいした問題にはなりません。ひどい評価になるように記入すると、人事部から呼び出しがありました。専務と面談し、事の顛末を説明し、前述のような点を上申しました。専務も納得し、ストレスチェックの結果に関して、人事部長から各管理者に対して、業務改善報告書を出させる通達がなされ運用変更となりました。(不十分な点はありますが一歩前進しました)


ストレスチェックの項目内容もかなり問題はあると思いますが、専門家が知恵を絞って作られたものですから、評価する立場にはありません(かなり言いたいことはありますが)。

それよりも、「リスクマネジメント・内部統制システムの一つとして有効に活用すること」が重要なのだと言いたいのです。

せっかく運用されているものをどう活用するか。マネジメント改善につなげる事が肝要でしょう。

業務に不満や悩みがあるという職員がいるという事実を掴み、具体的に何が問題なのか、どこにストレスを生み出す原因があるのかを見つける事。個人の評価ではなく、職場の評価であるという受け止めをすることから始まるはずです。それが、リスクマネジメントに通じる道ですし、職員を守ることにつながるという考えをもっていただきたいのです。

そして、管理職の役割であるという姿勢を具体的に見せる事。

例えば、個別面談で業務改善提案を受ける場を作るとか、朝礼や終礼等で改善提案を受けるとか、様々な場面で、常に業務改善に取り組むことを事業所の風土にすることに、管理職には最も心を砕いていただきたい点だと考えます。


福祉の現場は、人間と人間が接するところです。職員に「ノーストレス」なんてありません。もしそういう人がいるなら、おそらく、その人自身がストレスの原因になっているのかもしれません。あるいは、利用者にストレスを与えているかもしれません。ストレスチェックの結果が良い人こそ、謙虚に自分を見つめなおしたほうが良いかもしれません。

 

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