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「労務監査」の勧め⑤ [5-監査事例]

時間管理に関する事例を2つ取り上げましたが、労務管理監査では、これ以外にも重要なテーマは沢山あります。

「労働安全衛生」に関する課題もそのひとつです。

労災事故だけではなく、メンタルヘルスの問題も年々増加しています。ハラスメント問題も重要でしょう。職員の高年齢化に伴う健康管理の課題も年々強まってきています。

人事部へのヒアリングを行うと、こうした問題はまるで「モグラ叩き」で、一つ解決してもすぐに次の問題が生まれるような状況にある事を、部長や課長から嘆きの様な回答を聞くことになります。

多様な雇用形態になり、職員間の価値観も多様化して、物事を単純に捉えることが難しくなってきている事も大きな要因ではないでしょうか。だからといって、見過ごすことのできない問題も多く、一つ一つ丁寧に取り組むしかないでしょう。

 

(1)「労働安全衛生管理プロセス」では、「安全衛生委員会」の仕組みが基本になります。

法定上、設置が義務付けられていますね。しかし、問題は運用実態です。私のいた生協では、「安全衛生管理規程」が明示されており、事業所単位の「安全衛生委員会」と組織全体を統括する「中央労働安全衛生委員会」が設置されていました。しかし、運用内容は、余り実効性があるとはいいがたいものでした。

 

1.最初は、この「P-D-C-Aサイクル」の「P(計画・設計)」の部分にメスを入れました。

P、すなわち、仕組みの中枢となる「中央労働安全衛生委員会」の役割・目的と有効なメンバー構成(法定)、毎月開催の内容の検証を行いました。そして、アドバイザリー機能として、事務局となる「人事部」とともに、改善に取り組み、人事部管掌役員の関与・指導を強めるよう、提言しました。プロセス全体を統括する骨格の立て直しから着手したわけです。

労働安全衛生法・労働安全衛生管理規程の二つを基準に、労働安全衛生のあるべき姿やリスク認識、PDCAサイクルのあるプロセス設計、主管部署(人事部)の役割等、人事部長だけでなく、管掌役員とも協議しながら、改善の方向や課題を整理していきました。当初、管掌役員(常務理事)は事の重大さは余り把握できておらず、協議を通じて重要性について共有していくところから始まりました。多忙な常務理事にとっては、労働安全衛生の領域は、重大な労災が発生しない限り、時間を割くことはないのが一般的でしょう。それでも、内部監査として進言・提言し続けることで徐々に認識の向上を進めたわけです。

結果として、中央労働安全衛生委員会の開催やメンバー構成、進捗管理、内部統制委員会への報告など、内部統制システムを構成する重要プロセスと認識されるようになったわけです。

 

2.次は、運用実態(「D」)の改善です。

各事業所の「安全衛生委員会」の開催実態は、惨憺たる状況でした。

安全衛生管理規程では、法定職場(従業員数基準)はもちろん、それ以外の職場も、安全衛生推進委員会を設置することが義務付けられていて、職場長が委員会を四半期開催することになっています(法定職場は毎月開催し報告提出義務あり)

しかし、まったく未開催の職場があり、法定職場でも構成員(労組代表半数以上)の基準を満たしていない実態もありました。中には、委員会名簿さえも作成できていないお粗末なところもありました。また、この状況の中で、法定職場の中で職場長が「安全衛生管理者」の資格未取得の実態も発見され、法令違反状態であることも判り、管理者任用時の要件見直しの議論も起こしました。(結果的にこの問題は店舗事業部門管掌役員からの反発がありうやむやになりましたが・・・)

事業所の業務監査では、必ず監査項目に「安全衛生委員会・推進委員会の開催状況の確認」を入れ、委員会の未実施・不完全実施の職場・事業所には是正・改善指摘を行いました。同時に、指摘事項を一覧化し、中央労働安全衛生委員会(人事部事務局)へ提示し、運用の改善を要請しました。協議内容よりもまず、きちんとした体制の下で、定期開催することから着手したわけです。

すると、事業所からは不満の声が出るようになりました。「話し合う項目が判らない」「毎月開催する必要があるのか」など、要するに、労働安全衛生委員会の目的(労働環境の安全確保・衛生管理の向上)が十分に理解されていなかったわけです。

この問題には、人事部とともに、通年の学習テーマや検討テーマを策定し、資料配布なども行う事で、意識の向上を図る事から取り組むことになりました。例えば、6月は食中毒防止、7月は熱中症対策、9月は災害対策、11月はインフルエンザ対策等、既設や前年度の事故状況からの検証テーマを揃え、情報発信することで、上長として開催すべき内容を提供する役割を人事部に持たせたわけです。

そのことで、開催後には報告書も作成しやすくなり、人事部から請求しなくても報告書が確実に提出されるようになりました。こうなると、各事業所の開催状況は人事部で把握しやすくなり、指導すべき事業所もある程度限定されることになります。

こうした流れを本来であれば、人事部長(人事部担当課長)が整備し進捗管理するのが本来の仕事だと思いますが、それができていなかったのです。だから、内部監査が指摘し改善提案するほかなかったわけです。

 

3.次は、労災事故の組織的把握と是正改善の監視に取り組みました。

労災事故発生時には法定報告は適切に実施されていましたが、組織内で共有できていませんでした。もちろん、重大事故は職場会議などでも報告されているようですが、報告に終わっている実態もあります。事故から自らの職場・事業所で同様の問題はないかを検証することはできていませんでした。

これには、データベース(掲示板)の設置と定期的な報告を行うよう提言し実施しました。ま

た、中央労働安全衛生委員会の役割の見直しの一つとして、各事業所への定期巡視活動(年2回)と人事部による独自モニタリングの実施を定式化しました。

最終的には、こうした取り組みの結果を「内部統制委員会」へ定期報告するようにし、安全衛生システムの監視体制を強化しました。

また、事業部門単位で「労災事故の共有化」が進み、作業手順における「安全確保」の検証と手順教育の強化も進みました。事業所内では「当たり前」に行っていた作業が実は労災事故を誘発する事があるという事例は、幾つも見つかりました。(おそらく、他の生協への視察などでそういう発見をされたことはあるのではないでしょうか?)

さらに、インフラの整備(安全な職場環境の保持)のための計画(修繕・補修計画)も作成できるようになりました。収益優先で、修繕・改修が遅れ気味のところも、安全衛生上の課題ではないかと再検証されることで、必要な投資が促進される動きになるという事です。

特に、店舗事業では、赤字経営の中で、従業員の安全衛生の視点が軽視され、バックヤードや加工場・商品搬入口等の老朽化が放置されているケースが見られます。もちろん、商品管理上の問題もはらんでいますので、安全衛生と商品管理・衛生管理の視点で再検証し、必要な修繕・改修を行うよう働きかける事が必要で、労働安全衛生の強化を通じ、大きく前進できたと思います。

 

 当たり前に行われているはずの事が、「コンプライアンス上問題がないぎりぎりのレベル」に留まっていて、形式的なものになっている事をまずは問題化し、システムの有効性を高めるよう働きかけるのは、内部監査の最も重要な役割だと考えています。

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