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「福祉専門職の業務」に関する監査 [5-監査事例]

福祉事業所の業務監査の中でも「専門職種の業務」については、独特な監査視点が必要でしたので、少し解説をしておきます。

 

私のいた生協では、福祉事業部門としては、いわゆる「介護事業」が主体で、居宅介護支援事業(ケアマネジャーによるケアプラン作成・サービス管理)と訪問介護事業(ホームヘルプ事業)、通所介護事業(デイサービス)、福祉用具貸与・販売事業、地域包括支援事業などを展開しておりました。

 

いずれの事業も、介護保険制度上の「認可事業」であり、法令要件を満たしておくことは大前提です。そして、それぞれの業務者には、有資格者が当たることになります。

 

訪問介護事業や通所介護事業、用具貸与事業など、いわゆるサービス提供側の事業所では、チーム運営・マネジメントが重要であり、専門職種(ヘルパーや介護福祉士・看護師・社会福祉士などの有資格者の集団的サービス提供体制が取られます。その意味で、業務監査の一つの視点としては、チームとしてのマネジメント(QMS:サービス品質)が適正か、有効かをしっかり見ることになります。

一方で、居宅介護支援事業(ケアプラン作成・サービス管理)では、事業所全体のマネジメント(個々のケアマネジャーの業務管理)は存在するものの、極めて脆弱な状況にあります。それは、ケアマネジャーの役割が、利用者個別の相談・プラン作成・サービス調整などを行う、いわゆるマネジャー(マネジメント)であるためです。事業所管理者が、個々の利用者のプランやサービス調整の状況を把握し、承認する権限を有しないため、個々のケアマネジャーの「単独業務」・・セルフマネジメントに委ねられる構造になっているためです。もちろん、加算要件(特定事業所加算など)を取得するには、ケアマネ会議の定期開催や主任家マネの配置などと言った細かい要件をクリアすることになり、ある程度、管理者の関与は発生しますが、小規模事業所の場合、「ケアマネ(=個人事業主」の集まり」に過ぎないのです。

 

実際、業務監査の際、ケママネジャーの業務実施状況を確認する為、成果物である「ケアプランなどの個人カルテ(記録)」を点検すると、ファイリング方法はまちまちですし、必要書類の不備(保管ミスや作成名地陽の不備)が多数発見されます。近年になり、電子カルテ化されていても、作成途中だったり、重要な情報が誤っていたり、サービス管理上の不具合が放置されていたりと、あきれてしまうような実態を目にすることになります。

なぜこのような事が起きるかは明白です。ここのケアマネ業務に対して、他者による点検の仕組みがないためです。法的にも必要としていていない(行政による実地指導で発見され是正指摘を受ける以外は)ためなのです。

このような実態は、利用者へのサービス低下やサービス提供側のミスを招く要因になりますし、保険請求時のサービス管理ミス・誤請求を誘発し、ともすれば、損失につながりかねません。結果的に、事業所管理者の管理責任が問われるのは明白なのです。

私は、業務監査の度に、「ケアマネ業務のマネジメント強化」について指摘していました。はじめのうちは、管理者もさほど危機感を持って受け止めてもらえず、中には、「ケアマネは個人事業主だから」と開き直る様な管理者さえいました。

 

しかし、事件が起こりました。

あるケアマネが必要な手続きを怠っていた状態で、3ヶ月経過し、行政(保険者)から該当期間分のサービス提供(保険請求)を認めないという決定を受けてしまったのです。当然、サービスは提供されているわけですから、3ヶ月分のサービス料全額をサービス提供側へ補てんする責任が生じます。その結果、大きい欠損金を産んでしまいました。当該のケアマネは、日ごろから独善的な業務姿勢が強かった事もあり、最初の行政からの通知を無視してしまった事が後々厳しい処分となってしまいました。

 

