「大規模災害(危機管理)態勢」に関する監査① [5-監査事例]
活発な梅雨前線による記録的豪雨で、西日本から東海の広い範囲で、水害や土砂災害が発生し、多くの方が命を落とされました。ご冥福をお祈りするとともに、被害に遭われた方に対してお見舞い申し上げます。
私の住んでいる滋賀県でも、琵琶湖の水位が上昇し、自宅前の白砂青松の「萩の浜」は水没し、あと僅かのところで氾濫という状態でした。市の防災ラジオからは、臨時放送が流れ続けており、避難指示にまでは至りませんでしたが、行政としてかなり神経を使っている事は実感しました。なにしろ、数年前には、市内を流れる鴨川の決壊で、広域に水害に見舞われた地域だっただけに、今回もかなり心配しておりました。
「天災は忘れた頃にやってくる」
とにかく、日ごろからの備えが重要と言われていても、これがなかなか難しいものです。
西日本や東海エリアの生協の皆さまは、いかがでしょうか?
今回は、少し掲載順を変更して、「大規模災害」に関するテーマ監査を取り上げることにしました。
こういう時だからこそ、自組織の備えはどうなのか、内部監査の立場として検証する事が重要だと思います。
内部統制における「リスク・マネジメント」では、リスクアセスメント(評価)をスタートにしています。私のいた生協でも、内部統制事務局から、部門長(管掌役員・統括部長)に対して、自部門のアセスメントを要請し、集約し、重点リスクを抽出する作業を毎年行っていました。
アセスメントの基本は、「事業への影響度[×]発生頻度」で点数化され、上位のリスクが重点と定められていました。(この方法にはある問題点があり、内部監査として改善提案をしてきましたので、別の機会で詳しく述べたいと思います。)
この方法では、頻度の高い交通事故や違反といったリスクや、発生影響度(社会的信用の失墜による事業影響)から「役職員の不正」「商品供給事故」等が入るわけです。
それと同様に、東日本大震災や熊本地震等により「大規模災害」リスクは、甚大な被害・事業継続の危機という意識から、必ず上位となっており、大規模災害に対して「危機管理規程」「大規模災害マニュアル」「BCP(事業継続計画)」といったものが整備され、定期訓練や災害備品の充実といった取り組みも年々強められています。
したがって、内部統制の有効性評価(独立的モニタリング)のためには、この「大規模災害リスク」に対する対策・統制システムの構築評価も、当然、内部監査の対象領域となってきます。
では、どのような監査を展開すればよいのでしょうか。
大規模災害対策は、ほとんどの場合、組織全体に関わる問題として、発生した場合、統括部署(危機管理本部)が設置されて、事業継続計画(BCP)に基づき、2次災害防止や復旧のプロセスが示された規程が定められていると思います。したがって、大規模災害対策に関する監査では、本部系(管理系)の部署監査が主体になると考えられます。
私も当初は、そのようにイメージし、経営管理部や人事総務部を対象とした監査を実施していましたが、余りにも「概念的」な監査になりがちで、大規模災害の想定被害やその場合の対応という、いわば机上の空論ともいえるような領域の検証になってしまい、監査の有効性に疑問を感じていました。
そこで、事業所監査の中で、大規模災害対策の有効性評価ができないかと考えました。(環境ISOを主としている生協では、規格要求事項の中に「緊急時の対応」が重視されていて、その範疇で大規模災害に関しての備えも検証されていると思いますが)
事業所監査で「大規模災害対策」に関わる領域は以下のようなワークシートを使用しました。
なお、その際、領域設定は、「防犯・防火・災害対策」を一括りにしていました。(環境ISO:緊急時の対応をベースにしたため)
1) |
●規程・基準・手順 |
2) |
●リスク評価 |
3) |
●管理体制(法令基準・防火管理・防災体制) |
4) |
●運用(1)防火管理体制 |
5) |
●運用(2)大規模災害対策 |
6) |
●運用(3)その他の危機管理 |
7) |
●監視・モニタリング |
8) |
●不適合管理 |
9) |
●是正・改善:違反・問題発生後の是正・再発防止策の有効性 |
10) |
●IT対応 |
監査の結果は、事業所単位で「是正・改善」が必要な事項は指摘事項としましたが、それとは別に、事業部門単位で整理し、事業別の課題にまとめることにしました。その結果、重大な問題が見つかりました。
宅配事業では、「配送中の対応」に関するルールが未整備だったことが判りました。実際、過去には、「ゲリラ豪雨による道路冠水が各地で発生、生協車両が水没する」という事故が発生しましたし、「大雪による高速道路通行止めに伴う物流センターからのセンター納品不能」も発生していました。こうした災害発生時の配達ルールはある程度は作られているのですが、全県エリアでは、局地災害への対応が不十分だということが判り、事業共通ルールに基づく事業所ごとの運用ルールと訓練が重要だということが判りました。
店舗事業では、「災害による長時間停電」への対応の不十分さが判りましたし、店舗共通ルールとしては、災害発生時の対応者は定められていて、安全を確保したうえで「できるだけ早く開店する」とされているのですが、実際、POSレジは稼働できず、レジ機能が確保できない限り供給はままならない事も経験済みでした。それへの対応・対策は進んでいませんでした。
福祉事業では、通所においては「豪雨や積雪・台風などでのサービス休止」は事業所長判断することが定められていましたが、訪問介護事業では「可能な限りサービスを提供する」ことになっていて、実際、ゲリラ豪雨発生の際、ヘルパーが帰着できない事態も発生していました。また、サービス提供中に「大規模災害(大地震)」が発生した場合に、利用者の安全確保や避難誘導をどうするかは決められていませんでした。
組織全体の「災害対策マニュアル」や「BCP」が立派に整備されていても、日常業務の現場では、未整備な部分がかなりあり、それらは、全体のマニュアル・規程では対応できるものではない事も判りました。
結果として、事業別災害対策マニュアル・事業所別マニュアルの整備と教育訓練が重要であることは明白でした。この点は、事業部門別監査報告の中にしっかりと書き込み、事業本部への改善提案としました。
特に、近年では、広域の大規模災害だけでなく、ゲリラ豪雨の様な局地型災害が頻発しており、事業の中枢を担う物流センターや電算センターが被害に遭うと、事業全体が停まってしまう事態も想定されます。また、宅配事業では大規模センター化が進んでおり、配達エリアが広く、センター周辺では全く問題はなくとも、配達先が大変な状態というのも珍しくありません。こういう細かい部分にまで神経を使って、対策・対応を作っていくことがますます重要になってきていると思います。