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時事問題から思う事(2)入試点数不正問題 [6-雑感・いろいろ]

東京医科大学における「女子学生や多浪受験生への入試点数操作による不正事件」。

 

予想通りの報告書内容だったように感じました。また、これに類似した「点数操作による合格調整」は他の大学でも行われているというコメントも数多く出ています。経営問題や、「需要と供給の関係」がこうした場面でも反映するのかと悲しくなってきます。

 

この問題が提起している事は数多くあるとは思いますが、「内部統制・内部監査」として留意しておきたいことを記してみたいと思います。

 

今回の踏査報告書では、前理事長や前学長による指示が指摘されています。報告書によれば「ヒアリングの中で臼井正彦前理事長は、女性は結婚出産で育児をし、その場合勤務時間も長くできないことを挙げ、女性は年齢を重ねると医師としてのアクティビティが下がるなどと話した」とされていました。そして、こうした点数調整が少なくとも2006年以降行われていた事が推認されるとしています。

 

憲法14条第1

「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的、経済的又は社会的関係において差別されない。」

 

教育基本法4

「すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。」

 

 言うまでもなく、今回の件は、明らかな「女性差別」であり、法に違反するものであることは明確です。(その後、文科省や文部科学大臣から「募集要項に明記すれば」「目的が適切なら」との擁護ともとれる発言がありましたが・・)

 

 法律や社会規範への順守「コンプライアンス」意識はどこへ行ってしまったのか。

 

 大学や医学界における「誤った」価値観・基準ががん然と存在しているのだと考えます。これは、組織にとっての常識が社会の非常識であるという典型例ではないかと思うわけです。閉じられた組織ほど、こうした問題を抱えているはずです。

 

 メディアを賑わす会社・組織の不正や事件は、「社内・組織内では常識的であり、組織のためにあるべき姿だった」というのがほとんどではないでしょうか。大手自動車会社やゴム・鉄鋼会社のデータ改ざんや不正事件も、経営のため、組織のためとしてトップの指示だったり、「トップの意向を組んだ」結果だったりします。

 

 私は、「生協内部監査ガイドライン」の冒頭で、以下の様な文章を掲載しました。

 

大企業による不正や不祥事は後を絶たず、社会的信用の失墜から経営危機を迎える事例が数多く報道され、その都度、内部統制の整備や内部監査の役割が問われています。法令順守はもとより、社会規範へ遵守、公正で透明な経営等といった社会的要求はますます高まっています。生協といえども例外とは言い難く、内部統制の整備や内部監査の強化はますます重要になっています。

 

そして、内部監査の本質として、以下の様にまとめています。

 

生協における内部監査とは、「人間らしい暮らしの創造と持続可能な社会の実現」を目的とする生協組織の経営諸活動の遂行状況を、合法性・合理性の観点から、公正・独立の立場で評価し、客観的意見を述べ、助言や勧告を行うアシュアランス(保証)業務と、個別の経営諸活動のアドバイザリー(支援)業務である。

 

生活協同組合は、組合員への貢献が最大の目的です。

 

組織論的に言えば、「組合員」という閉じられた組織であって、そこには、当然、独特な価値観や基準・規範が存在するものです。「組合員のために」という基準・価値観が優先することで、社会規範や法令に違反するような判断がなされるリスクは当然存在しているはずです。

 

極端な例かもしれませんが・・・。

例えば、総代会で決定した予算(剰余金予算)を達成し、出資配当を確保するために、取引業者への執拗なリベート要求を行うというような事がないでしょうか?

供給予算を達成するために、著しい価格引き下げ(赤字販売)を行い、その補てんを業者側や事業連合へ要求するといったことはないでしょうか?

今ではあまり見られないとは思いますが、「長時間労働・サービス残業」が発生する根本部分で、「経営のため(人件費抑制)」という価値観が存在していませんか?

組織の目的に照らして、多少違法性を感じながら、やってしまうという事は「事の大小」に限らず、常に存在するリスクがあると考えられます。

 

内部監査人は、こうしたリスク認識を持ち、監査に当たる事が必要です。

私の経験では、本部よりも事業所・現場の方が、こうしたリスクが高いと感じています。おそらく「組合員への最大奉仕の原則」といった考えが、働き甲斐にもリンクし、真剣に取り組めば取り組むほどに、社会規範や法令との矛盾を強く感じているように思います。

だからこそ、現場監査で発見した「コンプライアンス違反」については、厳しく指摘すると同時に、現場の苦しみをトップへしっかりと報告し、組織を挙げて是正・改善に取り組むよう提言する事が重要だと思います。

 

東京医科大学の今回の事件に戻りますが、10年以上継続してきた「点数調整」の作業はおそらく、入試担当の部署の中では問題があると認識していた職員もいたはずです。もしかしたら、問題提起をしたり、内部通報したり、外部通報もあったかもしれません。しかし、経営トップ(理事長・学長)へ進言し、是正・改善を求める役割を担う人物がいなかったのだと考えます。あるいは、そういう気骨のある人物がスポイルされてしまうような風土が醸成されている(トップによる専横的な運営)のかもしれません。

 

私が生協を退職した理由も、実は、そういう辺りにあるのですが・・・・。


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