この事件をきっかけに、業務監査における指摘事項に対する管理者の受け止めは大きく変わり、問題の本質追及と是正・改善策について、具体的に相談されるようになりました。

居宅介護支援事業所の管理者はほとんどが、ケアマネ有資格者が担っていました。ですから、ケアマネ業務の手順やルールには明るいはずですが、実は、他者の業務内容を見る事はほとんどないに等しいのです。もちろん、ケアマネの研修(認定・更新)ではグループワークによる研修が実施されるため、共同作業の経験は持っているわけですが、実際の業務となると、結果的に「自己流」が通用してしまうのです。そのために、何が正しいのかという事になると、意外とあいまいな部分が多いのです。

 

事件の後の監査から、この問題について、少しずつ解しながら改善を働きかけてきました。

初めに着手したのは、ケアマネの業務日報の運用でした。ほとんどの事業所では、予定表(訪問先や業務予定)は作成していましたが、結果の確認ができていませんでした。そこで、業務日報の作成を要請しました。まずは、報連相の「報」の強化です。ここのケアマネが毎日どのような業務を行っているかを管理者が把握できる仕組みを作る事です。すると、個々のケアマネで、例えば「利用者との相談時間」の長さが極端に違っている事が判りましたし、プラン作成の実務にかける時間も、サービス調整にかかる時間も、かなり差がある事が判りました。能力の差だけでなく、仕事のスタイルの差が著しいのです。当然、受け持ちプラン数が同じなら、残業発生の状況に大きく差が生じてくるわけです。ここから、改善していく課題が発見されました。

 

次に、作成書類の統一化・インデックス作成を提案しました。利用者カルテの点検を通じ、ファイリング方法がバラバラで点検しづらかった事から、まず、ファイリング方法を統一し、インデックスを作成すると、未作成のままでいた書類や不足している書類がすぐに発見できるようになりましたし、利用者の引継ぎに際してトラブルも減少させることにもつながりました。また、統一化を進めるにあたって、個々のケアマネの仕事ぶりも把握できるようになりました。もちろん抵抗がなかったわけではありませんが、ある事業所でこの提案を実践した直後に、行政による実地指導を受け、ファイリング方法に関して高い評価を得たのです。これは事業所会議で報告され、部会でも書式統一・ファイリング統一の機運が高まり、一気に広がっていきました。

 

この2点の取り組みだけでも、個々のケアマネの業務管理・マネジメントが改善され、特に、若手のケアマネ(経験年数の短いケアマネ)にとっては、「報連相」のしっかりした事業所で働けることでの満足度が高まったと思います。(実際、監査の休憩時間などで、雑談しているとケアマネからそういう声をいただくことが多くなりました)・・若手のと書いたのは、やはり、長年「自己流」で縛られずにやってきた熟練ケアマネにしてみれば、余計なお世話という感覚が消えなかったようで、「仕事が増えた」という愚痴は聞きましたが、実は、そういう方こそ、ミスが多く重大な事案につながるリスクが高いのです。先に記した事件も、実は、事業所管理者と創業以来のケアマネ2名の独断による重大なミスだったわけです。

 

訪問介護事業や通所介護事業、用具貸与事業でも、小規模になると固有の業務分担(生活相談員やサービス提供責任者など)で、他者の目が届かない(監視されない)業務にある場合、同様のリスクがあると認識すべきだと思います。(用具貸与では、先の事案と同様の手続きミスによる欠損金発生事件があった)

 

基本は、「報連相」と業務プログラム(手順)の統一化と明確化にあると思います。この点は、ISO9001(品質)規格の中でかなり細かく、要求事項とされており、内部監査による適正性と有効性チェックが行き届いていれば、すでに着手されているかと思いますが・・・。内部統制システム上でも、モニタリングの重要性は言われていますし、手順・プロセス管理の重要性も言われています。いずれにしても、マネジメントの改善に内部監査が最も力を発揮することができる領域だと思います。


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