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福祉現場の「虐待事案」をマネジメント視点で考える② [7-マネジメント]

もう一つ別の視点で考えましょう。

「虐待」とは何か。

ここでは、福祉の現場で語られる「虐待の定義」を持ち出すつもりはありません。それは専門外です。

マネジメント理論から「虐待」をどうとらえるかということです。

支援・介護の現場で、「虐待」は、当事者の人権を否定する言動を取る事であり、本来あるべき姿・目指すべき目標・目的から大きくそれた事象です。言葉や暴力だけではなく、本人の意思を無視する行為全体です。

これは、大きな意味で「不正」だと言えるでしょう。

「虐待=不正」と捉えれば、以前、マネジメントの中で述べた「不正を生み出すトライアングル」の「動機・機会・正当化」の考え方が適用できます。


動機=ストレスや苛立ち

機会=制止する力が働かない状態(新人と二人)

正当化=「利用者のため」というワード


虐待防止対策の一つとして、トライアングルを成立させないマネジメントを行うことです。


①動機=前述した「トリガー」は、動機の一つにすぎません。

「ストレスや苛立ちの抑制」というのは、現場ではなかなかむつかしい課題です。ですが、チームケア(一人に大きな責任を負わせない・ストレスを生みやすい場面では交代しながら対応する等)で改善を図る事はできるはずです。

障がい者支援の場面では、その人の障がい特性をチーム全体で正しく共有することで、ストレスが誰か一人に偏らずに済むということもあります。

※「ストレス」という言葉は今や日常的に使用されるようになっていますが、ちょっと安易に使いすぎているように感じています。もちろん、それが原因で、様々な問題が発生しているのは事実なのですが、何か問題事象の「言い訳」のような側面を感じるのは私だけでしょうか?同様に「しんどい」という言葉もやたら聞くようになっています。この点については、別の機会に考えてみたいと思います。


②機会=ストレスを発散するようなチャンスを作らないということ。

1対1になるとか、密室にしないとか、とにかく、虐待に至るような場面を作らないということが重要です。介護の現場では、避けられない課題だと思います。トイレ介助とか、行動援護の場面、ホームヘルプや入所施設の深夜という場面。対人援助において、1対1という場面は数多く存在します。

それだけ、「機会」リスクは高いという前提でマネジメントすることが必要になります。

その一つは、”制止する力”を強める事。

ありきたりなことで言えば「監視カメラの設置」などがその一つです。

あるいは、管理者が絶えず職員の行動を監視するとか、相互牽制などがあるでしょう。

第3者によるチェック体制も有効でしょう。介護保険サービスにおける「ケアマネジャー」や障がいサービスにおける「計画相談・専門員」が、定期的にモニタリングすることもその一つです。

言い換えれは、「責任ある立場にいる人・管理する人・監視する人ほど、機会を作りやすく虐待を起こしやすい」という理解をしておくべきです。

管理職・管理者は肝に銘じるべきですね。

相互監視の目のない場面を作らない事。風通しのいい職場(上下や経験の有無に関係なく、相互に指摘しあえる関係)を作る事が対策になります。


③正当化=今回のシナリオでは、通所作業所で決まった時間に作業を始めないといけないというプレッシャー、工賃を上げなければという強い思い、厳しい言葉を投げつけてでも、利用者を動かして作業させることが「利用者のため」になるという誤った理屈が、経験ある職員に「正当性」を持たせてしまった。

そしてそれは、組織全体にあるのかもしれない。


まず、そういう考え方の組織風土や仕組みを改革すべきでしょう。(B型作業所の工賃の問題は制度設計上の大きな問題ですが・・)

「利用者のため」とはどういうことなのか、たえず、職場で考えていくことが必要です。

例えば、時間内に食事を終えなければならないから、無理やりスプーンを利用者の口にねじ込むとか、利用者の希望通りに入浴を行うために、裸にした利用者を浴室前に待たせておくとか、徘徊などの異常行動が強い人を鍵のかかる部屋に長時間入れておく(閉じ込め)とか、他害行為が見られる人を拘束する(緊急時対応を除く)とか、「利用者のため」と称して結果的に虐待に至るケースは多いようです。虐待のリスクは常に存在しているという認識で考えておくことが肝要です。

全てを「利用者のため」と捉えるような風土があるとすれば一掃する必要があります。

一人一人の利用者の権利と尊厳を守る事こそ、「利用者のため」であるはずです。それを無視した「利用者のための行為」は存在しないはずです。


動機と機会と正当化の3つの条件が揃わないようにマネジメントを行う。それこそが「虐待防止策」になるのです。

今回の研修から「施設管理者のマネジメント力が問われるケース」だということを改めて確認できました。

虐待が起こると、虐待行為を行った当事者はもちろん厳しく指導されます。

ここも一つ考えるポイントがあります。

例えば、当該事業所の管理者から「虐待の当事者」に対して厳しく指導するというのはどうでしょう。

事業所の組織風土や日常のマネジメントに問題があると虐待発生の「動機」や「機会」を作り出していることになります。そしてその責任は管理者自身にあるはずです。

そういう問題のある(マネジメント力のない)管理者から「虐待に対する厳しい指導」を受けても、さほど効果はありません。

こうした時は、第三者(利害関係のない)による事業所全体の指導・指摘が有効です。虐待防止委員会がその任を担うことになるでしょう。

いろいろ書きましたが、今回の虐待防止研修シナリオから、かなり多くのマネジメント課題を発見できました。

「虐待」発生は、組織全体のマネジメントの異常にあると考え、マネジメントの視点で、虐待防止対策を実施することができれば、組織は大きく変わると考えています。


蛇足になりますが、よく虐待防止のために「通報制度」というものが取り上げられます。

もちろん重要な機能であり、きちんと活用すべきです。

しかし、その機能も、組織全体が不正常なマネジメント状態にあれば効果はありません。管理者自らが虐待を行っていれば、通報されたとしても事業所内ではもみ消されるでしょう。第3者機関が関与するような、通報制度になっているかも問われます。

ある事業所の話ですが、「通報制度=投書箱」という形をとっていて、そこには鍵もかからないポストがあるだけだそうです。

ある利用者家族が、苦情(虐待を目撃した)を入れたのに何の対処もなかったと話されていました。その法人の施設長に確認したところ、そうした投書の報告はなかったということでしたが、その後、施設長が事実を再確認し、運用方法を大きく変更したと、後日聞きました。利用者やその家族の声がないがしろにされているということは、職員の内部通報はさらに意味をなしていないことであり、組織全体に虐待の温床(環境)があるということを示しているのではないかと危惧されます。

内部通報などの制度運用より前に、日々、その場その場で「危うい」と感じたとき、すぐに指摘すること(自浄作用)ができるような職員の関係作りにもっと注力する必要があると思います。そうすることで当然、通報制度の有効性も高まるはずです。

素直に人の指摘を受け入れることができること、間違った時すぐに誤りを認めることができる事、そういう職員づくりが大事になると思います。

そういう点では、虐待防止にはマネジメント力の向上こそ重要だと言えますね。

虐待研修を通じて、多くのことを考えてしまいました。

 

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